絡人繰形店ーー博麗と友
オリキャラはこの回の奴を含めて後二人です。
それ以上は出さないつもり。
「さて、香霖堂の奴は上手いこと出し抜いたみたいだし俺の方もさっさと終わらせるか」
十年ぶり。
そう、十年ぶりである。
岬影がこの場所を、博麗神社を訪れるのは。
しかしまぁ毎度十年越しに神社にやって来る岬影は今更感慨にふける事などない。
そういえば一ヶ月程前にこの神社の巫女が「神社が壊れたから今すぐ直して欲しいのよ…ツケで」などと商売というものを馬鹿にしているとしか思えない発言をしていたが一体あれは何だったのだろうか?
境内に入ると紅葉の木々達が目に入る、桜の名所として有名な博麗神社だがこの紅葉も中々美しく春の風景に見劣りしないだけの風情を感じられる。
「あの巫女さえやる気になりゃ賽銭なんぞ幾らでも集まるだろ、この風景なら」
ーーまぁそんな奇跡が起こるわけねぇか、なんせ……
「おい霊夢、邪魔するぞ」
「あれ?岬影?悪いけど今は相手してる暇がないから出直してちょーだい、因みに素敵なお賽銭箱はあちら」
「俺の目には暇を持て余している堕落巫女の姿しか映ってねぇんだが」
ーー肝心の巫女がこれだもんな
▲▼▲▼
今代の博麗神社の巫女…通称「博麗の巫女」である博麗 霊夢の特徴を一つ上げるのであれば、巫女服を着ている以外に巫女らしい所がどこにも見当たらない、という一言に尽きる。一体どこで落としてきたのだろうか?
異変が起これば必ず解決するが自分に影響が及ぶか周囲の者に言われるまでは動こうともしない。
何故か力の強い妖怪に好かれやすい、というか最近妖怪が神社に現れらようになったのは間違いなくこいつのせい。
鬼とか紅い館の吸血鬼とかスキマとか。
人里では神社が妖怪に乗っ取られたともっぱらの噂である。
「急に萃香が消えたと思ったら岬影のトコに行ってたのね」
後、勘がいい。
それも異常なまでにだ。
「ああまぁな、今頃は香霖堂に居るだろうが」
「霖之助さんの所に?ま、どうせ美味しそうなお酒を見つけたとかそんな理由なんでしょうけど」
何故分かる。
「で?お賽銭を入れに来たんじゃないなら一体何の用なのよ?」
「あ?あーそういや初めてだったかお前が巫女になってからここに来るのは、お茶は勝手に注がせてもらうぞ代金はお前のツケから引いておく」
霊夢の質問を適当に流しながらお茶を淹れる為に岬影は台所へと向かう、妙に手馴れている雰囲気なのは幻想入りして最初の10年程はここで暮らしていたからであったりするのだが今は関係の無い話であろう。
「俺は十年毎にこの神社を訪れるんだよ、博麗の巫女に頼みごとをする為にな」
「ふぅん、それならここで会うのは始めてのはずだわ十年前なら私、まだこの神社にいなかったもの」
霊夢の言葉に少々奇妙な感覚を憶えた岬影はお茶を飲む手を止める。
「人間……なんだもんなお前"も"」
「はぁ?当たり前でしょ、どこの世界に人間じゃない巫女が居るのよ」
「守矢の巫女は半分神だがな」
「もう半分は人間よ」
そりゃそうだったな、と呟く岬影の脳裏に浮かぶのは訪れるたびに巫女が老いていきそして何十年か一度に巫女が変わる、そんな場面。
「俺が後何回来るまで生きられんのかねぇーお前"は"」
「さぁ、というかその言い方ちょっとイライラするわね、死んだら閻魔はったおして戻って来ようかしら、岬影の驚く顔が見れそうだし」
「やめてくれよ、そんな理由で四季様に喧嘩売った事がばれたら説教されんのは俺なんだぞ?」
全くこの巫女が言うと冗談に聞こえないから怖い。
「とりあえず、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?あぁお賽銭箱にいくら入れるかって話だっけ?」
面倒なので無視する岬影。
「紫をここに呼んで欲しい今すぐにな」
「紫を?何でまた冬眠する直前に呼び出すのよ」
幻想郷を覆いそして守護する巨大結界[博麗大結界]、博麗の巫女たる霊夢はその結界を意図的に緩める事ができ、そうするとどこからともなく紫が注意しにやって来るのだ。
しかし、今は収穫祭間際もう時期紫が冬眠に入る頃だ、本当に冬眠しているかどうかは別として。
「こっちも色々と事情があるんだよ、深く詮索するのはお勧めしないぜ」
「そ、なら詮索はしないでおくわ元からする気もなかったし」
「おぅ、助かる」
▲▼▲▼
「霊夢~こんな時期に呼び出すなんて何を考え……岬影?もう十年も経ってたかしら?」
「生憎と、な。
悪いが付き合ってもらうぞ」
「分かっていますわ、一体何回こなした事だと思っているの?」
「違和感を憶えたのがここに来てからだからザッと20回か」
「どうでもいいけど行くなら早く行ってよ私忙しいんだから」
自分には関係ないと判断するないなやこれだ、しかも忙しいって何が忙しいのだ?きっと惰眠を貪るのに忙しいのだろう。
