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絡人繰形店ーー新聞と温もり

岬影は結構お人好し……今更ですけどねー

鬱蒼と樹々達が生い茂る森。


こう表現すると化けキノコの群生地帯である魔法の森のように聞こえなくもないがこの森には化けキノコなどいない……代わりに妖怪は出るが。


「…ったく何で毎度毎度俺が呼ばれんだよ、他にも適任が居るっつーのに…お前とか」


「私じゃどーにもならないからアンタを呼んだんでしょーが」


そんな人里付近の森の上空を愚痴りながら飛んでいるのは絡人繰形店、店主岬影であり、その後ろを紫を基調した服を身に纏うツインテールの少女、新聞「花果子念報(かかしねんぽう)」の発行者である鴉天狗の姫海棠(ひめかいどう) はたて が追いかける。


しばらく進み目的の場所を発見した二人は地面へと降り立った。


「私はもう帰るわあいつのあんな姿を見たくないし、だからさっさと元に戻してこれじゃーモチベーションが下がりっぱなしよ」


「分かったやりゃ良いんだろやりゃ、本当に仕方ねぇな」


言うだけ言って颯爽と姿を消したはたて。

その事に関して岬影は何も思わない。


彼女からして見れば原動力の半分を削り取られた様なモノだ、協力を得られるとは到底思えん。


ーーさてと、始めるか。


軽く気を引き締め、視線の先…リアカーに焼き鳥屋の設備を乗っけた「八目鰻屋台」の暖簾を潜り、


「何やってんだよ、このアホ鴉」


文字通り酒に呑まれた友人の頭上へ鉄拳を振り落とした。



▲▼▲▼



天狗という種族は新聞が好きだ。


鴉天狗、木の葉天狗、白狼天狗に大天狗。

厳密に分けると凄まじい事になるので割合するがいずれも新聞好きである事に変わりはない。


報道職を担う鴉天狗は言わずもがな本来、哨戒職、管理職であるはずの白狼天狗や大天狗も新聞を嗜み中には自身の新聞を発行する者までいるのだから凄い話だ。


そして多くの新聞が発行されるとなれば優劣を付けたがるのが天狗の性。

妖怪の山にて毎年行われる新聞大会の歴史は、瓦版大会であった頃から数えると200年を優に超える。


「うぅ……どうせ私の新聞なんか…」


「あのなぁ文、たかが新聞の大会だろ?そんなんで最下位を取ったぐらいで情けねぇぞ」


「連に何が分かるのよ…このバカ人形」


「分からねぇし分かりたくもねぇな」


……であるからにして、今年度の新聞大会にて堂々の最下位に鈍く輝いた「文々。新聞」の発行者、射命丸 文の心は失意のマリアナ海溝へと沈んでいた。


今まで安心と信頼の低空飛行を続けて来ただけあって相当ショックを受けたらしい、どれくらいかと言うと普段なら文の新聞に勝ったと喜ぶ筈のはたてが思わず身の心配をする程だ。


「いらっしゃーい岬影ー、でもお酒は射命丸が全部飲んじゃったからもう無いのー、八目の蒲焼きだけでも食べてくかしら?射命丸の頼んだのが余ってるのー」


天狗は総じて酒豪でありそう簡単には酔わない筈なのだが……屋台の酒を全部呑んだのなら納得がいく。


「悪いなミスティア、今日の所ははこのアホ鴉を引き取りに来ただけだし又今度出直す、お代はこれで足りるか?」


八目鰻屋台を営む雀妖怪ミスティア・ローレライの申し出を断り、巾着袋から数枚の小銭を取り出しカウンターへと置く。


ミスティアはその額を確かめると。


「足りる足りてるー明日の分の支払いの半分を含めて良いぐらいよー」


歌うように告げる。

何時の間にか明日来る事が決定されていたが、特に問題は無い。

誘う当てはいくらでも在る。


「さぁて、先ずはこいつを持ってくか、おい文早く立てここで寝るな」


「……うるさい」


ーー駄々っ子かこいつは。


仕方が無いので背中におぶって連れて行く事にした岬影。

ミスティアに手伝って貰い文の体を持ち上げる。

力の入らない体を動かした為所々服が肌け、やたらと扇情的な瞳と目が合うが同性及び岬影が見てもイラッとするだけである。


因みにその時、岬影の背中にはスレンダーな割に幻想郷の平均胸囲を軽く上回る胸が押し付けられていたのだが今更気にする岬影ではなかった。



▲▼▲▼



翌日、二日酔いという言葉に縁の無い文がスッキリ目を覚ますと、ここが自宅で無い事に気がつく。


ーーここは絡人繰形店?


昨晩の朧げな記憶と照らし合わせ状況を把握した文は。


「はぁやっちゃったわね、久しぶりに」


後悔の念を含んだ溜息を吐く。

昔、岬影が一度幻想郷を出て旅に行ってしまう前。

あの頃は上手くいかない事ばかりでその度に岬影へ愚痴を言っていたのだが。


「ーーーが、ーーはーーかな?」


すると聞き覚えのある声が下の階から聞こえてきた。

自分の聞き間違えでなければ……


嫌な予感がし、そっと一階への階段を降り声がハッキリ聞こえる場所で止まる。


ーーなぜ大天狗様がこの店へ?


そこにいたのは、いつにも増して不機嫌面をした岬影と先ほどの声の主、赤い顔に高い鼻、大柄な体格に巨大な羽団扇。

文の上司の一人である大天狗だ。


「最初に言っておくが俺の答えは変わらねぇぞ、何度来ようが文々。新聞以外の新聞を購読する気はねぇ」


「そう言わないで下され店主殿、あの様な最弱新聞などと契約している事が知れればこの店の品位と言うモノも落ちてしまう、私としてもこの店とのパイプは喉から手が出るほど価値のあるモノ、考え直して……」


「口説い」


ゾワリ、と嫌な感じのする霊力が場を支配する。

大天狗の表情が固まり。


「し、知りませぬぞ、あの程度の新聞が貴方の価値を下げているのですからな!!」


「それが何の関係があんだよ、俺はあいつが心から新聞を書く限り購読する、一生な」


慌てた様子で捨て台詞を吐き逃げ出した大天狗。

独り言の様に呟く岬影。


けれどその言葉は文の元へとしっかり届いていた。


ーー自分は何の為に新聞を書いている?


ランキング?順位?それがどうした!!

自分の新聞を楽しみにしてくれている人が居る。


それだけで十分ではないか!!


「……連」


「ん?起きたのか?って文?!」


「まだちょっと二日酔いなのよ、だから動かないで」


倒れこむように、座っている岬影の膝へ頭を乗せ腕を腰に回す。


ーー暖かい。

本当に暖かい温もりが伝わってくる。


なのに何で……


「何で…連は人形なのよ」


「はぁ?何だよ急に」


「別に、何でもないわ。

それより二日酔いの薬は無いの?今日から又取材よ取材!!休んでいる暇なんてどこにもない!!」


「本当に何なんだ!!まぁ頑張るってんなら応援ぐらいはしてやるがよ」


なぜか完全復活を遂げた文の様子に困惑する岬影。

その表情に安堵の色が含まれていたのは気のせいではない。




射命丸 文。

幻想郷最速を名乗るこの少女は今日も新聞のネタを求めて大空を飛び回る。


自分は素で話す文の方が好きなんですが、皆さんはどちら派ですか?

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