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絡人繰形店ーー寺小屋と相棒

前話の明後日の話です。



その日の岬影はいつも通りの不機嫌面……の上に貼り付けた様な微笑を浮かべていた。


「本日慧音が…慧音先生の都合の問題で一日だけ教師の役を任された岬影 連だ、呼び方は自由だが(先生)を最後につける事を忘れないように、何か質問は……」


「「「「「「はい店長さん!!」」」」」」


「いや…だから最後に先生をつけ…」


「「「「「「はい店長先生!!」」」」」」


「なぜ店長を付けたが……まぁそれでいい」


ここは人間の里、通称……というか略して人里と呼ばれている場所だ。


幻想郷に住まう人間は一部例外を除いてここで暮らしており妖怪の賢者によって安全な生活を約束されている。

もっとも、大きな問題があったのは最初の頃だけであって現在は人と妖怪が一緒に居酒屋で騒いだりしているのだが。

因みにその一部例外と言うのは、博麗の巫女であったり普通の魔法使いであったり紅魔館のメイドであったりする。


ーーやっぱ断っとくべきだったか?


今更ながらに後悔する岬影が視線を窓際に向けると特徴的な帽子と紅白のリボンが目に入る、どうやら逃がしてくれそうにもない。


ーーま、今日一日だけだと割り切るしかねぇなこりゃ


目の前には期待に目を輝かせている子供達。

窓の外には友人が二人。


前門の虎、後門の狼……と言うには些か迫力に欠けるが岬影を逃がさないのには十分過ぎた。


さて、こうなった経緯を語るには少々時間を戻らなければなるまい。



▲▼▲▼



幻想郷最速の鴉天狗、射命丸 文が名誉挽回汚名返上の為にあちらこちらを飛び回っていた丁度その頃。


昨晩の約束通りミスティア・ローレライが営む「八目鰻屋台」を訪れた岬影の隣には二人分の人影があった。


「……やはり私は教師に向いていないのだろうか」


そんな台詞を何やら深刻そうな表情で漏らしたのは、人里で幻想郷の歴史の編纂作業を行う傍ら寺小屋にて教鞭を執る少女。上白沢 慧音である。


席に着くなりそう切り出した彼女の言葉に岬影は。


「妹紅、翻訳を頼む」


「そこで私に振るのかよ、別に良いけどさ」


慧音を挟んで左側に座る白いワイシャツと赤のモンペをサスペンダーで吊った長髪白髪の少女。

蓬莱の人の形、[老いる事も死ぬ事も無い程度の能力]によって永遠を生きる者。

藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)に説明を求める。


因みに彼女…藤原妹紅は、絡人繰形店のお得意様である蓬莱山 輝夜ととても仲が悪い、メッチャ悪い、日常的に殺し合う程に悪い(まぁ互いに不老不死なので死にはしないが)。


しかし岬影と仲が悪いかと聞かれれば、決してそうではなく寧ろ友人として認めている。


補足すると幻想郷内で、紫、黒峯、幽々子、文についで付き合いが長いのが妹紅だ……この話をすると決まって輝夜の機嫌が悪くなるのだが…なぜだ?


「うーんそうだな、掻い摘んで説明するなら自信損失ってやつ?」


「掻い摘み過ぎだ、何でまた今更こんな事を言い出してんだよって聞いたんだが」


「今更って何気に酷いな、確かに的を得ているけど」


「い、今更?!つまり最初から私は教師になるべきではなかったと?」


二人の会話に挟まれていた慧音は無視できない言葉にショックを受けた様に顔を起こす。


すると


「別にそこまでは言わねぇがな、お前の授業が子供受けするかと聞かれりゃ満場一致で首が横に振られるぞ」


「子供相手に教えるには頭の硬い授業の組み立てだよな」


「何となくだけどー二人の言ってる事は分かるわー♪」


岬影と妹紅はおろか場外よりミスティアからもダメ出しを食らいガックリ、と項垂れる。


「そうだな、これならいっそのこと今後も妹紅に先生をやってもらった方が子供達も喜ぶかもしれん」


「何でそこで妹紅が出てく……ん?あぁそう言う事か」


納得したように岬影は頷く。

妹紅が否定しない所を見ると、推測は事実らしい。


「今の反応で分かったと思うけど一応説明しとくか、これは一昨日の話なんだけど……」



▲▼▲▼



一昨日の朝の事だ。

一晩中輝夜と弾幕ごっこと言う名の殺し合いをしていた妹紅は自宅にて惰眠を貪っていた。


するとそこに顔色の悪い慧音が訪ねて来て…曰く風邪をひいたとか。

あらゆる病を退ける白澤の力を持つ筈の彼女に一体何が起こったのだろう?