「分かった分かった、じぁな霊夢金さえ払う気があるならいつでも来い」
「そうね、行く時はちゃんと払うわ、ツケで」
「やっぱ来るな」
「はいはい私だって眠たいのを我慢して来ているのよ、早く行きましょう」
足元に開くスキマ、岬影と紫が落ちて行くその時まで博麗の巫女は呑気に茶を啜っていた。
▲▼▲▼
「ああ?何で滝の外側なんだ直接行きゃいいだろ」
「あの男やたら強力な結界を張っているみたいね、時間を掛ければ壊せない事もないけれど私達ならこの滝を通るのも容易いのだし」
「それもそうか」
二人がやって来たのは通称[滝の門]と呼ばれる妖怪の山と人里、そして絡人繰形店の三カ所から等距離にある滝だ。
明らかに水源などない筈の岩壁から噴き出す大量の水が崖の窪みを覆い尽くしその奥にある洞窟の存在を隠している……隠しているのだが割と皆知っているので意味がなかったりする。
「んじゃ行くか、早いとこ済ましてさっさと帰るそれが一番だ」
「そうね早く帰って連華ちゃんを安心させてあげたいものね」
「…」
「あら拗ねないでよ」
「拗ねてねぇ」
そこまで言うと簡易的且つそれなりの霊力を込めた結界を張り滝に突入していく紫と岬影。
そのまま洞窟を進んで行くと無駄に頑丈そうな扉に打ち当たる。
手を掛け力を込めるとギギギギ、と軋む音と共に内側へ開かれていく。
そこにあるのは巨大な空洞。
そしてその場所に堂々と居座る建造物。
複数の寄棟が集まり複雑な屋根の形をした寄棟造り。
名は[仁狼院]、紅魔館、白玉楼、永遠亭に並ぶ幻想郷パワーバランスの一角であり、岬影の尋ね人が住まう建物だ。
「さぁーてそろそろ来る頃だな、紫悪りぃが先に行って旦那を起こしておいてくれ」
「面倒なのよねぇアイツを起こすのってまぁ良いけれど、岬影も精々頑張りなさいな」
後ろに倒れこむ様にして紫がスキマに消えていくのを確認した岬影、すると仁狼院の方から飛び出して来る人影の姿が。
「待っていたぞ連!!いざ尋常に勝負、私が勝ったら勿論この婚約届にサインを……」
「するわけねぇだろ馬鹿が、それと勝つのは俺だお前じゃねぇ」
一瞬で岬影との距離を潰した少女、仁狼院の門番にして狼々刀の使い手、瀧透 キサラの言葉と重ねる様にして岬影の拳が振るわれる。
……が。
「やはりそう来なくてはな、倒し甲斐が無い!!」
「今のうちに負けた時の言い訳を考えとけよ!!」
その拳は容易く避けられ勢いを保ったまま薙刀が振るわれ岬影の身体が丁度二分された。
「焔符[大爆焔輪]!!」
同時に、岬影のスペルカードが発動切断された下半身が爆発し巨大な焔輪が辺りに巻き散らかれる。
「見えているぞ!!斬符[一閃一刀]」
溜め斬りの要領で打ち出された斬撃波と焔輪がぶつかり合い互いに消滅し、再生した岬影とキサラは向かいあう。
ダン!!!!
地面を凹ませる勢いで突っ込む岬影の一撃をキサラは又もや躱す、続ける様に放たれた蹴りも手刀も通常弾幕すらも避けられる、まるで見えているかの様に。
[近未来を覗く程度の能力]それがキサラの持つ能力だ、0秒後から10秒後までの好きな時間軸に自身の視線を固定する能力。
故に岬影の攻撃は見切られ躱される。
恐らくどれだけ打ち込んだ所でキサラには一撃も与える事は出来ないだろう……が。
「とりまこれでいっちょ上がりだな、まだまだ甘い甘い」
「つ、次こそは……」
それだけを言い残しキサラの意識は暗転した。
何が起こったのかと言うと簡単な話で、岬影が何度か放った霊弾あれ自体は単なる霊力の塊だが規則的に撃ち込むことにより拘束用の術式を完成させていたのだ。
岬影とのインファイト(張り付き)によって近距離での高速戦をしていたキサラの視線の時間軸は必然的に1秒未満に固定される、なので術式の発動に気付いたとしても手遅れだったと言うわけだ。
「さてとお次は彼奴か……はぁ行くの面倒くせぇな」
「行く必要は無いよ何故ならボクの方から来てあげたからね、久しぶりだねぇれ~~~ん酷いじゃないかボクがここから動きにくい事を知ってて放置するなんて、それでも親友なの?」
「うぜぇ」
何時の間に現れたのか、岬影の背中にベッタリと張り付く少女。
深緑色の髪に黒曜石の様な真っ黒い瞳、別にそれはどうでもいいのだが問題はこの少女の身体から滲み出ている馬鹿みたいな量の霊力だ。
姿形は変わっていてもその力は出会った時と何一つ衰えていない、相変わらずの化け物である。
「まぁ何だ、久しぶりだな晴明」
「晴連だよせ・い・れ・ん、せっかく君の名前から字をもらってまで改名したんだからちゃんと名前で読んでよね」
少女の名は安倍 晴連、かつてその名を都に轟かせた平安時代の陰陽師安倍晴明……その成れの果て。
なんかツッコミどころ満載な終わり方ですけど次回で説明が入るんで!!