絡人繰形店ーー吸血鬼とデジャビュ
ドアを開けると腹に穴が空いた。というか上半身と下半身がサヨナラした。
1300年もの月日を生きて来た岬影もこんな体験は初めてである、出来ることなら一度も体験したくはないが。
「みっさっかげーーーーーーー!!」
「せめて俺の体が繋がるまで待てないのか?フラン」
「だって岬影全然遊びに来てくれないんだもの」
ケロリとした顔で言ってのけたのは、フランドール・スカーレット。
ここ紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹で岬影の最近できた友人である。
495年間の地下生活のせいで力のコントロールが出来ない彼女は、飛び付いただけ、のつもりであったらしい。
それがこの結果な訳なのだが。
しかしまぁ腹部が吹き飛んだ程度で死ぬ岬影ではない。
置き去りなっていた下半身の形が崩れると、上半身に吸い寄せられ元の姿へと復元されてゆく。
「今日は遊びに来てくれたんだよね!?」
フランのキラキラに輝く目に多少の罪悪感を抱きながら要件を話そうとする。
(ん?そーいやぁなんで、、、)
「おいフラン、なんでお前ーー」
ーー俺が来るって分かったんだ?
そう言おうとした岬影の感覚が、階段を降りてくる膨大な量の妖力を感知した。
「それで?お前はいつまでフランとくっついているつもりなんだ?ーー私だってしたことないのに、、」
「おいコラ、後半の言葉のせいで妹思いの姉から危ない姉にランクダウンしてるぞ」
「黙れよ人形風情が、姉が妹に近寄る男の選別をして何が悪い」
妙に苛立った顔をしながらこちらに向かってくる少女。
が、背中に生えた蝙蝠のような翼が、彼女が人外の存在であると証明している。
永遠に紅い幼き月、[運命を操る程度の能力]を有する吸血鬼。
レミリア・スカーレット
レミリアは見下した態度で岬影に向かって無い胸を張る。が彼女の身体的問題上、見上げる事しか出来ていない。
「種族差別は止めとけよメディーが知ったらブチ切れる、それより本音を言ったらどうなんだ?妹を取られて怒っているんだとな」
「そっそんな訳ある筈がないでしょ!!」
「つまり俺がフランと遊んでいても何の文句も無い訳だ」
「、、、、ロリコン」
「なんか言ったかシスコン」
・・・・・・・・
同時に掴みかかろうとした所で丁度良く仲裁が入る。
やや過激な仲裁だが。
ボゴォォォォォォオォォ!!
凄まじい音と共に、レミリアと岬影の体が文字通り、木端微塵に吹き飛んだ。
「お姉さまばっかり岬影とお話しているなんてズルい」
「今のがお話に聞こえたんなら永遠亭で診てもらった方が良いぞフラン」
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
フランドール・スカーレットが永年地下で暮らす事となった原因の一つ。
万物に存在する破壊の目(全ての物質に存在しそこを攻撃すると対象を破壊できる)を自分の手の中に移動させ、握り潰すことで無条件で対象を破壊する。
自身の能力でさっさと元に戻った岬影。
吸血鬼という種族である以上、弱点を付かれない限り死ぬことのないレミリアも既に復活しつつある。
がそこで岬影は気付いてしまった。
確かに吸血鬼は基本的に不死身だ、だが着ている服はそうではない。
つまり服ごと消し飛んだレミリアが元に戻ると、、、、恐らくあのメイド長が地の果てまで追いかけてくること間違いなしな訳で、、、
「ご苦労様、咲夜」
「はい、お嬢様」
噂をすれば何とやら、音もなく現れ当たり前な顔でレミリアの後ろに佇む少女。
十六夜 咲夜
紅魔館全体の家事を受け持つ彼女にとっては、お嬢様の着替えも仕事の一環のようだ。
[時間を操る程度の能力]をもつ完全で瀟洒な従者の手にかかればまさに一瞬で済むのだから。
そんな彼女達を見て。
(ん?着替えさせたっつーことは、、、)
ふとそんな事を考え、音速で止めた岬影であった。
▲▼▲▼
「床暖房しすてむ、、か。
確かに興味を誘うものがあるけれど紅魔館には必要ないわ」
「何でだよ」
一通り説明を終えた岬影。
因みに、にとりとは別行動で彼女には人里の命蓮寺に行ってもらっている。決して空気になっていた訳ではない。
「この館の内部は常にパチェの魔法で快適な温度、湿度、空調を整えられているもの、勿論私好みだけど」
「パチェつーとあの七曜の魔女のことか」
それなら納得だと、岬影は素直にそう思った。
火+水+木+金+土+日+月の属性を使いこなすあの魔女であれば、その程度のことは造作もあるまい。
「いやしかし残念だな」
「?」
岬影の呟きにレミリアが反応したのは、その残念が床暖房しすてむを紅魔館で採用しなかったから、以外のニュアンスを含んでいたからだ。
「いやなに、冬になれば珍しい物見たさに霊夢辺りが見に来るんじゃないかと思っただけだ、あいつの立場上博麗神社に手を出す訳にはいかないからな」
ピクッと蝙蝠のような羽が動いた。
「いやぁ本当に残念だ」
「おいまて」
「では、俺は予定が詰まってるからこの辺で」
「館の一部を魔法の範囲から外してそこだけに床暖房しすてむを使えば、、」
「まぁ、またいつか来た時には前向きに検討してくれ、じゃな!!」
ボンと岬影の体が粉状に変化し彼の霊力が薄まってゆく。
恐らく紅魔館から離れた所で体を再構築するつもりなのだろう。
どこぞの鬼や妖精とやっていることは同じだ。
一方取り残されたレミリアといえば、、、
「こちらの話を聞けええぇぇぇェェーーーー!!」
この際に込められていた妖力で、聞き耳を立てていた妖精メイドが数人ピチュったとか。
▲▼▲▼
「後は、姫さんと幽々子と地霊殿だったか」
地霊殿と言うのは旧地獄の中央に建つ建物で、覚妖怪の姉妹が住んでいるらしい。らしいと言うのは、これらは全てにとりから聞いた話で実際に行ったことがないからだ。
旧地獄には地上の妖怪は入れないため、必然的に岬影がいく事となった訳なのである。
にとりがパイプの強度に問題がー!!、と叫んでどこかに行ってしまったので岬影は残りの全てを一人で回る羽目になってしまっていた。
ーー別に困ることもないしな
そんなことを考えながら足を踏み出す岬影。
季節は夏から秋に変わりつつある。
早くも紅葉が見られる木
黄金色に染まりつつある稲穂
足元に開いたスキマ・・・・・・・・・なんかデジャビュ。
「またかぁぁぁァァァーー!!」
つまるところ、幻想郷は今日も平和であったと言うことだ。




