絡人繰形店ーー新入りとネーミングセンス
昨日更新出来なかった……
幻想入りシリーズ最終話、ってかこれがやりたかった。それだけのお話。
大虎を博麗神社に任せて早数週間、珍しく面倒事に巻き込まれる事もなく過ごしていた岬影が件の外来人の事など大体忘れていたその日。
滅多にお目に掛かれない二人組が絡人繰形店に来店した。
いや、別にこの二人が一緒にいる事も両者が別々にやって来る事は珍しくも何ともない。
ただし……
「相変わらず閑古鳥が元気に鳴いてるねぇこの店は」
「大きなお世話だ小町、客は少ないが依頼はきちんと来ているから問題ねぇ」
ぶっきらぼうに告げた岬影を軽くスルーしてケラケラ笑う赤髪ツインテールの死神、小野塚 小町と。
「ふむ、店の外装、内装は整っていますし内部の掃除も怠ってはいない様ですね、後は……」
「にしても今日は二人揃ってサボりですかってイッテェェェッッ!!」
「この馬鹿店主の対応さえ良ければ、及第点をつけるのですが」
「アンタも懲りないねぇ連之字」
今し方岬影の頭上へ叩き付けた悔悟の棒を片手にヤレヤレと言わんばかりの溜息を吐く幻想郷の閻魔様、四季 映姫・ヤマザナドゥが二人でやって来る事は非常に珍しい。
「まぁ、冗談はさて置き今日は何の御用でここへ?是非曲直庁で物品の破損でもあったんですか?」
それなら通信用の護符で呼び出してくれれば此方から出向いたのだが。
そう思う岬影に映姫は悔悟棒を懐にしまいつつ。
「いえ、今回は私達の私用です、仮にそうだとしても是非曲直庁にそのような余裕はありませんし」
どうも地獄の財政難は解決されていないらしい。
「アタイの舟もボロいまんまだし、ま、仕方がないと言えばそれまでなんだけどねぇ」
事実とは言えまともに仕事をしない部下の物言いに。
「逆を言えば、その舟を使い続けられる程に貴方が仕事を疎かにしているとも言えますが、小町よくよく考えてみれば貴方が着いて来る必要も無い筈です。
新しい舟が欲しいのでしょう?ならば一人でも多くの霊を渡すべく三途の川へ戻りなさい、大体貴方の精進が不足しているから舟の新調へ回す事にならないのですよ?
そう、貴方は少し……いえ、まったくもって自分自身に甘過ぎる」
店内で公開説教を開始した閻魔様に岬影はなんとも哀愁の漂う声で。
「説教なら店の外で好きなだけどうぞ、それと結局なんの用なので?わざわざ俺の前で説教を見せに来た訳でもないのでしょうに」
対する映姫も本来の目的から遠ざかっている現状に軽く咳払いすると。
「実はですね、貴方に会いたい者がいまして、私達はその引率と言った所です」
「はは、アンタもきっと驚くよ岬影」
いや、そんな事を言われても、だ。
「俺の目には二人分の姿しか見えねぇぞ?」
ついでに店の周りの気配を探るも収穫は無かった。
けれど二人はあらかじめ打ち合わせをしていたかの様に一枚の札を取り出し。
「時間に…なりました、一旦仕事を切り上げて直ちに能力の使用を急ぎなさい」
「焦らず、練習通りにやるんだよ。
アンタならこの程度の距離何とでもなるさ!!」
映姫が持っているのが通信用の護符だと言うのは分かった、となると小町の方の札は一体……
と、岬影が見ているうちに札に妖力が流れ込む、しかしこれは。
ーー小町の力……ではない?
