プロローグ
ナイフを渡した後すぐに水底へと戻ってきてしまったけれど、それは妹が戻ってこないなんてちらりとも思わなかったから。
既に日は昇っている。
妹はまだ来ないのだろうか、そう思って見上げると黒い影が見えた。
帰ってきた!
そう思って急いでそちらへ泳いでいくがどうも動きがおかしい。あれじゃ泳いでるんじゃなくって沈んでいくみたい。
そして気付いた。
その影の正体は妹ではなく一本のナイフだということに。
妹は王子をナイフで刺すことが出来なかったんだと。
もうここに戻ってくることはないのだと。
私は6人姉妹の5番目で、4人の姉と1人の可愛い妹がいた。
でも、妹はもうどこにもいない。あの小さく愛らしい姿はどこにもない。
残されたものは黒ずんだ一本のナイフ。
一つ下の私の妹。唯一の妹。
海の上へ浮かんだときの話をねだられたときには妹の羨望の眼差しを得ようと大仰に話すことがあった。そしてそんな風にお姉さんぶる私へ姉たちはからかいの声をかけて来て、それに拗ねた私に妹が必死でお姉さまの話は素敵だった、面白かったと言い募ってくれる。そんな妹の姿ひとつで私の機嫌も治り、姉妹みんなで笑いあう。
何でもない、でも確かに幸せなひと時。
でももうそんな時間は決して訪れることはない。
私には4人の姉がいる。妹はもう、いない。