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絡人繰形店ーー花と華

収穫祭、本番です!!



戌の刻ーー


収穫祭が最高に盛り上がるこの時間帯。

道の両脇にズラリと並ぶ出店やあちらこちらに止まっている屋台はその盛況さを物語っており、祭独自の食欲を掻き立てる濃厚な匂いが充満しどの出店も屋台も客で賑わっている。


そんな中、一際道ゆく人々の好奇の…身も蓋もなく言ってしまえば珍妙なモノを見る視線を集めている三人組の姿が…


「わぁ今年も活気に溢れてますね、連様・幽香さん何か食べたい物ありますか?私買って来ますよ~」


その三人というのはニコニコ顔の付喪神・連華であり。


「貴方に任せるわ特にこれといった好みも無いし」


同じくニコニコ顔…というか他人を不安にさせる笑みを浮かべた四季のフラワーマスターこと風見 幽香であり。


「オイ連華、こいつの分は全部ゲテ物で構わねぇってアホかお前ガキが見てるとこで何やってんだよ!!」


あの後抵抗も虚しく幽香に連行された岬影であったりした。脇腹に突き刺さった日傘はご愛嬌である。


通告も無く突き立てられた日傘に一瞬周囲がザワめく…がそこは幻想郷の住民達のこと別段騒ぎたてる必要は無いと見るや妙な三人組の様子を窺うのに戻る。


ーーやっぱし変に見えるよなこりゃ


連華の事は人里で知らぬ者などいないし時々連華と共に人里へやって来る岬影もある程度は顔が知れている、この二人が一緒に居た所で誰も不思議には思うまい…というか去年まではそうだった。


だが今年はもう1人、大妖怪として名の知れている風見 幽香がいるのだ。どうしたものかと疑わない方がオカシイ。


「さてと、連華も買いに行っちまったし俺は少しあそこら辺を見て来るとするか、お前はどうする?」


幸い人里には待ち合い場として最適な所がある、多少バラバラになったとしてもそこ落ち会えるので便利だ。


「そうね、なら私も向こうの方を見てこようかしら。

一刻後、最初に話した通り龍神像の前で落ち合いましょう。」


そう言って幽香が指差したのは岬影が行こうとしたのとは別の道。

てっきりついて来るのだと思っていた岬影としては少々予想外である。


「あら?もしかして一緒に行きたかったのかしら?」


「それはねぇから安心しろ」


そんな視線を察した幽香の言葉に間髪入れず答えた岬影であった。



▲▼▲▼



「幽香の奴は、一体何を考えてんだかな」


ふと独り言でそんな事を呟いてしまう岬影。

彼女と連華の間に起きた出来事が出来事なだけに下手に手を出すのを控えていたら、これだ。

全く持って意味が解らない。


なので深く考え込んでいた岬影が前方不注意だったのは当然の事だと言えよう。


「いや、言ってる意味が分からない上にこれはどう見てもそっちが悪いわ」


「悪りぃ穣子様、小さくて見えなかった」


岬影の前でしかめ面をした風変わりな帽子を被った少女の足元に落ちているのは、最近人気の出ている食べ物で「ぱふぇ」とか言うらしい。

どうやら前をよく…否全く見ていなかった見ていなかった岬影が避けようとした少女に正面から突っ込んでしまった様だ。


「来年からはアンタの店の畑には何も実らなくなるけど?」


「分かったよ買い直して来るからそれで勘弁してくれ」


そう言うと目の前の少女、[豊穣を司る程度の能力]を持つ八百万の一柱…(あき) 穣子(みのりこ)の気が変わらない内に代わりのぱふぇを買うべく店に並ぶがそこに在るのは人人人の大行列。


ーー面倒くせぇ

自業自得である。



「で、収穫祭の主役がこんなところで呑気にぱふぇを突ついてていいのか?」


「いいのよ別に今夜は私が主役なんだもん、まぁ一通りやる事を終わらせて暇してたんだけどね」


秋 穣子という神様はその能力が示す通り幻想郷の豊穣を司る神…所謂、豊穣神である。

毎年収穫祭になると呼ばれるのだが、実のところ収穫前に呼ばなければ意味はないので呼んだ所で利益は無い。


まぁ本人曰く。

「人里の人間達と楽しくやっていければそれで良いじゃない」

との事なので双方特に気にしてはないのだろう。


「そう言う岬影こそ連華ちゃんと別行動なんて珍しいわね、ついに見捨てられちゃったとか?そりゃこれだけ鈍ければねぇ」


「何を言いてぇのかは知らねぇがあいつなら食い物を買いに行ってる、後で龍神像のトコで会う予定なんだがな」


そっか、と返答する豊穣神の顔は何故か呆れ顔であり、気がつけば長蛇の列も何時の間にか残り僅かとなっていた。



「山の幸びっくさいずぱふぇを一つ!!」


「何だその明らかに値のはりそうな名前は?!」


順番が回って来るなり直ぐさま断言する穣子。

すかさずお品書きを確かめると案の定彼女が選んだのは一番高いぱふぇ、並のぱふぇならば三つは買える額だ。


「それじゃご馳走さま岬影、来年もちゃんと畑に豊穣を与えてあげるから安心して頂戴」


言うなり軽くステップを踏みながら去っていく穣子の姿を見て思わず。


ーーま、あれだけ嬉しそうな顔をしてくれるなら金を出すだけの価値はあったか。


冬の彼女を知る者はその考えに大いに賛同してくれるに違いない。

そして時間を確かめる為に備え付けの時計を見る。


……見る。


……よく見る。


……とてもよく見る。


現在の時刻、戌の二刻。

既に待ち合わせの時間を半刻も過ぎている。

時間でも巻き戻さない限り間に合わないだろう。


「……最悪だ」


とりあえず腹を括るしかあるまい。



▲▼▲▼



岬影は急いだ、これでもかと言う程に急いだのだ。

途中で酒瓶の山に埋れていた萃香と同じく空の皿に埋れた幽々子の姿を見かけるもスルーし、永琳と共に鈴蘭の加工品を一生懸命に露店で売り捌くメディスンに声もかけず、珍しく顔を出し魔理沙に連れ回されていた霖之助を、見ない振りしてまで急いだのだ。


