絡人繰形店ーーステンドグラスと3rd eye
さとり目線がメインです。
絡人繰形店にて岬影達が騒いでいた丁度その頃……
「……遅いわね」
そう呟いたのはやや癖のある薄紫の髪に、半開きの目。フリルの多く付いたゆっくりとした服に身体にまとわりつくような第三の眼を持つ妖怪。幻想郷の地下世界、地霊殿の主、古明地 さとりだ。
彼女のいる地霊殿広間の床には色取り取りのガラスの破片が散らばっており、天窓に使用されていたステンドグラスが破損したという事が窺える。
ーー地上に何でも直せる兄ちゃんがいるんですよ!!
その言葉を受けて自身のペットである火焔猫 燐と霊烏路 空を地上へ向かわせてからもう随分と経つ。
本来ならば戻って来ていて何等おかしくはない時間なのだが……
「何か厄介ごとにでも巻き込まれたのかしら?」
自分のペットに限ってそれはない……とは言い切れないし何より二人の事が気になる。
諸々の事情で出来ることなら地霊殿を留守にしたくはないものの、仕方がないと諦め、残したペット達に後の事を頼み、さとりは地底の市街地…通称「旧都」へと飛び立った。
▲▼▲▼
暫く旧都を歩いていたさとりだが、彼女の周りには驚く程に人通り……もとい妖怪通りが無い。
もっとも、この程度は日常茶飯事なので彼女は微塵も気にしてないが。
ーーさて、お燐達はまだ地上なのかしら?
見た所旧都で騒ぎが起きている様子もないので、適当に当たりをつけ地底と地上を結ぶ唯一の穴へと急ぐ……が数秒と経たぬうちに足を止めた。
「おや?さとりじゃないか、珍しいねアンタがあの屋敷から出てくるなんて」
ーー何か問題でもあったのかね
半開きの目線の先にいたのは、顔見知りの鬼、星熊 勇儀である。
まぁ、この旧都においてさとりに気兼ねなく話しかけてくる相手など片手で数えられる程だが。
「あぁ勇儀さん、特に問題が起こった訳ではないのですが、使いに出したお燐とお空の帰りが遅いので……」
「心配して様子を見に来たと」
ーー心配性だねぇ
「ニュアンスはあっていますが、あの二人ならそこまで心配する必要もありませんよ、私としては地上で事が上手く進んでいるか…少々不安なんです」
さとりの言葉に勇儀は意外そうな声で。
「ん?あの二人を地上へ行かせたのかい?」
ーーとなると行き先は博麗神社?
「いえ、実は地霊殿で事故がありまして、天窓のステンドグラスが……」
どういう訳か、二人を地上へ向かわせた理由を説明する事になってしまった。
ーー彼女も内容によっては手を貸してくれるようですし、多少のロスには眼を瞑りましょうか
早々に結論を出すと、さとりは今回の経緯について語り始めた。
▲▼▲▼
「……なるほどな、それで俺にそのステンドグラスを修理して欲しいと」
「そっ!!兄さんなら朝飯前だと思ったのさ、全壊した居酒屋を数秒で元通りにできる兄さんなら、ね」
ーー参ったなぁおい
酔った勢いで黒歴史を築いたばかりか能力まで見せびらかしていたとは……
「凄かったよねぇー、ボロッボロだった店が全部元通りになっちゃうんだもん」
「俺の記憶が正けりゃ責任の八割はお前にあった筈だが?」
あははは、と楽しそうに笑う地獄鴉、霊烏路 空…もといお空へ呆れた視線を向けるが本人ときたら。
「あれ?そうだったっけ?」
ーーこの鳥頭。
なぜ居酒屋を吹き飛ばす寸前の言葉を覚えていて忘れるのだ?
「ま、まぁ今は早く地霊殿に行こうよ、戻って兄さんの事をさとり様に紹介しないといけないしね」
不穏な空気を感じとった燐が話題を逸らす。
「さとり様……か」
三人が歩みを進めているのは旧都。
幻想郷の地下奥深くに存在する忘れられた都だ。
主に地上で封印された妖怪や、自分の力を忌み嫌って自ら移り住んできた者、鬼達が住んでいる。
そして
どの住民も一癖も二癖もある者達だらけなこの都の頂点に立ち、妖怪達の精神的楔でもあるのが、古明地 さとり。今回の依頼主だ。
で
「お!!見つけた見つけた、大通りで待ってりゃくると踏んでたんだが予想的中だね」
肉体的楔と言うべきなのが、大柄な身体に見事な一本角の鬼、星熊 勇儀なのだが。
彼女の姿に気がついた岬影は面倒臭そうな声で。
「勇儀…悪いが急いでんだよ、話なら後にしてくれ」
「なんだ?まだあの宴会の事を根にもってんのかい?」
「当たり前だ!!」
元を辿れば勇儀が岬影を宴会に引っ張って行かなかったらあんな事にはならなかったのだ。黒歴史とか黒歴史とか黒歴史とか。
だというのに勇儀はまるで反省の色を見せず。
「私は久しぶりに全力でヤレて楽しかったよ、それはそうと一刻程前にさとりと会ってね、二人の帰りが遅いと心配してたから早く行った方が良い」
「あーそう言えばどの位で帰るとか言ってなかったかも」
「あたいも直ぐにお空を追いかけちゃったしなぁ」
「……お前ら」
主思いなのは結構だがこれで良いのだろうか?
