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絡人繰形店ーーマスと毘沙門天

Missコミカルが帰って来ましたー!!

とある晴れた日の絡人繰形店。


カウンターの上に、ドンッ!!と鎮座するのは「くーらーぼっくす」なる保冷機能付きの箱。

中には今朝釣ったばかりのマスが詰めてあり、その数は二人で食べる事の出来る量を軽く超えている。


そんな訳で。


「やっぱここは塩焼きだろ」


「何言ってんのさ、この量なら慧音と連華も呼んで鍋に出来る、いやそうするべきだ」


「二人を呼ぶのは賛成だが……塩焼きにしよう」


「いーや鍋だね、この季節のマス鍋は良い出汁が出るんだ」


「塩焼きだ!!」


「鍋だ!!」


早朝から今の今まで霧の湖に張り付いていた二人。


迷いの竹林の案内人、藤原 妹紅と店主、岬影はマスの調理法について論議……という名の言い争いをしていた。


それにしても、この二人の頭には両方作るという選択肢がないのだろうか?


無駄な火花を散らす妹紅と岬影。

慧音は寺小屋が閉まるまで様子を見に来ないだろうし、連華に至っては明日の午前中は休業だ、と伝えているので今頃ガーデニングの勉強に熱を上げているだろう。


つまり二人の論争を止める者はいない。


すると放っておけばいつまでも止まりそうにない両者の間に割り込む声があった。


しかしそれは仲裁の言葉でもなんでもなく。


「ここですか?!年端も行かぬ少女を無給で年中働かせている外道がいると言う店は!!さぁ毘沙門天様の前に悔いを改めなさい!!」


むしろ新たな混迷への布石であり。


ーーいつの話をしてんだこいつ?