故に。


「この扱いは絶対におかしい」


「おかしいのは貴方の顔でしょう?随分と大胆な面構えになったわね」


「お前のせいでな!!」


何と言うか…非常に不細工な顔の男がそこにいた。岬影である。

鼻を思い切り捻じりながら引っぱられたようでかなり不気味な顔と化しており…その証拠にただでさえ離れていた人垣が更に離れて行く。


「これで客足が遠退いたらお前のせいだからな」


この状態は"壊れた"と定義する事が出来ないので岬影の能力も無意味…なので一旦顔を抉り取りその上で再生させる、無論顔を隠しながらだ。


「何を言い出すかと思えば、直接店を訪ねて来る人間なんて元々居ないじゃないの」


確かに人里の客は連華に故障品を預け、直された品を受け取り代金を払うといった形で店を利用するので滅多に来ない。

しかしこれでは店主としての面目が保てないではないか。


「その話はもう良い、それより連華の奴はどこで油を売っているんだ?」


いくら三人分の夕食を買うにしてもここまで時間がかかるとは考えにくい、すると幽香も似た様な事を思っていたらしく。


「仕方がないわね、確か…この道だったわ様子を見に行くわよ」


「ん?別に待ってても構わねぇぞ俺が一人で行って来てやる」


寧ろその方が注目されずに済むので岬影としてはありがたいのだが…


「いいから、行きましょ?」


バレバレの思惑は見抜かれており形式上は尋ねているものの幽香の腕は既に岬影を捉えていた。



▲▼▲▼



結論から言うと、連華は捜索開始から10分も掛からずに見つかった。

見た所、人里の若者に囲まれて戻るに戻れなかったらしい。


ーー何てありがちな状況だ。


岬影の思った通りありがちな光景ではある、異なる点を二つ程上げるならばそこにいる5人の若者が束になった所で連華の足元にすら及ばない事、もう一つは…


「私の連れに何か用かしら?」


とても良い笑顔を湛えた風見 幽香がそこにいた事。

途端、正に雲の子を散らし去って行く若者達。ご愁傷様だ。


「あのぅ幽香さん、あの人達も変な下心があった訳じゃないと思うんですけど…」


「つーか彼奴ら全員妻子持ちだろぉが」


大方日頃のお礼に、とでも言って純粋に感謝の気持ちを示そうとしたのを連華が渋ったのだろう。


「いつものお礼と言って下さったのですがど既に三人分の買物も終わっていましたし」


ーー何か俺達の方が悪くねぇか?


「…何?」


視線に気がついた幽香に向かって、


「いや、お前でも早とちりする事があるんだなぁ?!」


余計な言葉を零した岬影の腹に本日二度目の日傘が突き刺さったのは言うまでもあるまい。



▲▼▲▼



その後…特筆する事もなしに時間は経過し、収穫祭は終わりを迎えようとしていた。


強いて言うのであれば、100%からかい目的で現れた紫と幽香の間に火花が散ったり、サボっているのを閻魔様に見つかりフルボッコにされ引きずられていく死神の姿があったぐらいだがいつもの事なので岬影は見向きもしなかった。


「あ、あの幽香さん!!」


「何かしら?」


少しばかり頬を上気させた連華の声は夜風に流され幽香の元へと届く。


「今日は、その…お誘いしてくれてありがとうございました、私とても楽しかったです、幽香さんと一緒に来れて」


いつもよりほんの少しだけ幽香の目が見開き、そして。


「そうね、私も楽しめたわ。

少なくともあの日の自分を叱咤したいぐらいにはね」


「おい幽香おま…」


岬影の言葉を片手で制し幽香は続ける。


「貴女は連華、一輪の花なのよ。

あの時はまだ蕾だった貴女が…まさかここまでの花を咲かせるとは思ってもいなかったわ、だからこれを…連華がより美しく咲くことの出来るように」


幽香が差し出したのは一輪の花。

それは[花を操る程度の能力]を有する彼女ならば造作もないこと、肝心なのは込められた言葉(メッセージ)


華やかな黄色に彩られたその花の名は、百合水仙(ゆりすいせん)又の名をアルストロメリア。


「いいんですか?私に…こんな」


「ふふ、貴女にだからこそよ、今まで以上に美しくそして強くなりなさい、まぁその前に…」


視線を岬影に傾ける。


「早いとこ自分の収まる花瓶を手に入れるのね」


「な、なぁ!!」


たちまち真っ赤に染まる連華の顔。

最後の言葉は意味不明だが…これだけは言える。


ーー連華が満足してんなら特に言うことはねぇか


そう思い、この現状に関して一言…


「あまりからかってやるなよこのサディストォォ!?」


酷すぎる発言に本日三度目の日傘が突き刺さり、完璧なフォームから打ち出された連華のアッパーが岬影の顎を粉砕した。



▲▼▲▼



後日、嬉しそうに百合水仙の世話する連華と何故あの時連華まで怒ってたんだと、未だに悩む鈍感店主の姿があった。




百合水仙…花言葉は、『華やかであれ』

この日を境に連華のアプローチが激しくなったとか、ならなかったとか?

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