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絡人繰形店ーー閻魔様と折檻

前にチラッとだけでたあの人が出ます。

いつもの様に文々。新聞を広げながら中央カウンターの椅子に岬影が腰掛けているとキィィ、という僅かに木の擦れ合う、言い換えるならばドアの開く音が聞こえてきた。


本来ならカウベルが来客を知らせるのだが諸事情により店が全壊(※16話参照)したばかりの絡人繰形店には新しいヤツがついていないのだ。


店自体は岬影が一瞬で修復したのだがどうやらカウベルは遠くまで飛ばされたらしく諦める他なかった、という訳である。


ーー明日にでも新しいのを作るか。


方針を定めると、来客を確かめる為に新聞をカウンターへ置きドアの方へと視線を向け………た瞬間、岬影は眼にも止まらぬ速度で席を立つと裏口に向かって全力ダッシュ、ドアノブに手が掛かった所で襟首を捕まれそのまま床へ叩きつけられた。


「一体、どこへ逃げるつもりだったのですか?全く毎回毎回私が尋ねるたびに逃げるとは余程の"説教され好き"ですね貴方は」


「それって暗に俺がドMだと言ってる様なもんですよねってイッテェェ!!」


岬影を遥かに凌駕する瞬発力を見せつけ、一瞬で取り押さえたのは幻想郷を担当する閻魔様。

[白黒はっきりつける程度の能力]をもって絶対なる善悪の基準点、楽園の最高裁判長。


四季 映姫・ヤマザナドゥ(しき えいき・やまざなどぅ)


是非曲直庁において上級職の者が着る制服を身に纏う映姫、その手に握られているのは板きれ……に見える悔悟棒である。

見た目は単なる棒だが驚く事なかれ、基本的に痛みを感じる事のない岬影に痛手を負わせる数少ない手段の一つなのだ。


「こんなものはまだまだ序の口です、私に断りも無く[再生の符]を使用した罪はこの程度ではまるで償えない(※第5話参照)」


「いやいや、あーでもしねぇとフランに俺の魂ごと消し飛ばされてたかもしれないし、流石にそこまでやられると現世に留まるのは不可能なんですって!!」


「安心してください、仮にそれが現実となった暁には是非曲直庁で私の補佐官として働いて貰いますから」


「安心出来る要素が何一つ無いんですがってやっぱイテェェェッッ!!」


悔悟棒に記された罪状は秒読みで増えてゆき、数ヶ月ぶりに"痛み"というものを味わう岬影だったが生憎とドMではない為溜まったのは快感ではなく疲れだけであった。



▲▼▲▼



「あ、頭がガンガンしてやがる。

ここまで具合が悪いのも久しぶりだ」


一通り叩き終わったのか岬影は映姫の前で正座中だ。


「自業自得です、能力は常に魂を依代として存在しているモノあのスペルカードを使用した際に貴方は一瞬意識を失った」


ーーなぜ知っているか、と聞く必要はない。

映姫の手のひら、手鏡の様に見えるそれは浄玻璃の鏡映した者の過去の全てを一般公開するというプライバシーを欠片も尊重しない鏡である。


「確かに人形の体に人の魂を埋め込んだ貴方に寿命といった通常の概念は適用されません、しかしそれ故に背負うリスクも在る。

[再生の符]を使用するというのは自分で自分の首を絞める様なもの、このまま使い続ければいずれ魂は朽ち果て貴方は……」


スッ、と悔悟棒を岬影へ向ける。


「不完全な今とは異なる、完全な形でそして最悪の形で輪廻転生の輪から外れてしまう」


「つまりさっさとメンテナンスを受けて来いって事ですよねってイッテェェェッッ!!」


「その!!その考えが!!直れば良いという貴方のその考え方が全ての原因なのです!!」


向けられていた悔悟棒が躊躇なく振り下ろされメキィ!!という凄まじい音と共に岬影の前頭部へとめりこんだ。


「今の貴方は多くの存在に囲まれ生きている、仮にこの世から消え去った時に残された者達が何を思うか少しは考えた事があるのですか?


そう、貴方は少し自身の存在というものを軽く見すぎている」


これで少しは理解出来たかとばかりに締め括る映姫。

それを聞いて岬影は少々苦笑いをした。


「実際の所どうなんでしょうね、これでも自分なりにやれる事をやって来たつもりだが俺は、俺は必要とされているのかたまに分からなくなる事もあります、周りが思っているほどに俺は強くない」


「だから私は、岬影。

貴方を補佐官に、と思ったのですよ」


岬影の言葉にヤレヤレと言わんばかりにため息を吐いたのは、説教をしていた時に比べ幾分か優しげな顔をした映姫である。


「浄玻璃の鏡が私に見せる真実を見れば見る程に、貴方の心配事は単なる杞憂だという事が分かります、なんなら自分の眼で確認してみますか?」


「遠慮しておきますよ、きっと胸焼けを起こしちまう」


映姫の問いかけにニヤリ、と岬影は笑みを返す。


「しかし話してばかりで少々小腹が空きましたね」


「叩いてばかりの間違えじゃ……何でもありません、なんなら昼食を食べていきます?」


「ええ、ですが貴方は店の番に専念していてください、調理場を貸して下されば私が作りますから……何ですかその目は」


信じられない物を見た様な顔をした岬影はついこんな言葉を零した。


「いや、その何というか……包丁で指を切らないように注意してってイッテェェェッッ!!」


次の瞬間、勢い良く突き出された悔悟棒が岬影の体を吹き飛ばした。



▲▼▲▼



暫らく時間が経ち、台所から良い匂いが漂ってきた丁度その頃。


「おーい連之字、無縁塚で外界の酒を拾ったんだがね中々良い酒なんだよこれが、これから昼飯だろ?こいつで一杯やらないか?」


そんな事を言いながら大きな酒瓶を手に持ってやって来たのは、三途の川の船頭で映姫の部下でもある死神、小野塚 小町だ。


「ん?ああ小町か、悪い事は言わねぇから今すぐ回れ右をして引き返した方が良いぞ、因みに酒を置いていってくれると嬉しい」


「それは単にお前さんがこの酒を独占したいだけじゃないか、うーんいい匂いだね今日は肉じゃがかい?」


いやぁ久々に美味い酒が飲めそうだよ、そう言いながら席につく彼女の背後では調理をし終えた閻魔様が悔悟の棒と使用済みフライパンをダブルで振りかぶっていた。


映姫様の手料理…だと?

取り合えず岬影そこを代われ!!

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