絡人繰形店ーー果し状と婚姻届
新オリキャラがでます。
お昼時、そろそろ昼食を済ませるかと立ち上がった岬影の元へカランカラン、という来客を告げるカウベルの音が届いた。
魔理沙、霊夢を筆頭にしたその他冷やかしの連中であったならば即座に追い返そうと思いつつ、文々。新聞を折り畳みドアの方へと視線を傾ける。
絶世の美女
そう呼ぶに相応しいであろう女性がそこに立っていた。
もっともこの幻想郷においては美形率が異常に高い、美女、美少女、美幼女まで何でもござれである。
そして言葉が表す通り目の前の女性も美女なのであった。
そこそこの長身に整った顔立ち、豊満な胸からくびれまでのラインも美しく今にも流れ出しそうな白銀色の銀髪は腰まで伸びており、頭には職人技というに遜色のない獣を象った髪飾。
その身に纏う十字型の刺繍が入った群青色の着物も、見る者が見れば感嘆の声をあげる程の物だ。
丁度顔をあげた岬影と美女の着物と同じ群青色の瞳が交差する。
しっとりとした綺麗な形の唇が開かれ第一声。
「たのもー!!」
「帰れ」
岬影は迷わず即答した。
返答まで僅か0.1秒。
ここは道場ではないのだ。
そんな訳で総合修理屋[絡人繰形店]にはいつも通り客以外の者が押しかけていた。
▲▼▲▼
瀧透 キサラ(たきどお きさら)
それがこの美女の名だ。
本来の名前はキサラのみだったのだが、彼女が主殿と崇める"幻想郷のパワーバランス"の一角を担う存在が苗字を授けたのだ…という話は岬影の中ではどうでもよく、いかにして追い返すかと現在進行系で思案中であった。
「せっかく来てやった客に対して"帰れ"とはなんだ!!」
「ん?客?悪いが俺の目には来る場所を間違えた道場破りしか映ってねぇんだが」
そう言うと目の前のキサラは、無駄に張っている胸を更に張り得意そうな笑みを浮かべる。
「ふふふ道場破りかある意味的を射ているな、つまり…」
「やっぱ帰れ」
「私はこれを渡しに来たのだ!!」
どうも幻想郷の住人には他人の話を聞くというスキルが著しく欠けているらしい。
ーー面倒くさい、という本音を飲み込み一応差し出された封筒を受け取る。
不本意ではあるが仮にも恩人の弟子だ、無下に扱うのも忍びない。
「……何だこれは?」
「何って見れば分かるだろう、"果し状"だ」
果し状
果し合い、つまりは決闘を申し込む書状であり決闘状とも言う。
いやまぁ岬影とてそれぐらいは知っている、知ってはいるのだが……岬影が聞いたのはそこではない。
「…すまん今から永遠亭に行ってくる」
「どうしたのだ?」
「いや視力がガタ落ちしたらしくてな、果し状なのに中身が婚姻届そんなことある訳」
「間違っていないぞ、私との果し合いに敗れたならばその婚姻届にサインして貰う!!」
「アホかァ!!」とは口に出さ……
「な、アホとはなんだ!!」
口に出ていたらしい。
そもそも。
「お前まだそんな事言ってたのか、何度も言うが俺にその気は全くねぇ」
実を言うとこれが初めて…という訳ではなかったりする。
数年前、紅い霧が幻想郷を覆い、幻想郷の春度が奪われ、終わる事のない夜が終わった後の頃、彼女の主が起こした異変…通称[封力異変]が博麗の巫女によって終結を迎えた辺りまで遡る。
平たく簡潔に述べるのであれば…俗に言う"一眼惚れ"という奴だ。
キサラ曰く以前にもあった事があるというのだが、一度見たらそう簡単には忘れられそうにもない彼女の顔を岬影は見た事がない。
以来あの手この手で求婚されてはいるものの、流石は鈍感店主たる岬影だ。
毎回の様にはぐらかし現在に至る。
「お前が何と言おうと、私がお前を愛しているという事実に変わりはない!!」
「もうすぐ冬だってのに暑いんだよ」
「ふん!!今日こそ決着をつけてやる」
今の今まで彼女の背中に隠れていた薙刀…これもかなりの業物である。
それを勢い良く回し、構えるキサラ。
その眼は至って真剣だ。
ともかく棚から落とされた商品分の代金を計算しながら、キサラの眼を見つめる岬影。
「…そ、そう見つめられると照れる」
「面倒くせぇ!!」
今度は口に出す事にしたらしい。
本当にこの女はやる気が有るのか無いのか。
ーーまぁ、取り合えず適当に相手をして追い返すか、と岬影が結論を出すと、本日二度目の来客が現れたらしくカランカラン、とカウベルが声をあげた。
「みっさかげー遊びに来たよー」
やって来たのは紅色を基調とした服を着ている吸血鬼、フランドール・スカーレット。
それに。
「妹様、あんまり急ぐと日傘から出ちゃいますよ」
こちらは緑色が基調の帽子、中華風衣装を身にまとった紅魔館の門番。
紅美………
「……みりん、だったっけか?」
「美鈴ですー!!」
間違えた、紅 美鈴である。
彼女の手には大きめの日傘が握られており、どうやら傘持ち役を任されたらしい。
そんな事を考えていた岬影の元へキサラの頭上を飛び越えたフランのボディーブローが決まった。
彼女は小柄だが、空中で加速したためかかなりの速度である。
「ねぇねぇ岬影、今日は何をして遊ぶの?」
「お前が俺の腹から退けば教えてやるよ」
途端に下腹部のかかっていた体重が消える。
そして一連様子を見ていたキサラがワナワナと肩を振るわせこんな一言を。
「ま、まさかお前ロリコン(幼女趣味)に目覚め…」
「んな訳あるか!!」
神速でツッコミを入れる。
「よし、フラン。
今日はこのお姉さんがお前の遊び相手をしてくれるらしい、いつもの結界を張っとくから思う存分やっやれ」
「何を勝手に……」
「フランに勝てたら、婚姻届だろーが悪魔の契約文だろーが好きなもんにサインしてやる」
「よし、かかってこい小娘!!この狼々刀の錆にしてくれるわ!!」
「うん!!ヨロシクね、おねーちゃん」
なんて扱いやすい奴なのだろう。
意気揚揚と店の外へと出て行く二人を見てつくつぐそう思う岬影であった。
因みにフランはキサラより年上である。
「あの店主さん、大丈夫なんですか?」
「ん、問題ねぇだろあいつ結構強いし」
心配そうに告げる美鈴に即答する岬影、その顔にあるのはある種の信頼。
なんだかんだで岬影はキサラの事を認めているのだ。
「さてと、これでやっと飯を食えるな。
美鈴、お前も何か食べてくか?」
「あ、それなら私の作った中華まんじゅうが幾つかありますよ」
「そいつはいいな、待っててくれ今お茶を入れっから」
「はい、こちらも準備をしておきますね」
▲▼▲▼
一時間後
ボロボロになって戻って来たキサラが岬影に掴みかかり、その現場を人里から帰った連華に目撃され一悶着するのだが、それまた別の話である。
……これは余談だが、満足げな笑顔を浮かべたフランと申し訳なさそうに苦笑する美鈴、その二人を見ているうちに自身の傷がいつの間にか癒ている事に気がついたキサラが、決意を新たにしていたとか。
岬影はツンデレっていう話。