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魔女4

 「できあがりだ」


 鏡を覗き込んだまま呆然と物思いに耽っているとそう声がかかった。


 「お前さんの妹も飲んだその薬を飲むといい。日の昇る前に岸へ上がり、その薬を飲めばお前さんのその魚の尻尾は二本の足へと変わる。効果はさっきも言ったとおり五日間だけだ。五日目の夜、月が中天を過ぎる頃になればまたお前さんの足はその鱗でおおわれた魚の尻尾に元通りだよ。それから足が出来た後しばらくの間はうんと痛むよ。それこそこのナイフで刺されたかのように」


 そう言って魔女は先ほど渡した黒いナイフをこちらに向けて突き刺すようなふりをする。妹もこの薬を飲み同じ痛みを味わったのだろうか。


 「ああ、もちろんお前さんの妹だって同じだ。お前さんへ渡した薬とお前さんの妹へ渡した薬との違いは期間だけで後は何一つ違いやしないよ」


 尋ねてみるとそう簡潔な答えが返ってきた。


 「さあ用が済んだのならそろそろその薬を持ってお行き。いつまでもここにいられちゃ邪魔だ」


 気付けば辺りは既に暗い。日が昇るまでにはまだ時間はあるだろうけど、こんないきなり陸へあがることになるとは思ってなかった。出来れば色々と準備をしておきたい。


 そして去る前に一言お礼を言おうとしたところで魔女がさっきまで手で弄んでいたナイフが目に入る。


 「そのナイフ、もらってもいいかしら」


 気付けばそう口に出していた。唯一妹と繋ぐものだと思っていたからかもしれない。またもこっちを見定めるようにじっと見つめる魔女と目を合わせる。すると割とすぐに視線を外し好きにしな、と短い一言をもらう。


 「それじゃ、もらっていくわ」


 そう言って魔女の家から出て行く。

 帰り道、ポリプがさわさわと避けるように動いているのを見つめ、ゆっくりと泳いでいく。

 やがて城が近付いた頃、またあの煩わしい視線がいくつかこちらに向いていることに気付く。それらを振り切るように自分の部屋へ行く。

 じきに部屋にたどりつきあの視線を感じられないことにほっとする。準備が出来て出て行くにしても、このままじゃ視線が煩そうだ。出て行けるのは皆が寝静まってから。


 けれど、準備といっても何が必要なのだろう。やはり即物的なものではあるが金子だろうか。トレイに置いてあった海草の包みを開き貝殻を取り出す。が、すぐに人間の金子はこれじゃないことに気付く。確か、金色の硬貨。庭を飾るのに使ったからそこにあるはず。

 取りに行こうとしてすぐに思いとどまる。またあの視線に晒されるのはごめんだ。出て行くときに持っていけばいいだろう。

 他に何か必要なものはあるだろうか。少しだけ考えて妹の部屋を見に行くことに決めた。陸に興味を持っていた妹なら何か役に立つものも集めていたかもしれない。部屋もすぐ近くだし誰かに見られることもないだろう。

 そう考えて私は妹の部屋へと向かったのだった。

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