絡人繰形店ーー誕生祭と守る力
何と言うか……衝動的に書き上げた話です。
反省も後悔もしていません。
いや、にしてもあの動画は神だった。
その日、絡人繰形店の周りに張られた結界の中には派手に弾幕を撒き散らす二つの影があった。
……正確に言うと片方が撒き散らし、もう片方がひたすらそれを避け、反らし、相殺させているのだが。
「次いっくよー禁弾[スターボウブレイク]!!」
薄い金色の髪をサイドテールでまとめ、真紅を基調とした半袖とミニスカートに身を包んだ紅眼の少女、フランドール・スカーレットがその手に持った魔杖を振るう。
すると延長線上に閃光が走り、その軌跡から七色の虹弾が現れ標的に向かって飛来した。
「壊さないイメージはできてるか?絡繰[儀右衛門の底力]!!」
岬影のスペルカードの宣言と共に黒色の大玉が打ち出され。
「操弾の幕」
言葉と同時に岬影は指を怪奇な且つ複雑に動かす。
そして動きに連動した大玉と虹弾がぶつかり合い、衝撃を散らして消えたていった。
それを見たフランドールは楽しそうに。
「うわぁ岬影すっごいね、それじゃーこれならどう?!秘弾[そして誰もいなくなるか?]」
刹那、フランドールの姿が消えた。
否、魔力で体を覆い瞑ませているだけだ。
「ってもこれじゃ消えたのと変わらねぇなっと!!」
青白い弾幕が岬影を追いかけその道筋から新たな弾幕が生まれる。
広範囲に散らばってしまう前に岬影は親玉を壊そうとするが。
「ッッッうお!!!マジか」
周りを囲む様に創り出されたのは弾幕の檻。
形を崩しながらも絡めとるかの如く岬影に迫りくる。
「これならいけるか?鑓符[トライデントリバース]!!」
ズッドドドドッッッ!!
響き渡る炸裂音、巨大な三又の鉾が休む間もなく射出され片っ端から青の、黄色の、緑の、そして赤の弾幕と相殺しあい……
「隙あり!!これで終わりよ岬影!!」
ーーッツ!!何時の間に?!しかもありゃ不味い!!
弾幕の影から飛び出したフランドール、手にした"二本の魔杖"の照準が岬影を捉えた。
「双魔[世界を終わらせる杖]!!」
ゴォォッッッ!!、と吹き荒れる熱風を生み出したのは二本の紅い極太レーザー。
寸分たがわずに突き進む一撃に岬影も最後のスペルカードを宣言する。
「絡人繰形[操られし者の奮起]!!」
フランドールのスペカをレーザーとするならこちらはボール、但し途方もなく巨大で暗く黒く近付く全てを押し潰すボールだ。
紅き奔流と黒き重圧。
純粋な力のぶつかり合いが起こり……直後、形容し難いまでの莫大な光が結界内を埋め尽くた。
そして……戦場に最後まで立っていた者の眼は………………紅い。
▲▼▲▼
「不合格だな」
「えー!!なんでなの?私が勝ったのに」
不満げな顔をしたフランドールに岬影は断固とした様子で告げる。
「勝ち負けの問題じゃねぇって最初に言ったろ?まだまだ力の制御が甘いし無駄も多い、そして何より……」
仁王立ちの岬影はビッ!!と効果音が付けたくなる勢いでフランドールの魔杖を指差すと。
「新しいスペルカードを考える暇があったら少しは自主練をしようとか思わないのか?!」
「だって一本を二本にしたらもっと強くなると思ったんだもん」
「これ以上火力を上げてどうすんだ!!こんなんじゃいつまで経ってもレミリアに認めて貰えねぇぞ?」
一方的に捲し立てた岬影。
その頃フランドールは最後の言葉が効いたのかシュンとしている。
ーー言い過ぎたか?
そう思う岬影だがフランドールのためにもここは心を鬼にする必要があった。
二人が弾幕ごっこをしていた理由。
その発端は数日前に遡る。
▲▼▲▼
「誕生祭?」
「ええ、我々紅魔館の面々を初めとし永遠亭や白玉楼の方々も参加の承諾を既に得ていますわ、その他は都合が合わなかった様ですが」
店にやって来た完全で瀟洒な従者、十六夜 咲夜は開口一番にそう切り出した。
何でも紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットの誕生祭を博麗神社にて行うらしい。
誕生パーティーと呼ばないのは子供っぽいからか?