岬影の呆れ顔も仕方がない物と言えよう。

とはいえ、言葉と共に放たれた弾幕を無視する訳にも行かない。


「無限[不可視の城壁]」


ッドドッッ!!と衝撃が走るものの岬影十八番の防御壁を破るには至らなかった……が。


「舐めるな!!」


舞い上がった埃の中から飛び出した少女、虎を連想させる黒と金の髪に密教風の衣装を着込み、自身の背丈以上の槍を構えるその姿からは熟達者の空気を感じとれる。


ーーへぇ結構やるな


呑気に相手の評価をしつつ右手を霊力で強化し槍を掴もうとする岬影。


そして……


「そこまでだよお二人さん、せっかく釣ってきたマスを吹き飛ばされたら堪ったもんじゃない」


「心配したのはマスの方かよ」


「岬影なら吹き飛んでも問題ないだろ?」


槍と拳の一撃を受け止めたのは傍観していた妹紅だ。


その様子に妖怪少女の表情が変化する。


暫し妹紅の顔を見つめると。


「貴方は確か人里の守護者と一緒にいた…」


「藤原 妹紅、妹紅でいいよ、毘沙門天の代理人さん?」


どうも二人は一応顔見知りらしい、とそんな事より岬影の耳には妹紅の言葉が引っかかる。


ーー毘沙門天?って事は


「お前さん、命蓮寺の者なのか?」


これに対し少女は何処か誇らしげな表情で。


「如何にも、私は毘沙門天様の弟子にして代理人を務める妖怪、寅丸(とらまる) (しょう)だ、故に貴様のような私腹を肥やそうとする輩を見逃す訳にはいかない!!」


素晴らしいまでに誤解している上、彼女の頭の中で自分の悪人像が膨れ上がっている気がする。


ーー純粋ってのも考えものだな


そんな事を思いながら岬影は苦笑いを浮かべる。


何はともあれ、先ずは誤解を解く作業から始める必要がありそうだ。



▲▼▲▼



さて、話しても長くならないが簡潔に結論のみを述べるとしよう。


星の説得は直ぐに済んだ。というか始めようとした矢先に連華が帰宅したので説得をするまでもなかったのだが。


そんなこんなで今現在。


「此の度は誠に申し訳ない、まさか貴方が連華の言っていた岬影殿だとは夢にも思わず…」


「えっと、星さんそんなに気にする必要はありませんよ、連様はこの程度の事で気を悪くする様な、そんな小さい器の持ち主ではないのです!!」


ーー気まずい


ですよね?! と言わんばかりの視線を向けられた岬影はどう反応すべきか思いあぐねていた。


確かに気を悪くしていないのは事実だが変に善人扱いされても困る。


すると思わぬ助け舟が出る。妹紅だ。


「ま、連華の言う通りってとこもあるけど、早とちりをした点は反省するべきなんじゃないか?」


「そう言う事だな、別に実害があった訳でもねぇし」


岬影が何を考えているのか大体把握している彼女の言葉にすかさず便乗する。


「……寛大な処置に感謝する、詫びと言っては何だがぜひ一度命蓮寺にお越し願いたいのですが」


星の顔に尊敬の念が浮かんでいたのは気のせいだと信じたい。


がこの展開は岬影的にも願ったり叶ったりだ。

人里の新勢力命蓮寺、新しい顧客が増える事に越した事はない。


そんな岬影の下心に気づく筈もない星は返答を待っている。


「ああ、俺の方からも頼み……」


カランカラン


岬影の返事を遮るように本日二度目のカウベルの音がなった。


ーー誰だ?


岬影の視線の先にいたのは、クセのあるダークグレーのセミロングに深紅の瞳、丸い大きなネズミの耳とシッポ。

その手に持ったダウジングロッドが特徴の鼠妖怪。


毘沙門天の部下であるナズーリンだ。


「ここからご主人の槍の反応がしたんだが……あぁやっと見つけた」


実は彼女、人里から飛び出していく星の姿を見かけ情報収集の後、追いかけてきたのだ。


「この店の店主は貴方か?」


「確かに俺が店主の岬影だ、鼠妖怪ってことは寅丸の部下か?」


「おや、博識なんだな」


「まぁそこら辺はちょいとな」


一般に毘沙門天の使いは、日本では寅、中国では鼠とされている。

妖力の質からしてそう判断したのだが正解であったらしい。


「私の推測が間違っていなければ、私のご主人が迷惑をかけた筈だ、一応謝罪をしておくよ優秀な方なんだが行動的なのが玉に瑕でね」


「な、ナズーリンなぜそれを」


「大体想像がつくよ、ご主人のことならね」


項垂れる星を無視して進み出るナズーリン。


「多分ご主人も言ったと思うのだが、一度命蓮寺に来てはくれないか?この店とは良好な関係を築きたいと聖も願っている」


彼女の言う聖と言うのは、命蓮寺の開山者である魔法使い。

(ひじり) 白蓮(びゃくれん)の事であろう。


「さっきも返事の途中だったんだが、ぜひ行か……」


「はいはい、その話は後でいいから早くしないと新鮮なマスが駄目になっちゃうじゃないか」


またもや返事を遮られ見るからに不機嫌な表情の岬影。

だがこのままだと勝手に鍋を作られかねない。


なので。


「分かったよ飯にしよう、二人も食ってくだろ?」


仏教では魚は禁食の筈だが、ここは幻想郷で二人は妖怪なのだし気にする必要もあるまい。


「良いのですか?」


「あぁ構わねぇよ、この量だ全員で食べても十分だろ」


伺うように尋ねた星に気にしないように言う。


「それじゃー私がとっておきのムニエルを作りますね!!」


と言ったのは連華で。


「何言ってんのさ、マス鍋を作るに決まってるだろ」


と言ったのは妹紅で。


「ここは私が腕によりをかけて作らせていただこう、マスの香草焼きを」


と言ったのが星で。


「分かってないねぇ、この時期のマスなら刺身にして食べるのが一番さ」


と言ったのがナズーリンで。


「アホかお前らマス料理といえば塩焼きに決まってんだろ!!」


最後に全く締めくくっていないのが岬影であった。



数秒の沈黙。



「ムニエルです!!」

「鍋だよ!!」

「香草焼きだ!!」

「刺身!!」

「塩焼きってんだろ!!」



この言い争いは寺小屋から慧音が駆けつけるまで続いたとか。

岬影が命蓮寺を訪れるのはもう少し先の話となりそうである。

明日は人口太陽です。

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