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絡人繰形店ーー姫様と氷嚢

永遠てゐ、じゃなかった永遠亭です。

その日は冬が近づいている事もあり一段と冷え込んでいた為かわざわざ中途半端な土地に位置する絡人繰形店を訪れる物好きはいなかった。


自覚が在ると言うのにこの場所へ拘るのは岬影なりのポリシーなのだろう。

しかし客が来なければ岬影は必然的に暇となる。

こんな日に限って依頼は一件も来ておらず連華は風見 幽香宅にてガーデニングの勉強中だ。

あの日を境に連華は週に2.3日程の割合で彼女の小屋に通うようになった、どうやら店の周りに花壇を作る計画のようで仕事の合間を使っての設計図作りに余念が無い。


ーーこりゃ本格的にやる事がねぇぞ。


するとそんな岬影の気持ちを汲み取ったかの様にカウベルが鳴り、絡人繰形店に客がやって来た……のだが。


「異変だな」


「迷いもなく断言しないで頂戴、貴方は私を一体何だと思っているの?」


ドアが開き目が合った途端そんな事を言い出す岬影に、芸術品の如き美しさを醸し出す少女。

永遠のお姫様にして永遠亭の主。

蓬莱山(ほうらいさん) 輝夜(かぐや)はうんざりした様子で言葉を返す。


ーーいつまで経っても根は変わらないのねこの男は、"今"も"昔"も。


などとちょっぴり感傷に浸る彼女に岬影は容赦なく追撃を仕掛ける。


「ありえねぇだろ、具体的に言うと黒峯の旦那が冬以外にも活動するぐらいにありえねぇ」


「やけにピンポイントな例えね、それと幾らなんでもあの男と私を同じ物差しで測るのはやめなさい」


永遠亭の外へ顔を出す事の少ない輝夜だが、流石に一年の四分の三を寝て過ごす黒峯と比べられるのは心外である。


それに今はダラダラと時間を消費している場合ではない。


「永遠亭で問題が起きたのよ、永琳とイナバ達は対応に追われているからしょうがなく私がここまで来たと言う訳、納得できたかしら?」


「それで俺を永遠亭まで連れて行くっことか」


まぁ、岬影としても丁度退屈していた所だ、少々面倒事の臭いがするのも今回は見逃すとする。


「分かった支度するからちょいと待っててくれ」


永遠亭で面倒事と言えば機械関係の事に決まっている、なので用意するのは工具類一式に後はその手の書物を数冊程度で良いだろう。


……待つこと数分。

工具箱と本の入った大きめのザックを背負い、油汚れが伴う機械いじりに備え「作業着」なる物に着替えた岬影。


外界から流れ着いた物を複製したのだがこれが中々使い勝手が良い。

ーー物は試しとアリスに頼んだ甲斐があったぜ。

油汚れだけでなく防水や防寒にも優れており、そして何より頑丈だ。


「準備は終わったようね…それでは」


片腕を差し出した輝夜はその黒真珠の瞳で掴まるように促し、どことなく芝居掛かった仕草で。


「永遠と須臾の旅路へ案内して差し上げましょう」


人を夢へと誘う妖艶な声が響き、次の瞬間岬影の視界は暗転した。



▲▼▲▼



「おいおい、また随分と面倒くせぇ事態に陥ってんな」


「そうなのよ、熱いのには慣れてるけれどこうも暑いと嫌になるわ」


次に岬影の視界が安定すると同時に目の前の建物、永遠亭から吹く季節にそぐわぬ嫌な熱風が頬を撫で付け輝夜は不快そうに目を細める。

外に居てもこれだ、中がどうなっているかなど考えたくもない。


「この熱風、空調設備がイカレちまったのか?そう簡単に壊れる柔な作りじゃねぇだろうによ」


なんせ、河童と岬影の共同開発だ。

床暖房システムを普及させられなかった鬱憤…もとい無念を晴らさんとばかりに河童達がこれでもかと死力を尽くした結果、仮に大地震が起こり永遠亭が崩れようと設備だけは無傷で残る程の強度はかねそなえていたはずなのだが……


因みにそれって意味が無いんじゃ….とかは聞こえない、聞こえないといったら聞こえない。


「それを調べさせる為に呼んだんじゃない、私は永琳の診療室で避暑しているから原因を突き止めて解決したら来て頂戴」


「ん?あーそういやあの部屋だけは別のパイプラインだったな、それよか姫さん俺に丸投げでいいのか?多少の故障なら永琳でも十分直せるんだぞ?」


商売人としてはあり得ない発言だが、永遠亭は大のお得意様たまには相手の出費を減らす配慮も必要だろう、と思っての発言である。


「何よ不服な点でもあったかしら?」


「いや別にそんなんじゃねぇが……」


「なら良いじゃない、ほら早く迅速に完璧に直してきて、そうでないと暑くて死にそうよ」


いやあんた不老不死だろ、というツッコミはしない。

要は死ぬほど暑いという意味だ、死なないが。


ーーまぁこの方が姫さんらしいか。


そう自己完結し空調設備の修繕をすべく岬影は永遠亭へと足を踏み入れた。



▲▼▲▼



ここ永遠亭の空調設備は地熱の熱気と氷嚢の冷気で空気の温度を調節し、それをパイプで運ぶ…というシステムを導入している。


故にこの異常な熱気の原因として考えられるのはパイプの破損、地熱の上昇、氷嚢の異変のどれかだ。


「パイプの破損だと楽で助かるんだがなぁ」


他の二つは解決するのに時間が掛かる可能性が高い。

特に地熱の上昇となると岬影一人の手には負えなくなる。


ーーそれも視野に入れとくべきか?

