絡人繰形店ーー死神と舟
カランカラン、とカウベルの乾いた音が鳴り響いた。
総合修理屋[絡人繰形店]のカウンターで何やら作業をしていた岬影の注意が一瞬それる。
「ん?ああ、客が来た」
それだけ言うと再び作業に没頭する店主。
これで良くもまぁ潰れないものだと思うが、需要があるのだから仕方がない。
「........それが分かっているなら今すぐその妙な箱から手を放しな馬鹿店主。アタイが直々に幾つかトラウマを刻み付けてやろうじゃないか」
赤髪ツインテールの死神、小野塚 小町はヤル気が微塵にも感じられない店主に対し、手に持った鎌の柄を肩に数回ぶつける。
「妙な箱とは言ってくれるな、こいつは俺とにとりが二人掛かりで使えるようにしたGBAだぞ、俺達の一週間の努力の結晶さ」
「OK、とりあえず昨日一日中店先で待ってたのに、姿を見せなかった理由は分かったよ」
いつもの5割増しで不機嫌そうな彼女の様子に、岬影もGBAを置き意識をそちらへ集中させる。
(せっかく[岩男]の操作方法が解ってきた所だったんだがな)
「それで?元気が売りのお前がそんな不帳面引っ下げてどうしたんだ?」
「不帳面は余計だよ、ちょいとまずい事になってね、一緒に三途の川まで来てくれないかい?」
小町の言葉に、岬影は嫌そうな顔を隠そうともしない。
別に三途の川に行くのが嫌なわけではない、以前は無縁塚で拾った珍しい物を持って来る小町に、御礼と称して酒の差し入れをしにいった事もある。
がそれを小町の上司。
幻想郷を担当する閻魔様。
楽園の最高裁判長たる四季 映姫・ヤマザナドゥ(しき えいき・やまざなどぅ)に発見されてしまったのが運の尽き、二人仲良く正座をさせられ丸半日ほど説教を受けたため、半端トラウマとなっているのだ。
けれども
「まぁ、客のニーズに対応してからこその絡人繰形店だしな、いいぜ行ってやる」
「ははっ、悪いねぇ連之字、また何か面白そうな物を拾ったら持ってこさせてもらうよ」
「ああ、頼む」
古くからの顧客を蔑ろにするほどこの店の店主は腐っちゃいないのである。
▲▼▲▼
ところ変わってここは三途の川。
絡人繰形店からそこそこ距離がある場所ではあるのだが、小町の[距離を操る程度の能力]の前ではそんなもの、あって無きに等しい。
「あー、一つ聞いてもいいか?」
「なんだい連之字、因みに言わなくても分かると思うけど、これはアタイの船だよ」
「いや、言われても分からねぇよ」
そんな二人の視線の先には木屑の山、、ではなく船頭の死神に支給されるボロ船の残骸が。
どうしてこうなったのか?
聞くと、新参者妖怪を叩きのめした際に流れ弾が直撃したとの事。
元がボロボロだった事も重なり、こんな姿となり果てたそうな。
自称「三途のタイタニック」も弾幕には耐えられなかったらしい。
はぁー、といかにも面倒くさそうなため息を吐きながら木屑を漁り始める岬影。
「前にも言った気がするけどよぉー、さっさと新しいのに変えた方が良いって言ったじゃねぇか」
「そいつはアタイの一存で決められることじゃないのさ、最近は地獄も財政難でね、死神の船の新調にまで金を回す余裕が無いらしい、それで?直りそうかい?」
小町の質問を受けた岬影は木片を漁りながら答える。
「舟自体を元に戻すのは簡単だ、俺の能力を使えば済む話だしな」
「おお!!それじゃーー」
「ただし!!」
ビシィ!!と人差し指を真上に突き立てながら岬影は話を進めていく。
「この舟を三途の川に浮かべるための術までもなると難しいのさ、何か術式を支える物がある筈なんだがな、それが見当たんねぇんだよ」
三途の川というのは特別な川、すなわち(浮かばずの川)である。
そのため、船賃を渋るような魂は川に突き落とされ、泳ぎ疲れた所を外界で絶滅した大型魚や水竜に食われるのがオチだ。
この川を渡るには死神の舟は必要不可欠であり、その舟に付加されている術式もまた必要不可欠。
こういった類いの術式には大抵支えになる物があるはずなのだが・・・・・
「つまり、その何かが無きゃ舟は直らないって言うのかい?!」
「ま、そうなるわな」
そう告げられた小町の顔がどんどん青くなって行く。
なんと言うか、そこら辺をうろついている霊と言い勝負だ。
「この事が映姫様にバレたら、、、、」
「先に言っとくが俺は知らねぇぞ、どうしてもっていうならそれが何なのか必至こいて考えるんだな、舟のパーツの一つの筈だぜ」
「そう言われてもね、、、、、ん?」
何か思い当たる節があったらしく、距離を操ったのだろう、一瞬で姿が消える小町。と思った瞬間には岬影に向かって何かを見せている小町の姿があった。
「こいつは、、、、オールか?」
「そうさ、あの中に無い舟の部品と言ったらこれぐらいしかなくてね、どうだい連之字」
そこまで説明され、受け取ったオールを手に持ち再び木屑の山と睨めっこ始める。
、、、、、、、、小町が待つこと数分。
「ビンゴだな、こいつが術式の中心だ間違いねぇ」
「いやぁ良かった、これがハズレだったら万事休すだったよ」
「そいつはちげぇねぇな」
軽口を言い合う二人の前で木屑の山が独りでに蠢き形を作ってゆく。
あらかじめこうなる事が決められているパズルのように。
一つ、また一つと木片がくっ付きあってゆき。
「これで良し!!、本体、術式共に完璧だ」
「相変わらず見事なもんだ、壊れる前と何一つ変っちゃいない」
「当たり前だ、この俺の[ありとあらゆるものを再生する程度の能力]の能力にかかればこれぐらいーー」
「それならまず、自分の性格を直すことから始めるべきですね、貴方は」
ビキン、と空気が凍った。
小町の顔は先ほどの数倍は濃い青色に染まっていき、気のせいか岬影の顔も青く見える。
カタカタと間抜けな効果音が付きそうな動作で振り返る二人。
そこいるのは予想どおり人物であった。
「全く、送られてくる霊の数が激減し、また小町がサボっているのかと思えば、こういうことですか。
舟を新調出来ない事についてはこちらにも非が有りますが、大事に使えば物というのは長生きをするのです、それを木屑に変え、私に隠し秘密裏に修理させるとは一体何を考えているのですか?二人共!!」
「「ハイ!!!!!!!!!!!」」
背筋をピンと伸ばし、今にも振り下ろされそうな悔悟棒を握り締める閻魔様、四季 映姫・ヤマザナドゥに全力で頭を下げる二人組。
見た目年下に見える彼女に大人っぽい容姿の二人が頭を下げているのは、かなりシュールな光景である。
「とりあえず、小町。
帰ったら説教ですよ、これ以上霊達をここで立ち往生させる訳にも行きませんから。
それにそこの馬鹿店主もです。
後で必ずそちらに顔を出させて頂きますから、覚悟して待っていなさい」
事実上の死刑宣告がなされ、アイ、という気の抜けた返事を返す岬影。
だがそこでこんな言葉が耳に入ったのを岬影は聞き逃さなかった、後で死ぬほど後悔するのだが。
「それにしても、最初から私を頼ってくれれば良いですのに、、」
「あれ?もしかして四季様、嫉妬していらっしゃる?」
直後、世にも恐ろしい男の悲鳴が幻想郷中に響き渡った事は言うまでもあるまい。