絡人繰形店ーー幻想とキュウリ
一ヶ月ぶりの更新となってしまいました。
遅くなって申し訳ないです。
これからはもっと早く更新します!!
何処に存在するか全くの不明で誰も辿り着けない場所
幻想郷最古参である妖怪の賢者、八雲 紫の住居はそこにある。
そもそもそんな場所なら見つけられないんだから住めないじゃん、というツッコミが全国から殺到しそうな気がするが、そんな事を言った奴らは今頃スキマ送りの刑に処されているので問題はない。
現に彼女の根城であるこの屋敷を訪れる方法は[境界を操る程度の能力]による空間移動、スキマのみであるのだから。
「で、一体何の用なんだ?わざわざここに呼び出す程の急用なんだろうな」
「もちろんよ、決まっているでしょう、些細な問題ならば貴方に来てもらう程この家の敷居は低くないわ」
ーーそんな事を言っている割にはよく下らない要件で呼び出された記憶があるんだが、とは口に出さず心に留めておく、紫の表情から見て取れる物は何もないが、いつもの胡散臭さは半減し少々威圧的な眼光が覗いているからだ。
そのせいか彼女の傍に立っている黄金色の髪と目、そして九本の尾を持つ八雲 紫の式、八雲 藍の様子も普段以上に真面目な、悪く言うと固い雰囲気が漂っていた。
ーーおいおい、誰かが厄介な異変を起こそうとしているとか、そんなんじゃねぇだろうな。
もしそうなら博麗神社に行くべきだ、間違っても修理屋の店主にする話ではない。
「床暖房システム…随分と面白い物を広めているようね」
「ん?」
拍子抜け、とはまさにこの事であろう。
何か無理難題を吹っかけられると思っていた岬影にとっては、なのだが。
けれどほんの数秒ばかりの思考で岬影は紫の言葉を理解する。
その裏に込められた意味を。
「考え過ぎ、じゃねぇのか?」
「私に言わせるならば、考えなさ過ぎと言った処かしら貴方らしくもない」
「友人の努力を無駄扱いなんぞするくらいなら、死んだ方がマシだな」
「本当に、甘いわ。
ほんの小さなヒビが全てを砕く可能性も存在する、私はそれを止めなくてはならない、分かってくれるわよね」
両者の間を隔てているのは空気では無く他の何か…岬影の沈黙は紫の言葉から来た物ではない。
「幻想郷はそこまでヤワじゃねぇと思うがな、俺は」
「それでもダメよ」
「にとりの奴も尽力してたみてぇだしよ」
「ダメよ」
「そこを何とか…」
「ダメ」
読んで字の如く一歩も譲らない紫の態度に岬影は溜息を吐くばかりだ。
まぁ事情を知る者から見れば当たり前の話ではあるのだが。
仮に人里にパイプがひかれ床暖房が普及したとしよう。
すると冬でも快適に過ごす事が可能になった人間は次に何を思うのだろう?
もっと、もっと快適に。
その果てに在るのが外の世界、幻想が排除され人間が頂点に立つ世界だ。
この幻想郷において、誰か一人がその頂点に立つ事は許されない。
故に幻想郷の賢者たる紫にはそれを未然に防ぐ責任がある。
岬影だってそんな事は分かっているのだ。
だが、理解するのと納得するのとでは話は別。
「……なぁ紫、お前がどんな想いでここを創ったのか大体は理解している、そりゃお前の言っている事は筋が通っているし正論だ」
ーーそれでもよ
幻想と現実の境界が入り混じる空間で岬影は語る。
「誰かが努力をしたっつー事実を、俺は何よりも尊重したいんだ。
その結果何か騒ぎが起こっちまったんなら周りが全力でフォローに回る、それも幻想郷の在るべき姿なんじゃねぇのか?」
「200年前まで外界を渡り歩いていた貴方からそんな言葉が出るなんてね、文明が発達し追いやられる妖怪達を直に見て来た筈でしょう?」
「見て来たからこそ対策も出来るってもんだろが」
数瞬の間を置き、やれやれと言った様子で首を振るう紫。
その様子にはいつも通りの胡散臭さが戻っていた。
「仕方がないわ、その熱意と河童の努力に免じて貴方達が尋ね回っていた場所に限り、使用する事を認めましょう」
「ありがとな」
「そう素直に感謝されると気味が悪いわね」
「殴っていいか?」
ーー礼を言った俺がバカだったぜ。とばかりにこめかみに米印を浮かべる岬影。
「遠慮しておくわ、それじゃ岬影また会いましょう」
ヒラヒラと振られる紫の手に呼応し、岬影の足元に開くスキマ。
ここを訪れた時と同じように岬影は落ちていく。
ーーまたかァァぁぁ!!
何か叫んでいた気もするがきっと気のせいである。
デジャビュ?
▲▼▲▼
「あ、レン!!お帰り~」
スキマの先で岬影を待っていたのは湯気が出ており作りたてと見える夕食、それと今回の提案者である妖怪の山の河童、河城 にとりであった。
どうやら紫は直接岬影を絡人繰形店へ転送したらしい、となると夕食の支度をしたのは連華であろう。
「にとり?お前何でここに……」
「さっき八雲 藍さんがここに来てね、事情を説明してくれたのさ」
話を聞くと既に各要人からの許可は取っており、床暖房システムを投入する準備は万端とのこと。
紫があの屋敷の時間軸の境界を操っていたらしく、かなりの時間が経過していたのだ。
「本当は、さ。
これを気に盟友達と交流を深めるつもりだったんだけどね、だけどもういいんだ我々河童の技術力の高さを人間が知ってくれれば、そうすればいつかまた別の形で機会は訪れるんだ」
ーーこういうポジティブなところは見習うべきかもしれない、などと考えていた岬影の前に半開きの手が差し出される、にとりの手だ。
「ありがとう岬影、一人の技術者として心から感謝しているよ、だからこれからも一人の友人としてやっていこうじゃないか」
にとりとしても人里に導入出来なかったのは悔しかった筈だ、けれどにとりは岬影の行動に対し素直に感謝の念を抱いている。
ーーホント、妖怪らしくない妖怪だよな。
そんな事を言ったら、妖怪らしい妖怪の方が少ない気がするのは何故だ?
「ああ、これからも頼むぜさぁ飯だ飯だ!!」
バシィ!!といい音を鳴らしながら握手を交わし、改めて夕食の見る。
キュウリだった。
キュウリのゴマあえ、キュウリの酢かけ、麻婆胡瓜、etc…
正しくキュウリのオンパレードである。
「にとり」
「なに?」
「このキュウリはお前が?」
「そうだよ!!レン好きだろ?」
「いや確かに好きだがよぉ」
ーー多過ぎる。
いくらなんでもこれは…と思うにとりの口から。
「いやぁ~レンカちゃんにキュウリはレンの大好物さ!!っていったら張り切ってたよ」
「連華ああァァァァぁぁぁぁ!!」
取り合えずにとりの頭に拳骨を入れ、SEKKYOUをするために今頃厨房でニヤついているであろう付喪神の名を叫んだ岬影であった。
次回はオリキャラが出ます。




