絡人繰形店ーー紅茶と苦労
絡人繰形店二階、連華の自室にて。
「それじゃ幽香さんからアドバイスも貰えた事だし、そろそろ実行に移すべきだね小傘ちゃん」
「……あれってアドバイス、だったのかなぁ~?」
店主の岬影が来店したフランドール・スカーレットに首根っこ掴まれて紅魔館へと引きずられて行き早数刻。
連華が心から敬愛する四季のフラワーマスターこと風見・幽香の助言を受けた二人の付喪神は『多々良・小傘改造計画~目指せ恐怖の唐傘お化け!!(わぁこわい)』を最終段階へと進めようとしていた………いたのだが。
「……どうせ私なんか、誰にも怖がられない駄目妖怪なんだよぉ~」
「こ、小傘ちゃん気を確かに!!」
幽香の的確過ぎた助言は元より危うかった小傘のアイデンティティを根幹から粉砕していた。
そもそもサディストな面を持つ彼女に助言を求めた時点でこうなる事は予測できそうなものだが……
「幽香さんは…ほら、少しモノを率直に言い過ぎるだけと言うか、思ったことがそのまま口から出ているだけなんだよ!!」
それを連華に求めるのは少々酷な話である。
やはり人選ミスだったのか?と今更ながらに自覚した連華が慌ててフォローに入るも。
「それ……言ってる事は間違ってないって意味じゃない」
「はぅ!!」
火に油どころかニトログリセリンを注ぐ結果となってしまい。
(幽香さん……なんでまたあんな言い方を…)
連華はただ、風見 幽香の発言の真意を掴めず悩むばかりであった。
▲▼▲▼
その頃件の大妖怪、風見 幽香は小屋を後にした連華達が飛び去るのを見届け、静寂を取り戻した部屋の中で紅茶でも注ごうかと"二人分"のカップを取り出し湯を沸かし始めた。
彼女は扉の付近を一瞥し、何も無い空間へと自然な調子で語りかける。
「随分と早いお出ましね岬影、そんなにあの子の事が心配なのかしら?」
「別に、今回のこれは単なる興味本位だぞ?」
そう答え、分解中の身体を再構築した岬影は空いている椅子へと腰掛ける。
幽香もそれ対しては何も言わず岬影を見つめると。
「……親馬鹿」
「お前だけには言われたく無い台詞だな、それ」
間髪入れずにそう返した岬影だが、風見の大妖はそれを鼻で笑う。
一見、本当に興味の無さそうな顔を取り繕っているが幽香は知っているのだ、岬影が彼女等の…あの二人の付喪神の様子を見ていた事など。
「ふふ、娘の事が心配でコッソリ後をつける親のどの辺りが親馬鹿ではないと言えるのかしら、貴方も素直じゃないのね」
その言葉に一瞬苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる岬影だが、彼とて彼女とのやりとりに関しては相当手馴れていると自負しているのだ。
なので。
「そう言うお前もあいつ等に頼られて満更でもない顔してニヤついてた癖よぉぉぉ?!」
その頭に突き刺さった日傘はその証拠であると言えなくも無かったりする。
「……いつから身体の末端に視覚まで備えられるようになったのよ」
「あー大体100年ちょい前ぐらいたった気がするな」
もっとも、岬影の言うニヤついていたと言う幽香の表情の変化に気付く事が出来る存在はごく少数なのだが。
しかし、幽香にとっては岬影にソレを見られてしまった事自体が許せない訳であって。
「それで、わざわざあの子達をストーキングしていた貴方が、こんな所で油を売っている理由は?」
「ストーキング言うな」
「でも事実でしょう?」
「現実と事実は似て非なるものだ」
「そうよね、現実は常に非情なもの、その歪んだ性癖には竹林の医者も匙を投げだすに違いないわ」
……面倒臭ぇなコンちくしょう。
彼女との間に……と言うか幻想郷に住まう少女等の過半数との間に会話が成立しないのは毎度の事ではあるのだが。
彼女達がスペルカード同様に好む『言葉遊び』、岬影は嫌いだ。回りくどいのは自分の性に合わないらしい。
どちらかと言えば苦手なのだが似たような物である。
「まぁーあの後も暫く様子を見てたんだが、特に問題も無さそうだし今頃連華の奴が妙案を出してる頃だろ、あいつはアレでかなり頭が切れるそこにお前のヒントが加われば一発だ」
