絡人繰形店ーー無縁塚とカセットテープ
絡人繰形店の店主、岬影 連の仕事は壊れた物品を直す事だ。
随分と単純な仕事のように見えなくもないがその守備範囲は異常に広く、人間の道具ならいざ知らず、妖怪の道具だろうが、冥界の道具だろうが、魔法の道具だろうが、挙句のはてには使用法の分からない外の世界の道具すら岬影の手にかかればすぐさま修復されてしまう。
そんな岬影だが、一ヶ月に一度とある場所を訪れに行く習慣がある。
普段は客の持ち込んだ道具を直すだけだが、たまには未知の道具を修復させたくなるのだ。
それに、そこへ行くのにはもう一つ理由がある。
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「よう、今日はなんか掘出し物でも見つかったか?香霖堂」
そい言った彼の視線の先にいるのは、一人の青年だ。
幻想郷でも珍しい銀髪金目に、和風とも、中華風とも、取れるであろう服を着込んでいる。
といっても彼は半人半妖なので見かけ通りの年では無いのだが、岬影自身人の事を言える立場ではない。
「やぁ連、珍しいな君が月に二日もここに来るなんて、明日は槍でも降るのかい?」
「そーいう事は俺じゃなくて紅魔館とこの吸血鬼に聞くんだな、もっとも怒らせた日にはグングニルの雨が振りかねないが」
森近 霖之助
魔法の森付近にて営業している古道具屋[香霖堂]の店主であり、岬影の善き商売仲間でもある。
岬影の十分の一程の年月を生きておりながら、彼と同等の会話をする事が出来る数少ない存在なのだ。
無縁の者達が眠る、ここ"無縁塚"に彼等がやって来る理由は二つ。
一つは無縁仏の火葬や埋葬といった弔いをする為。
そしてもう一つが・・・・・・・・
「掘出し物といえば掘出し物かもしれないが連、これはどんな道具だと思う?僕の能力だと使用方法までは分からないからね、因みに名称はカセットテープ、用途は音と映像の記録だ」
「ん、音と映像の記録か。
つーことはこの黒い巻き取られている所が触媒になってるのか?香霖堂、俺が思うにこいつは中に蓄えた音や映像を外界へ送るための物とセットなんだ、よし見つけた所をもっと良く探そうぜ、もしかすると近くにあるかもしれないしな」
一気に喋り霖之助から場所を聞くなりすっ飛んで行く岬影、その後からヤレヤレといった表情の霖之助が歩いて追いかける。
まぁ、これはいつもの事なので霖之助も特に気にしてはいない。
見ての通り、彼等が無縁塚に来る二つ目の理由は、ここに流れ着く道具を拾う為だ、決して盗んでいる訳ではない←ここ重要。
運悪く幻想郷に入り込んでしまい、妖怪の餌食となった外来人の遺体が多く埋葬されている無縁塚は、幻想郷の外と中、更には墓地であるため冥界とも繋がりやすく実に多くの道具が落ちているのだ。
目ぼしい道具を見つけては、まず霖之助が自分の持つ[道具の名前と用途が判る程度の能力]で名前と用途を解析しそれを元に二人で道具の使用方法を考えるのだ。
こう言う時には霖之助の十倍も生きている岬影の知識が非常に冴える・・・・・・・・といっても正解率は三割程度で大半はてんで的外れな答えに落ち着くのだが。
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「ん?これがそうなんじゃねーのか?ちょっと見てくれや香霖堂」
そう言って岬影が霖之助に渡したのは、薄い長方形に丸い円盤が二つついている物だ。
「どれどれ?これはテープレコーダー用途はカセットテープの再生か、流石連だなここまで早く見つけてしまうとはね」
「はっ!!なに言ってんだよお前がカセットテープを見つけたのが先だろうが」
そんな事を話しながらテープレコーダをいじり回す岬影、がふと動きが止まる。
もしかして壊れていたのだろうか?そんな事を考えながら霖之助が尋ねる。
「あー香霖堂、これを見てくれ」
「これは.......酷いな」
テープレコーダーの裏側、そこについていた金属板が外されていた。
本来ならばそこにテープレコーダーの本体ともいえるであろう物が詰まっていた筈。
しかし
「参ったなこりゃ中身が空なんじゃいくら俺でも直しようがねぇぞ、俺の能力は対象の元の姿を認識する必要があるしな、そっちの方でなんとかできないか香霖堂」
「生憎となんの手がかりも無いんじゃ厳しいね、せめてこれに類似した物が有ればそこから糸口を見つけられるかもしれないが」
いかに幻想郷トップクラスの知識人と修理屋がいた所で、0から外の世界の道具を創り出すのは困難なのだ、散々探し回った結果がこれで少なからず気落ちする二人、とそこで岬影がこんな事を思い出した。
「そぉいや、にとりの奴が似た物を持ってた気がするな、あっちのはこれよりも厚くて円盤もついてなかったが」
「にとり?もしかして河童の河城にとりのことかい?」
河童の河城にとりといえば、河童の中でも指折りのエンジニアだ、確かに彼女の所なら可能性もあると霖之助もにとりへ協力を仰ぐ事に同意する。
話し合った結果、妖怪の山に近い岬影がにとりの元を尋ねることになり、ことが済み次第また議論を交わす約束をする。
「じゃあな香霖堂、また今度会おうぜ」
「ああ、頼んだよ連、それと天狗の射命丸 文に会う機会があったら、新聞を窓ガラス越しに投げ込むのは止めるように言っておいてくれ」
「ははは、それについては諦めな、俺が何度言ってもあの野郎聞きやシネぇんだ」
共通の悩みで苦笑いをしながら、二人は無縁塚を後にする。
(さてと、明日辺りにでもにとりのとこに行くとするか)
岬影の頭の中には既に完成したテープレコーダーが浮かんでいる訳なのだが、、、、残念。
彼女が持っているのはビデオレコーダーでありどう頑張っても、カセットテープを再生する事などできないと知り大いに嘆くのは、明日の話である。