そう思いつつ、永遠亭の敷居を跨ぐ。


「ま、とりあえず調べられるトコから終わらせるとするか」


そして岬影の体が霧散した。

自身の体を天文学的数字にまで分解し永遠亭の隅々まで行き渡らせていく。


パイプライン…確認中。


パイプNo.1〜5オールクリア。


同じくNo.6〜10異常無し。


最終ポイント…問題無し。


どうやらパイプの故障ではない。


「先に氷嚢の確認か、もし外れなら黒峯の旦那に頼むしかねぇ」


紫とかでも地熱の操作は出来るだろうが何を要求されるか分かったもんじゃ無いので却下。


体を再結合させ迷いの竹林の地下深く。

輝夜の有する[永遠と須臾を操る程度の能力]によって一年中溶ける事の無い氷が詰まった氷嚢へと急ぐ。



▲▼▲▼



「どうなってんだこれ?」


思わず、といった調子で言葉を漏らした岬影の前にあるのは大地にパックリとできた裂け目。

本来ならば古井戸を降りて行き途中の横穴が氷嚢の入り口となっているのだが。


ーーけどこれだけじゃねぇな、この裂け目自体はパイプの冷却には何の悪影響もねぇはずだ。


つまり別の原因がこの下にあるという事。


十分に注意しながら下へ、下へと降りてゆく。

やがて一番底、氷嚢のあるべき地点まで降りるとそこには何もないただ広いだけの空間となっていた。


氷が消えている。


いや、片隅にほんの小さな塊が残っているがこの程度の量では何の役にもたたない……通常であれば。


「氷は俺が元に戻すとして後は溶け出した原因か」


そう、幾ら小さくなっても完全に溶けなければ岬影の能力でどうとでもなる。

今は氷の溶けた原因解明が先だ。


かなりの広さがある氷嚢全体を探るため再度体を分解する岬影。


そして……


ーーっな!!


そこで発見したモノに岬影は驚きを現にせざる負えなかった。



▲▼▲▼



永遠亭ーー八意 永琳の診療室。


唯一強烈な熱気の被害を免れていたこの部屋には現在二人の人影があった。


辺りに置かれたベットには脱水症状を起こし倒れた数匹の妖怪兎が寝ている。


「うどんげとてゐに薬の材料を買わせに行かせたのは良いけれど、ここから動けないのは問題ね」


眉間に軽くシワを寄せて呟いたのは従者、八意 永琳であり。


「ま、気長に待ちましょう、直に岬影が全て元に直してくれるわ」


呑気に言葉を返したのが主、蓬莱山 輝夜である。


二人が避暑地で片や薬の調合に片や暇を弄ぶのに没頭していると、先ほどの会話で出てきた噂の修理屋がドアを勢いよく開いて現れた。


「永琳いるか?!」


「いるには居るけれど病人が寝てるの声量は控えて」


「悪いがこっちも病人だ、一先ず寝かせてやりたいんだがベットは空いて居るよな?」


忙しく喋り続ける岬影の背中には幼い少女の姿が、服は青くショートボブの髪と目は赤い。

なんともチグハグな格好だが問題は唇が真っ青に染まっていること。


「極度の空腹、それと冷え症ね。

岬影、貴方の能力でどこまで回復させられるかしら」


途方もない年月を生きてきた永琳の確かな観察眼は少女の症状を即座に見抜く。


「残念だがこれは壊れたっつー扱いには出来ねぇからな俺の能力は圏外だ」


「そう、けれど時間さえあれば命に関わる程の状態ではないわ、輝夜悪いけど……」


「栄養食のB-5番でしょ?」


永琳が頼もうとする前に輝夜は手に持ったチューブを渡す。

呆気に取られた永琳と岬影に輝夜はしてやったりと笑みを浮かべ。


「一体何年永琳の働く姿を見てきたと思っているのよ」


「「異変だ(わ)」」


「好い加減異変から離れなさい!!」


そう絶叫した。



▲▼▲▼



さて、岬影が氷嚢で発見した少女。

彼女は火前坊(かぜんぼう)、自らを火で焼いた僧が妖怪となった者だ。

なぜ僧なのに女?とか聞いてはいけない。


どうもあの裂け目に落ちた彼女はまだ飛ぶ事が出来ないほどに幼く、寒さから身を守る為に氷嚢の氷を片っ端から溶かした。


その結果、パイプからは暖かい地熱の空気のみが伝わって今回の事件が起こったのだ。


永琳と岬影、それとほんの少し手伝った輝夜の手厚い看護のお陰で彼女は全快し、今まさに岬影が探したした母親と互いの体を抱擁しあっている。


「なにはともあれこれで一件落着ってとこか?」


「そうね、氷嚢は元に戻ったしあの子も母親と再開したわ」


二人の姿を見つめる岬影と永琳。

共に親という存在には縁が無く、岬影に至っては記憶の片隅にすら無い。


ーーこれはこれで楽しい人生なんだが。


因みに彼女らの周りには炎が渦巻いており、常人ならば焼け死ぬ程の熱波が押し寄せていたが…不思議な事にまるで気にならなかった。

すみませんオリキャラ出さないとか言っときながら出しちゃいました。


セリフ無いしギリギリセーフかな?

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