「当然よ、貴方の出る幕なんてどこにもないって事、それなら店の中で大人しくしていれば良かったじゃない」
確かにその意見も筋が通っているが。
「いやまぁそうなんだが、よ」
岬影はどこか遠い眼で。
「今までに連華が張り切り過ぎて頑張るとなんだかんだで俺が苦労する羽目になるパターンが多かったんでな」
すると幽香自身も身に覚えがあるのか?普段の彼女らしくない苦笑を浮かべる。
「確かに、あの子私が後ろで様子を見ていると直ぐにガーデニングの工程に現れるもの、せっかく綺麗な花の刺繍の入れ方を伝授していたのに私が注意しなければ指ごと刺繍の一部になってたわよ」
全くもう、と呟く幽香に全くだ、と頷く岬影。
共通の悩みで多少暖まった場で。
「つーか何で俺らこんな所帯染みた会話してんだ?年季の入った夫婦じゃあるめぇしよ」
ピシッ!!と空気が凍った。
「……紅茶、淹れてくるわ」
「お、おぅ」
見事なまでに竜頭蛇尾な返事をした岬影だが、"無"を通り越して"武"表情と化した幽香の顔を見れば無理もない。
彼女としては普段からそのネタで弄んでも無反応の癖に、さらりと切り出した岬影に腹が立った……のか立っていないのかよく分からずにいたのだが。
何はともあれ、紅茶である。
「淹れてきたわよ、まぁ緑茶派の貴方の舌に合うかは分からないけれど」
「俺が緑茶派だと知った上で紅茶を淹れてくる辺りがお前らしいよな、折角なんで頂くが」
こうは言ったが別に岬影は紅茶が嫌いな訳ではない、どちらが好きかと問われれば緑茶と答えるが紅茶には紅茶の良さがある。
把手を掴み先ずは一口。
「……ん?」
違和感を感じたのかティーカップから口を離した岬影、釣られるように幽香の視線もそちらへ向けられる。
「紅茶葉……変えたのか?」
「えぇ、まぁあの子の薦めでちょっとね、お気に召さなかった?」
「いや、今までの奴より俺の好みだぞ……連華の野郎狙ってやりやがったな」
この光景を想像しながら紅茶葉を買う連華の姿、を想像すると少しばかり笑ってしまう。
どうもそれは幽香も同様であったらしい。
「あの子らしいわねぇ、これは中々本当に」
「それもそうだな、で幽香」
「……何かしら」
「何でまた俺らはこんな所帯染みた会話し(ry」
バキ!!ドカ!!ガッシャーーン!!
結局、岬影は上記の通り苦労する事となった。
▲▼▲▼
「だ、大丈夫かなぁ、上手くいくわよね連華」
「できるできる絶対できる、平気だよ小傘ちゃんコレはいける!!」
「……連華、声が大きい人間にばれちゃう」
「ゴメンなさい」
こんな漫ざ……会話をしている二人は今、命蓮寺の裏に位置する墓地へとやって来ていた。
何故に墓地?と聞かれれば、これまでの調査結果に幽香の言葉を照らし合わせた結果である。
「これなら皆驚くこと間違いなし、って言うのはあくまで私の持論だけどこの方法が最善なのは間違いないからね」
そう言って連華は小傘へと自信満々の笑みを向ける。
けれど、人によっては(妖怪だけど)その笑みから安心感を貰えたりするのだ。
「……ま、信じるよ連華も一緒に考えてくれたんだもん、私も頑張らなくちゃ」
「そうだね、お?早速一人目のターゲットが接近中」
「ふふふ、此処で修行していつの日か岬影にリベンジよ」
それがいつの日になるかは分からないけれど、このなんだかんだで頼れる友人と共に、やれるだけやってみようと志を新たにする付喪神、多々良・小傘であった。
それから数分後、墓地中に届きかねない元気な声が墓参りのオッちゃんの腰を引っこ抜いた。
うらめしや~
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それから数週間後、謎のキョンシーに墓場から追い出された小傘が連華に泣きつき、結局岬影が苦労する事になるのだがそれは東方神霊廟にて。
神霊廟の小傘がズルい、可愛過ぎて倒せんわ!!
因みにフランが持ってった岬影はフェイクです中から岬影ゆっくりが出て来て「NDK?NDK?」を連発してきます。
条件反射でキゅとしてどカーン!!ですね。