そして慧音が妹紅にした頼み事とは寺子屋での代行教師。

本当は寝ていたかったのだが、妹紅は友人の頼みを断る薄情な女ではない。

快く引き受けその日の授業を行った……ここまでは良い。


問題は次の日、つまり昨日の話になる。

復調した慧音が寺子屋に向かい教室に入ると。


「妹紅先生じゃないのー?」


「妹紅先生は来ないんですか?」


「俺妹紅先生の授業が受けたい!!」


「またお前か、早くもこたんを出せ!!」


文字通りふるもっこにされた。

念の為書き記すが最後の一人は数日間頭痛に悩まされた後正気に戻ったらしい。


「……で今に至ると」


「そーゆうこと、私は気にしなくてもいいって言ったんだけどな」


この店には落ち込んだ人…もとい人妖を誘い出す程度の能力でも宿っているのだろうか?


「それで岬影に提案なんだけど、頼んで良いか?」


「お手柔らかに頼むぜ"相棒"」


岬影の言葉に懐かしそうな笑みを浮かべる妹紅。


「何年前の呼び名だよそれ」


「俺が幻想郷を出て暫く立ってからだから…ざっと700年ぐらいか?」


「あの頃は妖怪がそこら中にいたからなぁ」


そこからは岬影と妹紅、二人で妖怪退治をしながら旅をしていた頃の話が続く。


そして二人が昔話に花を咲かせているその時。


「うぅもう飲めん」


一人で酒を飲みほした慧音は早々とダウンしていた。



▲▼▲▼



「……ここまでが慧音先生から頼まれていた範囲だ、もし聞きたい事があれば後日慧音先生に聞くといい」


慧音に渡されていた資料分の授業を、要点を纏めることで通常の半分程度で済ませた岬影は教壇に手を着き生徒達を眺める。


「ここからは少しこの場所、皆の通う寺子屋について話したいと思う」


生徒達の視線を集めた岬影は妹紅と打ち合わせた通りに言葉を紡ぎ。


「皆は……慧音先生の事が好きか?」


そう、尋ねた。

窓の向こうが若干騒がしくなったが妹紅が何とかするだろうから無視。


「うん!!」


すぐさま帰って来る生徒全員分の返事。

岬影は満足そうに頷くと。


「そいつは良い事だ、誰だって嫌いな奴の授業を受けたいとは思わないしな、じゃ質問を変えるぞ、皆…慧音の授業は好きか?」


今度は答えが返ってこない。

まぁそれを見越した上で質問した訳なのだが。


「実を言うとな、俺も慧音先生の授業が良い授業だとは思っていない……宿題の範囲も少しおかしいし」


しかし、だ。

岬影は気まずそうな子供達に向かって教えていく。


「お前達はもっとこうして欲しい、とか言ってみた事はあるか?こうだったら楽しいとか、言ってみたか?」


横に振られる生徒分の首。


「ま、無くて当然先生に向かってそんな事は言い難いだろ、けどな、別に遠慮する必要は無い。

誰だって得意な事もあれば苦手な事もある、慧音先生の事が好きなら一緒に寺子屋をもっと楽しい場所に変えられる、そうだろ?」


今度はちゃんと返事が返って来た。

とても大きな、純粋に透き通った声で、だ。



▲▼▲▼



実際の所、昨日の話を子供達がきちんと理解していたかは正直言って怪しい。

と言っても伝えたかった事は恐らく分かってくれた筈だ、子供達も…そして慧音も。


ーーまぁ後は慧音が自分で何とかするだろ。


そう思い文々。新聞を手にした岬影はいつも通り、絡人繰形店を開店させるのであった。






数時間後普段の五倍増しで嬉しそうな顔をした慧音が岬影を昼食誘うのだが、それは又別の話だ。








頑張れ慧音先生!!シリーズ第一話(嘘)でした。

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