治る人かかる人
外
培句「さあさあ、いらっしゃい、いらっしゃい。有限会社野丸風邪引き受けサービスだよ。」
宇多「社長、こんなくだらないこと、本当にやるんですか?」
培句「くだらないことあるか、私のメンツがかかってるんだ!ほら、みんなも呼んで、呼んで。」
通行人A「ゴホン、ゴホン。」
培句「あっ、お兄さん。どう、私に風邪うつしちゃったらさない?」
通行人A「えっ、えっ、何ですか?怪しい勧誘?」
培句「大丈夫、怪しくなんかないよ。たかだか靴磨きと同じ料金だよ。」
宇多「しかもちゃっかり、金とるんだ。」
佐藤「これが法に触れるような事はないんでしょうか?」
培句「ちょっと、ほら宇多君も上手いこと言って・・・
宇多「お兄さん、見たところ随分おしゃれしてるみたいだけど、何か予定があったんじゃないの?」
通行人A「えっ、ああ確かに彼女とデーとの予定があったけど、この風邪で中止だよ。」
宇多「ここで治れば行けるのにねぇ。」
通行人A「でも、そうは言われても・・・」
宇多「でも、ほら私達も治ってるわけだし。」
通行人A「まあ、言われてみれば・・・じゃあ、後払いなら。」
宇多「はい、社長お願いします。」
ウィーーン
通行人A「あっ、治った!すごい、彼女も誘って来よう!」
宇多「どうですか?」
培句「もっと次、呼んで来い!」
通行人B「おい、ここで風邪を引き取ってくれるらしいぞ!」
通行人C「本当?神様みたいなところだな!」
佐藤「何だかすごい行列になって来ましたね。」
宇多「苑自君、今何人目?」
苑自「2348人目です。」
宇多「じゃあ、今社長には人の2348倍の風邪菌がいるの?」
苑自「はい。」
佐藤「社長、一応聞いておきますけど、風邪ってどんな症状か知ってますよね?」
培句「知ってるよ、バカじゃないから。」苑自「でも、風邪ひかないじゃないですか。」
培句「くそおおお!」
その頃とある革命組織 北風6号本部では・・・
総統「どうだ、計画の進行具合は?」
部下A「極めて順調です。茄茂泣町民の99.9パーセントが我らの開発したウイルスに感染しております。」
総統「我らのこの計画・・・高度な計算によって絞り出された、あるタイミングで茄茂泣町にウイルスを送りこむ事で、複雑な現象が連鎖的に起きて、結果的に世界を我らのものに出来る計画の千載一遇のチャンス、逃す訳にはいかないのだ。」
部下B「総統、緊急事態です!」
総統「何だ?」
部下B「突如、ウイルスが一点に集まり始めて、町民の大部分が健康に戻っています。」
総統「馬鹿な、どういう事だ?」
部下A「おそらく、反応の中心となっている、一人の人間にウイルスを全て集めているのかと。」
総統「馬鹿な、あの『とんでもない無能人間で無ければ、誰でも発症する完璧ウイルス』に感染しない奴がいたのか?」
部下B「いたみたいです。我々もびっくりです。」
総統「仕方ない、私が直に偵察に行って来るから、お前らは監視を続けろ。」
部下達「はっ!」
宇多「社長、まだ続けるんですか?」
培句「当たり前だろ。今更引き下がれるか。」
苑自「さっき来た弟さんにも、同情の目を向けられてましたもんね。」
培句「そうだ、お前らに分かるか。弟に同情された兄の気持ちが!弟よりもバカだと思い知らされた兄の気持ちが!」
苑自「分かりません、私一人っ子なので。」
宇多「苑自君、後何人ぐらいで終わりそう?」
苑自「計算上では、後一人です。」
総統「着いた、ここが茄茂泣町か・・・」
培句「あっ、そこのお兄さん。風邪引き取るよ。あなたまだ来てないひとでしょ?」
総統「えっ、あっ、・・・」
総統「『風邪引き取ります。』?そうか、このせいで・・・(心の声)」
培句「ごまかしたって、駄目だよ。そんな、悪の秘密結社みたいな格好してれば流石に覚えてるから。」
総統「やはり、着替えて来るべきだったか・・・。(心の声)」
培句「あっ、お金の事なら気にしないでいいよ。最後の一人だから特別に無料だ。」
総統「いえ、あの・・・」
培句「やらないってのかい!」
総統「やらせて頂きます!」
培句「よし、じゃあこれを口に当てて。」
苑自「あっ、社長それ逆・・・」
ウィーーン
皆「あっ・・・」
総統「ぐああああ!うええええ!あああ!ああ!苦しいいいい!」
宇多「たっ、大変だ。苑自君、早く社長の体に戻して!」
苑自「初めに言ったじゃないですか。一回やったら元には戻せないんですよ。」
佐藤「すいません、今救急車呼びますんで!」
総統「はっ、ここで悪の秘密結社としては救急車に乗る訳にはいかない・・・(心の声)」
総統「い、いえ、大丈夫です。うち、ここから近いんで。では!」
宇多「あっ、ちょっと・・・行っちゃった。大丈夫かな、あの人・・・」
苑自「走って帰ったみたいだから、大丈夫じゃないんですか?」
培句「はああ、結局私だけ引かずじまいか・・・」
さて、では本当の最後の一人はというと・・・?
松倉「何だか、外が騒がしいな。だいたい、こんな風邪が流行ってる日に外にでちゃ駄目なんだよ。私はどんな事があっても、外に出ないぞ。ハクション!」