「それじゃ、こっちの合図で行くよ、参・弍・壱、そい!!」
その瞬間、光が……札が消えた。
と言うか、札のあった場所には一人の少年が立っていた。
長い黒髪、同色の瞳、その細い首から上は前に見た時と変化はないが……
「なるほど……な、それがお前の選んだ道ってことか、因みに後悔は?」
「まったく微塵も、本当はもっと早く挨拶に伺いたかったんですけど、色々と忙しかったんですよ、色々と」
是非曲直庁における下級職員が身に纏う制服。
少々サイズがずれているのか?袖から拳の半分しか出ていない手に切れ味の無い大鎌を握る元外来人。
「では、改めて外来人もとい是非曲直庁職員雑用係、死神の紅林 大虎です、よろしくお願いしますね」
「おう、ってか雑用かよ、旦那の紹介ならもっとそこそこの地位につけたんじゃねぇのか?」
何故?という視線を向ける大虎に。
「旦那以外にそんな事を思い付く奴に心当たりはねぇしな」
「あははは、けどボクとしてもこういう仕事からこなしていく方が性に合うと言いますか……」
「つまり、目立つのが嫌だったのさ、地道に頑張りたいんですって言ってね」
「ちょっ!!先輩?!」
慌てる大虎を見るからに楽しそうな顔でからかう小町、仲がよろしい様でなによりである。
そんな彼らに……否、小町に映姫は。
「小町、余り悠長にしている暇はありませんよ?是非曲直庁は完全実力制ですからね、下手をすれば船頭の職を追われる可能性も……」
「大いにありうるな」
変なところで息の合う映姫と岬影。
「またまたー、そんな事をある訳……ある訳ないですよね?」
小町は笑い飛ばそうとしたらしいが、一ミリも笑ってはいない映姫の顔に後半から切実感が滲み出ている。
「そうならない事を祈っていますよ、ですが仮にこのまま進めば」
そこで言葉を切り、片手をヒラヒラと振る。
要は、働かざる者さようなら、と言う意味であったりした。
「えーと、先輩?大丈夫ですか、顔色がメチャクチャ悪いんですけど?!」
「いいんだ大虎ほっといてやれ、彼奴には良い薬になんだろ」
これで少しは働く気になったでしょう、と映姫は岬影と大虎の方へと向き直り。
「それでは、我々は引き上げるとします。
これ以上は営業の妨げるになるやもしれませんし、お客が来るかどうかは別として」
「最後の一言は余計です、ではまたのご来店をお待ちしておりますね、金があるかどうかは別として」
何とも言えない皮肉の応酬だが、大虎は普段から厳格という言葉に服を着させたような自分の上司が割と砕けた会話をしている事に驚いていた。
驚いて、そして
「行きますよ、小町、クレオ」
思い切りずっこけた。
それはもう盛大に。
「クレオ?」
何だそれ? と首を傾げる岬影に大虎は。
「いやあの岬影さん忘れて下さい!!四季様も言わないって約束してくれたじゃないですかぁー!!」
「おや?何の話ですか?」
ーー確信犯だこの人!!
「クレオってのはねぇ……」
見事にしらばっくれる映姫の代わりに小町が説明し始めた。
「苗字から二文字、名前から一文字、そんでクレオさ」
「それゃ分かるんだが、何故にクレオ?」
「ヒントはアタイの名前さね」
岬影は考える。
名前?小野塚 小町……小町……小野 小町……世界三大美女……クレオパ……
そして吹き出した。
「はっははは!!何だよその行き着きかた!!小町お前、いくらなんでもネーミングセンスが無さ過ぎじゃねぇのか?」
久方ぶりに心から爆笑中の岬影に。
「いやあの岬影さん……」
遠慮がちに大虎が切り出し。
「名前の発案者は映姫様だよ、連之字」
小町がトドメをさした。
「あのー……四季様?」
今にも体から黒い何かが噴き出そうな閻魔様に岬影は恐る恐る尋ね。
「……何ですか?岬影、別に私は怒っていませんよ、自分のネーミングセンスを笑われたぐらいでは全く怒りません、怒ってないんですって」
とは口では言っているものの、悔悟棒に印された罪の数は秒読みで増えてゆく、多分大半が私怨。
言い残す事は?と笑顔で聞いた映姫に岬影は一言。
「ナイスネーミング!!ってイッテェェェッッ!!」
見事な放物線を描き、岬影の体が宙を舞った。
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後日、あの時は感情的になり過ぎました、と人一倍責任感の強い映姫が店の手伝いを申し出、映姫の気配を察した客達は誰一人として絡人繰形店に近づかなかった。
クレオ君退場のお知らせ。
明日からは平常運転に戻ります。