「んじゃこれ以上待たせねぇように急ぐとするか、知らせてくれてありがとよ」
「このぐらい構わないよ、それよりまた今度飲もうじゃないか」
やっぱり反省していなかった勇儀に岬影は。
「……検討しておく」
ーー但しお前が酌をした酒は死んでも呑まねぇがな、死なねぇけど
そう心の中で補足し、再び地霊殿への道を急いだ。
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地霊殿の自室にて紅茶を啜りながら読書に勤しむさとりの頭には、本の内容など全く入っていなかった。
ーー勇儀さんは……なぜあの様な事を
考え込む彼女の脳裏で再生されているのは先程の勇儀が去り際に残した言葉。
事情を話すと、どうも勇儀は件の修理屋とは面識があるらしく楽しそうに絡人繰形店・店主、岬影 連について語ってくれた。
ついでに知らせといてやるから地霊殿で待ってなよ、と言われ礼をし去ろうとしたさとりへ彼女は。
「ま、アンタもきっと岬影とは仲良くなれるさ」
咄嗟に心を読もうとしたが既に勇儀の姿はさとりの視界から消えていた。
一体何が言いたかったのだろう?
[心を読む程度の能力]を有し、その力で人間はおろか妖怪や怨霊にまで恐れられるこの自分に。
ーーまぁ実際に会えば悩む必要もなくなるわ
そう納得をつけると、見計らったかの様に扉が開きペットの犬が来客を知らせに来る。
丁度良い。
勇儀があそこまで言う人物とはどれ程の者なのか?
自分の三つの眼で確かめよう。
「……何をしているのかしら、貴方達?」
思わず、といった口調でさとりの口から言葉が漏れる。
すると自身のペットである燐と空は声を揃えて。
「「競争です、どっちが先に兄ちゃん(さん)をさとり様に紹介するかを賭けた」」
大真面目な顔で答えてきた。
その隣では勇儀が言っていた通りの服装に、何故か軽く焦げた黒髪の男が頭に手を当て。
「そんなどぉでも良い事のために弾幕まで使ってたのかよ」
ーーそんなどぉでも良い事のために弾幕まで使ってたのかよ
何かの間違えかと思った。
なんとか表情を崩さずに済んださとりは。
「うちのペットが迷惑をかけたようね、聞いているとは思うけど私がここ、地霊殿の主、古明地 さとりよ」
対する岬影も焼けた髪を再生させると。
「そうだなだいぶ迷惑をかけられたぜ、俺は修理屋の岬影 連宜しくな」
ーーそうだなだいぶ迷惑をかけられたぜ
「どう言う事?」
「あ?どうかしたのか?」
ーーどうかしたのか?
間違いない、今まで一度もなかった事だがこの男は……
「心の声と実際の声が完全に一致しているなんてね、貴方一体何者よ」
つまり思った事をそのまま言葉にしているのだ。この男……いや岬影は。
「何者って言われてもな、俺は単なる修理屋だ、お燐とお空から話は聞いてる依頼はステンドグラスの修復であってるよな?」
「えぇそうよ、早急にお願いするわ。
それにしても貴方、本当に興味深いわね心が一切ブレないなんて、普通私に話しかけられると大抵は心を無にしようとして不安定になるものよ」
もっとも心を無にしようとしている時点でそれは最早、無とは呼べないのだが。
「はは、そりゃそうだろうな。
心を読まれるなんつー気味の悪い体験なんぞしたがる奴の気がしれねぇよ」
一瞬面食らったさとり。
威勢をふっているわけでも、嘘をついている訳でもない。
本心から言っている。
「本人を前にしてよく言ってくれるじゃない、それで商売人が務まるのかしら?」
皮肉混じり言ってみるが、岬影は平喘とした表情で。
「本人の前だから、だろ?
どうせバレんなら最初から思った通りにいやぁ良いんだよ」
何となく、何となくだが勇儀の言っていた意味が分かった気がした。
ーー本当に面白い。
知らず知らずの内に笑みが浮かんでくる。
「ステンドグラスの修理が終わったら、私の部屋に来て頂戴。
心を読む必要がない相手と話すなんて久しぶりだもの、色々聞いてみたいわ」
「んーまぁ良いだろう行かせて貰うぞ……ぶっちゃけ面倒いんだが地霊殿とのパイプの代価と思えば安いもんだ」
通常であれば激怒してもおかしくない対応だが、さとりはさほど不快には思わない、心を読んで知るよりは面と向かって言われた方がスッキリする。
「そうね、貴方の仕事ぶりによっては今後も頼りにさせてもらうかもしれないわ」
「なら頑張るしかねぇな」
余りにも露骨なやる気の出し方に、今度こそさとりの口から笑い声が吹き出した。
因みにその後、お空の心を読んださとりが岬影に先日の宴会の話を聞き、直後地霊殿の天井を突き破って飛んで行く地獄鴉の姿が旧都にて目撃されたとかされなかったとか。
お空がお空の星になりました、地底に空はないけれどww
え?面白くないって?
分かってんだよコンチクショォォォォォ!!!