絡人繰形店ーー収穫祭とフラワーマスター
いざ収穫祭!!
紅葉がピークに達し黄金の絨毯と呼ぶに相応しい見事な稲穂が田を彩るそんな時期。
収穫祭の時がやって来た。
今頃人里の人間達は出し物や料理の準備に追われている頃だろう。
人里を挙げての大規模なこの祭には人妖問わず多くの者達が集まり、飲めや歌えやの大騒ぎとなる。
まぁ最後まで飲み続けているのは決まって妖怪連中なのだが。
幻想郷内でもかなり大掛かりなイベントだ。
そんな収穫祭の用意が着々と進む中岬影は何をしているかと言えば…
「どうせ今日はもう客も来ねぇだろうし店仕舞いにするか」
文々。新聞を片手にいつもと何一つ変わらない一日を送ろうとしていた。
どうやらこの男の辞書には協調性という言葉が欠けているらしい、仮にも人里に顧客を抱える店の店主がこれで良いのだろうか?
「後は連華をどう言い包めるかだな」
こんな事を言っておきながらも、結局は捨てられた子犬の様な連華の目に流されて行く事になる岬影である。
別に岬影は収穫祭自体の存在を否定している訳ではない。
寧ろ幻想郷の豊穣神に信仰が集まる重要な行事だと認識している程だ。
では何故?と問われれば答えは単純で人混みが面倒だからの一言に尽きる。引きこもりかお前は。
そう言う訳で岬影が憂鬱に駆られていると、人里へ故障品の回収に行っていた噂の付喪神が大きめの籠を背負って帰って来た。
「連様~ただいま戻りました」
「ん?ああお疲れさん、どうだったんだ人里の方は?」
「今年も例年通り豊作だそうですよ、皆さんもお忙しそうに準備を進めていましたし今晩が楽しみです」
「…そりゃ良かったな」
他人事の様に呟く岬影。
今の連華を見て収穫祭に参加しないと言える奴は恐らく勇者か⑨だ。
残念なことに岬影はそのどちらでもない。
「あの連様…その件で少しご相談があるのですが」
「相談?収穫祭の事でか?」
「はい、お願いになるのですけど今夜もう1人だけ一緒に行ってはくれませんか?」
意外な相談…もといお願いである。
今までのこんな事は一度もなく二人で行くのが常であったのだが。
もう1人……と言うとやはり親友の多々良 小傘か、又は魂魄 妖夢であろうか?大穴で最近交友を深めている十六夜 咲夜かもしれないが…あのパーフェクトメイドが主人の元を離れたりするとは到底思えん。
仮にその面々が来るのなら自分がいない方が良いのでは?
と尋ねてみるものの。
「いえ、連様もいなきゃダメなんです」
岬影の考えはハズレであったらしく、ますます誰が来るのか予想がつかなくなってきた。
「で?結局誰と一緒に行きゃいいんだ?」
岬影の質問に連華が何やら嬉しそうな笑みを浮かべ言い放った答えは……
「風見 幽香さんです!!太陽の畑の!!」
予想の遥か上を突き抜け地平線にまで届きかねない様なものであった。
▲▼▲▼
太陽の畑
妖怪の山の反対方向の奥地に在る、一面を覆い尽くす向日葵が太陽の如く映える場所で"とある妖怪"がよく現れる場所としても有名だ。
そんな太陽の畑へと降り立つ岬影。
ちょいと用が出来た、とだけ言い残し全速力でここまで飛んで来たのだ。
暫く進むと、簡素ながらも丈夫な作りになっている事が伺える一軒の小屋に辿り着く。
ノックはしない。
「入るぞ幽香」
「マナーがなってないわね、ノックの一つや二つは欲しいのだけどもう頭にボケが回って来たのかしら?」
ーーどうせこの向日葵畑に入った時点で気がついていたんだろうがよ。
岬影の訪問に眉一つ微動だにせず白々しい態度を取る女性。
赤い格子柄のベストとスカートに白いシャツを着込み、淹れたてらしい紅茶を啜っている。
肩口ほどの濃緑色の髪、血の様に赤い目、綺麗に整った顔立ちは見るものを魅了するのだろうが…体から滲み出ている威圧感がその全てを埋れさせていた。
四季のフラワーマスター・風見 幽香
彼女のトレードマークである日傘は室内であるため傍にかけているが、その姿は幻想郷中に知れ渡っている。
幻想郷縁起では「絶大な力」「純粋に高い妖力・身体能力」「同じ強大な妖怪相手にしか本気を出さない」「人間には退治はまず無理」などと言われ放題…書かれ放題な彼女だが……概ね合っている。
「御託はいらねぇ、一体どんな心境の変化だ?お前があいつを…連華を収穫祭に誘うとはな」
「別に私は変わってなんかいないわ、寧ろ変わったのはあの子の方」
「…何が言いたい」
「私は花の妖怪、可愛らしい華を愛でる事の何が悪いのかしら?」
どうやら真面目に答えてくれそうにもない。
まぁいつもの事なのだが。
「悪いとは言ってねぇよ…唯あいつを傷つける様な真似はするなと伝えたかっただけだ」
「確かにアレは私の思慮が足りていなかった、一応あの子には詫びをいれたわ」
「お前が?」
「何でそんなに驚くのよ、この目が嘘をついている様に見えるというの?」
「人を見下している様に見えるな」
瞬間、いつ手に取ったのかも分からない日傘が真横に振るわれ、岬影の首が飛んだ。
首が再生するまでの間に幽香は岬影の側へと寄り、元通りに鳴った首元で囁く。
「いつからそんな事を言う様になったのかしらね、あ・な・た」
ビクッ!!と岬影の肩が震え上がった。
「際限無く紛らわしい言い方をすんじゃねぇ!!!」
「だって連華は私と貴方の共同作業で生まれた子だもの、こういう言い方も間違ってはいないでしょう?」
「あれって単に金を払う気の無かったお前が無縁塚で拾った片眼鏡を俺に渡しただけだろ!!そりぁ今では感謝してるが」
「だから今夜は親子水入らずって事ね」
「お前ぜってぇーワザとだろぉぉぉおおおォォォ!!」
収穫祭に行く前から疲れ切った岬影の運命やいかに。……続く。
幽香さん人気投票1位目指して突き進んでくれーー




