魔女3
とられたのは左目だった。
「これでよし、と」
そう言って魔女は後ろの棚にある色のくすんだガラス瓶を取り、さっきまで私の目玉だったものを入れる。
確かめるようにくるりと瓶の中で転がした焦茶色の目玉と一瞬だけ目が合う。
そこで視界が変わっていないことに気付いた。片目になったのだから視野は狭まるはずなのに、ナイフを目に入れられる前と同じ世界がそこには広がっている。
不思議に思い再び魔女へ顔を向けるとそれを見計らったかのようにさっきまで左目のあった場所に何かを無理やり押し込められる。
「痛い!」
思わず目を強く瞑り痛さに呻く私を気に留めた風もなくこれはオマケだよ、と告げる。
「欲しかったのはお前さんの目玉だから視力はそのままにしといてあげたよ。ついでにお前さんの目玉の代わりのものも突っ込んであげた。まあ、そんなものはあってもなくてもお前さんの姿が醜いものになったことには違いないけどね!」
そう言って魔女はケタケタを笑う。痛みが酷く何かを言うこともままならない。
「さて、後はお前さんに薬を渡すだけだね。すぐに作るからそこで待ってるんだよ」
多少痛みに慣れたところで今度は異物感を強く感じる。さっきまでは痛みばかりに気がいっていたが異物感に気付くと今度はそっちが強く主張し落ち着かない。
それでも思い切ってうっすらと目を開けるとお釜にぽいぽい何かを入れている魔女の姿がぼんやりと見えた。
「今、私の目はどうなっているの?」
思い切ってそう尋ねるとヒヒ、と笑いその辺りに鏡があるからそれでも覗いてみればいい、と告げられた。
仕方なしにその辺のものを除けていく。何かの図が描かれているだろう円盤やら不思議な模様が浮かんでいる海草を掻き分けると、色とりどりの石が嵌め込まれた装飾の鏡が埋まっているのに気付き引っこ抜く。
乱暴にぐいと手のひらで擦ると鏡の向こう側にいる人魚と目が合う。
そこには妹と同じ瑠璃色の瞳の人魚がいた。一瞬息を呑む。が、よく見ると瑠璃色よりも濃く、紺瑠璃色だ。
そこでようやく鏡の向こうにいるのが自分であると認識でき、ゆるゆると息を吐く。
右目は焦げ茶、左目は紺瑠璃、海松色の髪は途中でぷつりと切れている。
確かにこの姿はみっともない。母や祖母にまた何か言われるだろうけれど、それよりも姉たちにこの姿を見られたとしたら。それを考えると心が痛んだ。