頭取の最も最悪な1日
毎度お馴染み、経営不振の有限会社野丸。社長室で培句社長と、男が向き合っていた。
培句「いつもいつも、申し訳ございません。」
茄茂泣銀行 頭取「私が来たって事は・・・分かってますよね?」
培句「はい、ご拝借のナニの、その・・・返済を滞らせてしまって・・・随分経ってしまって・・・」
頭取「いや、口上はいいから返す物を返してください。」
培句「ただいま、用意出来てるのが、これだけありますので、どうぞ・・・」
頭取「これっぱかり返してもらってしょうがないけど、まあ今貰っとかないと、また貰えなくなりそうだから頂きますよ。」
培句「申し訳ありません。」
頭取「第一、客が来てるのにお茶のひとつ出ないというのは、どういう事ですか?」
培句「お茶、出してよろしいんですか?」
頭取「嫌、よそう。あーあ、まったくいつになったら借りた物をまともに返せるような会社になるのかね?」
ドカッ
ピピピピピ カチッ
頭取「なんだ、この虫みたいな機械?あれ、取れない?おい、手伝え。」
培句「どれどれ、あっ、本当に取れない。すいません、担当の者が帰ってきたらすぐに外させますので。」
頭取「いや、待ってられないね。こっちはあんたらと違って、忙しいんだ。じゃあ、次に来るまでに必ず用意しておくように。」
バタンッ
宇多「社長。」
培句「誰だ?宇多君か?まあ、入ってくれ。」
宇多「頭取は帰られましたか?」
培句「ああ。」
宇多「しかしまあ、あの頭取のイヤミも相変わらずですね。」
培句「本当に・・・あの、イヤミメガネめ。苑自君が今行っている契約がうまくいけば全て解決なんだが・・・。」
苑自「ただいま。」
培句「おや、帰って来た。お帰り。」
苑自「社長、やりましたよ。」
培句「『やりました』って事はつまり・・・。」
苑自「契約取って来ましたよ。」
培句「本当か?よくやった!」
宇多「でも珍しいな、お前が先方にわざわざ出向くなんて。いつも、私に押しつけて帰るのに。」
苑自「今回作ったのは、仕組みが複雑なんで技術者が直接行った方が早いですよ。」
宇多「そういえば、何作ったんだ?」
培句「そうだな、教えてくれ。」
苑自「えっ、社長覚えてないんですか?」
培句「へっ?」
苑自「昨日社長には説明したじゃないですか。」
培句「そうか・・・。頭取が来る事で頭がいっぱいで、まったく覚えてなかったな。」
苑自「まあ、いいですよ。今回の契約で、あのイヤミメガネデブもおいそれと口がきけなくなりますよ。えっと・・・、これです。」
培句「あれ?これ・・・。(心の声)」
苑自「これはある程度のエネルギーを持って、飛んでくる物体を引き寄せる機械。通称『標的アンテナ』です。」
宇多「何に使うんだ?」
苑自「例えば、なんかの事件で犯人が人質を盾に立てこもるとしますよね。そんなとき、これを犯人に取り付けておけば、人質に危害を与えず確実に犯人だけに攻撃が出来るんです。」
宇多「なるほど。」
培句「それ、沢山作ってあるのか?」
苑自「ええ。」
培句「さっき、社長室に落ちてたぞ。」
苑自「そうですか、どうりで一個足りないと思った・・・。それ、どうしました?」
培句「頭取にくっついたまま行っちゃったよ。」
苑自「えっ?」
所変わって 頭取視点頭取「まったく、どいつもこいつも・・・。んっ?子どもがキャッチボールしてる。まったく、こうやって遊んでばっかりいるやつが借りた金も返せないようになるんだ。」
ピピピピピ ピコン ピコン
ガンッ
頭取「グエッ」
子どもA「おじさん、大丈夫ですかあ。」
頭取「この、クソガキ。気を付けろ。」
ビュン
ピピピピピ ピコン
ピコン
ガンッ
頭取「グエッ」
子どもA「おじさん、たびたび大丈夫?投げるの下手だね。今、受け取るよ。ありがとうございます。」
頭取「…おかしい。いくらなんでも向こうに投げたボールが、こっちに飛んでくる訳がない。もしかして、これのせいか・・・?」
所変わって 野丸
宇多「で、それをつけたままだと、頭取はどうなるんだ?」
苑自「そうですね…多分半径30メートル範囲の飛んでくるものに衝突しまくりますね。まあ、よっぽど動体視力がよければよけられないこともないでしょうけど。」
宇多「けっこう危ないじゃないか。」
苑自「そうですよ、それもさっき言ったような時に使う物だから、外すのに特殊な器具が必要で、時間が15分かかるんです。」
宇多「じゃあ、早く教えて外さなきゃ。」
苑自「でも、連絡の取りようが無いじゃないですか。確か、頭取は携帯を持ってなかったんじゃ・・・。」
宇多「あっ、そうか。」
所変わって 茄茂泣茄茂泣町支店
頭取「ああ、まったく死ぬかと思った。」
銀行員A「ですから、只今のお客様の経営状況では、お金をお貸しする事は出来ないんです。」
続く
ええ、今回の話は長いので。ここまでが前編となります。
古今気楽初めての人情話来週完結です。