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絡人繰形店ーー鬼と獣道

飲み過ぎ注意。



幻想郷最東端に位置し最重要建築物の一つであるとある建物。

人里でその存在を知らぬ者はおらず、また訪れた事のある者もいない。


色々な意味で矛盾した神社、博麗神社はそんな神社だ。


神社の癖に神主は居ないわ妖怪が常時たむろしているわと駄目な噂が立っているうえにそれらが全て事実なのだから始末に終えない。

ただでさえ少なかった賽銭は近年になって更に減り、博麗神社の家計簿は今月も火の車が爆進中である。


そして博麗神社に続く一本の獣道、別に安全が保障されている訳でもなく野生の獣や野良妖怪が出没するので普通に危険……なのだが今日は珍しい事にその道を歩く人影があった。


ついでにその人影の後ろに付かず離れずの距離を保った別の影があったのだがそれは割とどうでもよかったりする。



▲▼▲▼



「本当に長ぇなこの道は」


ボヤきながらもかなりのペースで歩みを進めているのは、総合修理屋[絡人繰形店]店主の岬影 連である。


彼がわざわざ博麗神社を訪れようとしている理由だが…勿論賽銭を入れる為ではない。

あの場所は幻想郷において様々な意味を持つ場所であるが、岬影の用事はそれらとはあまり関係が無くあくまでも岬影個人のモノだ。


「もう暫くすれば人里での収穫祭があるってのにこの寂れっぷりは……ありなのか?」


「まぁ別にいいんじゃないのかい?霊夢も気にしてないみたいだしさ」


独り言の様に呟いた筈だったのだが、真横から返答が来る。

視線を横に傾けた先にいるのは小柄な体にそぐわぬ歪んだ二本の角を持つ少女、疎雨の百鬼夜行こと伊吹(いぶき) 萃香(すいか)だ。


どこぞのスキマ妖怪と同レベルで神出鬼没な萃香だが岬影はさして驚く様子もない、もっとも萃香の存在に気づいた上で質問をしたのだから当然と言えば当然か。


「にしても神社への一本道に鬼が出るなんざ少し前まで考えられなかったっつーのにな、時代は変わるもんだぜ」


「私は楽しいからそれで良いんだけどね、そんで博麗神社に何しに行くのさこの間のリベンジなら何時だろうと受けて立つよ!!」


グイッと手に持った瓢箪から酒を呷り岬影の太ももを小突く萃香。

対する岬影は見るからにウンザリした表情で。


「何度も言うが俺は負けちゃいねぇぞ、殴り合いで決着がつかねぇから別の勝負をしようってのはまだ分かるがな、それが酒の飲み比べって納得できるかそんなもん!!鬼を相手に勝てると思ってんのか?」


「一度受けた闘いに文句をつけるなんて、男が廃るよ岬影」


「俺は受けてなかったよな?!お前が勝手に始めただけだろ?」


「でも最終的には岬影も飲んでたじゃん」


萃香が言っているのは以前紫と幽々子に騙され無理矢理宴会に参加させられた時の事だ。

些細な事から言い争いとなった岬影と萃香は互いに手加減なしの殴り合いを始めた…始めたのだが、方や幻想郷最古参にて鬼の四天王たる伊吹童子、そしてもう片方も決して倒れる事の無い最強の人形である。


結果、萃香は岬影を殴り倒せず岬影は萃香にダメージを与えるだけの火力がなかった為延長戦にもつれ込んだ。


それが酒の飲み比べと言う訳なのだが……確かに岬影は酒を飲んだ…というか飲まされた。

具体的にいうと酒欲の境界を操られた、というのが事の真相。

犯人は誰だ、一人しか居ねぇ。


「まぁいい、その件については後で紫も交えてゆっくり話すべきだな、で俺が博麗神社に行く理由だったか?話すと長くなるが……」


「おぉ!!霖之助がメチャクチャ美味しそうな酒を一人で飲もうとしている!!これは放ってはいけないねぇ」


「おいこら自分から聞いといて何勝手に消えようとしてんだこの酔払い!!、つーか香霖堂がいつどこでどんな酒を呑もうとお前には関係ねぇだろ」


「いいや、あんな良い酒を独りで呑んだらきっとバチが当たるよ、私はそれを助けに行くのさ!!」


「清々しいまでに酒本位だな!!」


現れた時と同じ様に突然萃香の姿が消える。


彼女の両腕と髪についていた三種の分銅、あれ等は其々「調和」「無」「不変」を司っており、自分自身そして彼女の有する[密と疎を操る程度の能力]を表していたのだ。


今頃は香霖堂に直接乗り込んでいる事だろう。

取り合えず霖之助に同情をしつつ、自分では止めようが無いので再び博麗神社への道を歩む岬影であった。



▲▼▲▼



「霖之助ー助けに来たよ!!」


「悪いが異変の解決人なら間に合っているよ、因みに出口は君の真後ろにあるから遠慮なく出て行くといい」


魔法の森の入り口に建つ古道具屋、[香霖堂]

店主である森近 霖之助は突然の来客にぐいのみに向かって伸ばしていた手を止め、接客という名の立退きを命じた。


「そんな事をいうもんじゃないよ、いやぁ~良い酒の匂いだね」


無論萃香はそんな戯言には全く耳を傾けずに自前のぐいのみを取り出し酒を注ごうとする……手を霖之助が制した。


「おや霖之助、私の邪魔をするのかい?」


多少凄みの効いた声を出す萃香、しかし霖之助は首を振ると。


「いや、こうなった君を止める事が不可能なことぐらい良く分かってるよ、それより君にはこちらの酒の方があっているんじゃないのかな?」


そう言って取り出したのは一本の酒瓶、栓を抜くと芳醇な香りが狭い店内を満たす。


「へぇ~気がきくじゃないか、それでは遠慮なく飲ませて貰うよ!!」


言い終わるなりラッパ飲みを開始する萃香は霖之助の顔に浮かんでいた意味ありげな笑みに最後まで気がつかなかった。



▲▼▲▼



「助かったよ連、危うく霧雨の親父さんから貰った貴重な酒を一気飲みされる所だった」


思わず、といった風に溜息を吐く霖之助の横にあるのはイビキをかく伊吹 萃香の姿である。


彼女が呑んだのは「神便鬼毒酒」、通常の者が飲む分には問題ないが鬼が呑めばたちどころにその力を封じる特殊な酒。

数百年前…幻想郷に鬼退治という言葉が存在した時代に作られた物であり、以前岬影と霖之助が無縁塚で拾った物だ。


「さてと、鬼のイビキを肴に酒を飲むのもまた一興と諦めるべきなんだろうねこれは」


それだけ言うと、元から呑もうとしていた酒を波々とぐい呑みに注ぎはじめる霖之助。

彼の懐に仕舞われた緊急用の連絡護符には「鬼 襲来 」の二文字が記されていた。


なんだかんだで、結局助ける岬影であった。っていうお話。

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