「にしても博麗神社……か、よく霊夢が首を縦に振ったな」
「あら?あの巫女は割と直ぐに買しゅ……許可を出しましたわ」
ーーあの堕巫女は何をやってんだ?
にわかに幻想郷の行く末を心配してしまう岬影。
まぁ何はともあれ誕生祭だ。
せっかく新しい顧客からの招待なのだし断る理由も特に無い。
「分かったこの店の店主としてありがたく参加させて貰おう。
先に言っておくがパーティーの間中フランのお守りは勘弁だぜ?」
フラン……という言葉に珍しく咲夜は口篭り。
「その妹様の件について私から個人的に依頼したいことがあるのです」
それは紅魔館のメイド……ではなく十六夜 咲夜という一人の人間としての願いであった。
▲▼▲▼
まぁ身も蓋も無く言ってしまえば、その依頼というのがフランドールの力の制御であり、翌日咲夜と共にやって来たフランドールと早速弾幕ごっこをしていた……という訳だ。
"紅魔館の主"としてレミリアはフランドールに、それを達成出来なければ連れて行くことはないと告げたらしい。
「ねぇ岬影?」
「ん?何だ?」
しょぼくれていたフランドールが岬影に問う。
「何で…何で皆壊れちゃうんだろうね、ずっと壊れないで…そこにいれば良いのにさ」
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。
フランドールの幼く力を込めただけで折れてしまいそうな細い腕は、どんな兵器よりも恐ろしく禍々しい。
「そうだな、皆ずっとそこに居られりゃ最高かもしれねぇ」
そんな岬影の脳裏に焼き付いているのは遥か昔に聞いた言葉。
『どうして死という物があるの?そんな物さえ無ければ私は人で居られた、ずっと……ずっと貴方と一緒に居られたのに!!』
「けどよ、誰もいなくならねぇそんな世界があったとしても、その世界は凍ってる停まっちまって動かねぇツマらねぇよな?そんなの」
「でも、それなら皆ずっと一緒にいられるよ、私もお姉様とお出かけしても大丈夫になるし、それに……」
「フラン」
突然自分の頭に乗せられた手に戸惑うフランドール。
495年も生きてきた彼女だが……
ーー誰かに撫でて貰うなんて初めてかも
「お前が本気で誰も壊したくないと願うなら、力を完璧に制御して、コントロールも身につけて、それで大切な人を守れる様になれ」
照れ臭いのか視線を僅かに反らす岬影。
対するフランドールは呆気に取られた表情で。
「私の力は壊す力、誰かを守るなんて出来ないよ。
きっと一緒に壊しちゃう守りたい物ごと全部跡形も無く」
「だからこその特訓だろぉが、お前の力が本物になれば何だって壊せるし……誰だって守れるさ、俺が保証する」
自身たっぷりに似合わない笑みを浮かべる岬影に、何だか悩んでいるのが馬鹿らしくなってきたフランドール。
ーー私に何が出来るかは…まだ分からないけど
「そう…だね、よぉし!!岬影、もう一回やろ!!次はもっと弱く撃つからさ」
「あいよ、後一週間だ!!それまでに何がなんでも常時非殺傷の弾幕を撃てるようにするぞ」
ーーもし、もし出来ることなら守れるようになりたい、お姉様も、咲夜も、美鈴も、パチェも、こぁも、紅魔館の皆を……そして
「あのね岬影!!」
「ん?」
「ありがとう、私の友達になってくれて」
ーーそして…岬影を、私の大事な友達を守りたい。
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一週間と一日後……岬影が手にした文々。新聞の大見出しを飾る写真の中央には、ニヤニヤ顔を隠そうとして見事に失敗している紅魔館の主と……その隣で弾ける様な笑顔を浮かべるフランドール・スカーレットの姿がそこにあった。
自分の頭の中ではフラン、常時カリスマ全開モードですが何か?