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絡人繰形店ーー杯と姐さん

姐さんと言えば?

「これは…参ったね、一体全体どうしようか」


そんな言葉を零したのは大柄な体格に見事な一本角を生やした鬼。

語られる怪力乱神、山の四天王が一人。星熊(ほしぐま) 勇儀(ゆうぎ)だ。


「アッハッハー、いやぁゴメンゴメンにしても見事に割れたねぇ」


「ア・ン・タのせいだろ!!」


ゴン!!と良い音をたてて握り拳が落とされた。

[怪力乱神を持つ程度の能力]によって只でさえ常識外れな腕力が強化され拳骨を入れられた伊吹(いぶき) 萃香(すいか)は頭を抑えて悶絶している。


「どうしてくれるんだい私の杯、そう簡単に直せる安物とは訳が違うってのにさ」


はぁ、と溜息を吐く彼女の手にあるのはかなり大きめの杯……の残骸である。

中心からやや左にズレた位置に空いた穴。

そこから全体にヒビが入っており酷い有様だ。


彼女が腕試しをする際に酒を入れる杯なのだが、長年使っていれば当然愛着も湧く。


そのせいか豪放磊落な性格の勇儀も些か不機嫌な顔をしていた。


すると何時の間に復活した萃香は酒臭い息を吐き。


「まぁそのくらいならすぐ直せるから大丈夫だって」


「壊した張本人が何をヌケヌケと……」


とはいえ、直せるという言葉は聞き逃せない。

その事を尋ねると、地上の店に腕の良い修理屋がいるとか。


「その店は地上にあるからね、念の為私もついてくよ」


「それは良いけど本当に直るんだろうね」


問題なーーい!!などと声を上げる萃香を見て、彼女がそこまで信頼する修理屋に俄然興味を持つ勇儀であった。



▲▼▲▼



「だぁーからぁー何で元に戻してくんないのよ!!」


「お前みたいなガキの遊びに付き合ってる暇はねぇんだよ、大体なんだ割れた氷漬け蛙を元に戻せって、修理屋に頼む事じゃねぇだろが」


萃香の案内で絡人繰形店にやって来た勇儀が見たのは、黒い箱を前に真剣な表情で座る一人の男と真っ二つに割れた氷漬け蛙を持つ氷精の姿。


どうやら氷精が一方的に突っかかっているのを男が流しているらしい。


すると青と白のワンピースを着た青髪の氷精・チルノは痺れを切らしたようで。


「それなら弾幕ごっこであたいが勝ったらこの蛙を治すって事でどう?」


だが断る……衝動的にそう答えようとした黒髪の男…もとい岬影だが少し考えると。


「そんな時間はねぇ、それで提案なんだがお前が霧の湖でもう一匹蛙を捕まえて来たらその蛙を元に戻してやろう、どうだ?」


「ふんその程度あたいの手に掛かればアッと言う間よ!!あたいったら最強ね!」


言い終るなり店を飛び出していくチルノ。


ーーこれで片付いたな。


彼女は単に遊び道具の蛙が欲しかっただけであり、自分でもう一匹捕まえればここに来る事もあるまい。


「さてと、厄介払いも済んだしこの"てれび"とやらを使えるようにするか」


前に一度守矢神社で見たてれびに比べると厚みもあるが、霖之助の能力はこれを"てれび"用途は画像を映す、と判断したのだから間違いない。


「先ずは一度分解して…にとりの奴に複製を依頼し……ん?萃香?いつ入って来たんだお前、隣のは地底の鬼仲間か?」


「あの氷精を上手い事出し抜いた辺りかな、岬影はその黒い箱に夢中で眼中に入ってなかったようだけど」


「……そりゃ悪かったな」


呆れ顔の萃香に一応詫びを入れる岬影。

すると彼女の隣に立ってた勇儀は試すように名乗る。


「あんたが萃香の言ってた修理屋かい?私は星熊 勇儀、山の四天王の一人と言えば分かるだろう?」


そこら辺の妖怪であれば、思わず逃げ出すレベルの威圧感を言葉に乗せる。


ーー私の杯を直す奴が根性無しじゃ、つまらないしね。


これで怯えるような小物なら諦めて新しい杯を手に入れよう、そう思っての言葉だったのだが。


対する岬影は逆に値踏みする様な顔で言葉を返す。


「なるほど、お前が星熊童子と言う訳か

俺はここ総合修理屋[絡人繰形店]の店主、岬影 連だ修理の依頼か?」


一ミリも表情を崩さぬ岬影の態度に勇儀は嬉しそうな声で。


「へぇアンタ強いんだね、いいよ気に入った"コイツ"さえ壊れてなきゃ今すぐ腕試しをしたいとこだ」


言いながら手にした杯をカウンターの上へと置く。


「これは……御神木で作った杯か?この上なく罰当たりだなおい」


「誤解しないで欲しいなそいつぁ正当な手段で手に入れたものさ、いやあの神は強かった」


ーー余計に罰当だろぉが。

本音を呑み込み手に取った杯を詳しく見る。


本来御神木と言うものは神の依り代として扱われ自然を象徴するものとしても信仰を集めていた物だ。

故に樹齢が三桁後半に届くような御神木には少なからず神力が宿る。


つまり、何が言いたいのかと言うと。


「そう簡単に壊れるような物じゃねぇだろう」


「その通りさ、萃香があんな事をしなけりゃね」


二人分の視線に萃香は苦笑を浮かべる。


「あの時は酔っぱらってて照準がズレたんだよ、私も勇儀の杯の真上に現れるつもりなんてなかったし」


「お前の場合は常に酔っぱらってんだろぉが」


「本当だよ全くそれで岬影だったね。直せそうかい?」


流石にここまでボロボロだと無理かねぇ、そう思い尋ねる勇儀。

最初から直せないと諦めてた物だし、無理な物は無理だと割り切るのが鬼だ。


「ん?あぁいや杯ならもう直ってるぞ、ほら」


「え?」


さも当たり前な顔をした岬影が持っているのは、見間違え様のない自分の杯である。

勇儀が目を離したのはほんの数秒だった筈なのだが……いや今はそんな事はどうでもいい。


「こりゃ大したもんだ、本当に気に入ったよ!!代金の事なんだが良い酒が入っててね今から一緒に飲もうじゃないか」


「あ?いや俺は別に……」


「遠慮しなくて良いよ、ほら行こう!!」


強引と言う言葉を通り越して岬影を抱え上げる勇儀。


ーー攫われる?!


すかさず体をバラして脱出しようとする岬影……だが。


「ッツ!!萃香てめぇ!!」


「逃がさないよ岬影、たまには付き合って貰わなきゃ」


彼女の能力によって強制的に萃められ逃げられない。


そんな訳で本日の絡人繰形店は店主不在により早めの閉店を余儀なくされた。

鬼に気に入られるとこういう事になります。

皆さんも注意して下さい。

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