プロローグ 時の最果てで
いつからだろう、
美しい世界が汚れてしまったのは。
いつからだろう、
私たちが変わっていってしまったのは。
もう何度目かもわからない独り言を今日もシェルターに響かせながら、黙々とアンドロイドの配線を行っていく。
「あと少しで…」
ふと、最後の部品が足りないことに気がついた。
あの頃は軽々と上がったこの体も今となっては放射線の影響で老化が進み、立ち上がるのさえ一苦労だ。
最後の部品を探しに行くため、体にムチを打ち、ハザードスーツを身につけ、そばにあった金属パイプをステッキとして使いながら、床に放り投げたボロボロの本や紙、さび付いた電子部品を足でよけ道を作りながらシェルター内を進んでいく。
「行ってくるよ。」
薄暗いシェルターの片隅にぽつんとたたずむアンドロイドにそう告げ、シェルターの扉を開く。
そこにはもう何十年とみた、灰色の空模様と放射線まみれのただれた空気、建物のがれきのみが無造作に積み上げられた不毛な荒野が広がっていた。
若い頃は現実を直視できず、この景色を見ることすらできなかったが、今では心が放射線に汚染されてしまったのかもうこの景色を見ても何も感じない。
私は、砕けたコンクリートの上をおぼつかない足取りで一歩一歩踏みしめる。
砂埃をまとった冷たい風がスーツ越しに駆け抜けていく。
あれだけうるさかったこの都市も今となっては風が無慈悲に世界を切り裂くような音と踏みしめたときになる瓦礫どうしがぶつかる音しか聞こえない。
何十分か歩いた先に、目的地であるドーム状の建物にたどり着いた。
扉の前に立ち、ポケットの中に入れておいたカードキーを扉の右側にある挿入口に差し込む。
すると、扉の上側についたセンサーがレーザーを照射した。
「ピーター・ヴェルナー博士 認証コード0003 ようこそ。」
どこからかそんな電子音が聞こえると、扉が開いた。廊下内の電気がつくと、真っ直ぐに伸びた廊下をスタスタと歩いて行き円筒状のエレベーターに乗り込む。
1階へのボタンを押すと、エレベーターは静かに上方へと向かっていった。
そしてエレベーターの扉が開いた。
エレベーターはドームの中心を貫くように伸びており、扉が開くと、全体がコンクリートの建材で覆われた空間が広がっており、そのエレベーターを円状に囲うように様々な機械がずらりと並んでいた。それらの機械の点検を一つずつ行っていく。
一通り見回し、異常がないことを確認した上で再びエレベーターへ戻り、2階へとあがる。
次は1階とは打って変わって、キッチンがあり、ソファやテレビが置かれたリビングが目の前に広がっていた。そして後ろ側には扉が3つ均等な距離感で設置されていた。
リビングへ向かい、キッチンカウンターの上に置かれた写真立てを手に取る。そこには、3人の学者が肩を組んで笑い合っている楽しそうな写真が入っていた。
「どうしてこうなってしまったんだろうな」
そうつぶやくと、写真立てを元の位置に戻し、テレビ横に置かれた箱形の機械へと向かっていく。
その機械の上部には、とても大きな文字で
「みんなをえがおにする完全食作成装置、通称シェフマン」
という馬鹿そうな言葉が書かれていた。機械中心部にある、ボタンを押すと何やら機械から愉快な音が聞こえだし、その数十秒後、機械下部に設置された取り出し口に、厳重な包装で包まれたバー状の食べ物がゴトッという音とともに落ちてきた。
私はそれをスーツ胸元のジップロックのようなスライド式のポケットのなかにしまうと、扉の内の1室へと向かっていく。ポケットからもう一度カードキーを取り出し、挿入口へ差し込むと、扉が自動で横へと開いていった。
部屋に入ると、バウムクーヘン状の空間が広がっており、入ってすぐの右側のの部屋にはシャワールームがあり、正面のリビングには床に様々な紙や電子部品が足の踏み場もないほど転がっていた。所々の紙には破られた後のような紙が散乱していた。
私は、それらのものの間を縫うように慎重に部屋の奥へと進んでいくと、金属の学習机がぽつんと置かれていた。学習机の裏側にはカードの挿入口とスキャナーが備えられており、そこにコードキーを通し、スキャナーに私を読み取らせると、学習机左側の金属の壁がゆっくりとスライドしていき、小さな金庫が出現した。その金庫は4桁のコードを入力するアナログ式になっており、0210と順に押すと、カパッと扉が開いた。その中には1つのメモリーカードが入っていた。
「どうしようもないこんな世界の運命を背負わせてごめんよ ディー」
そうつぶやくと、私はそれを胸ポケットに食べ物とともにしまい、ゆっくりと来た道を戻っていく。
再びシェルターの元にたどり着くと、私は片隅に置かれたアンドロイドの胸の部分にメモリーカードを挿入する。そして、残っていた配線をすべて接続し、体内に埋め込まれた核融合炉に配線を接続する。
すると融合炉内から低くうなるような音が聞こえ始め、まるでアンドロイドの全身に血が通っていくかのように電流が流れていく。
「本当は最新の部品で構築させてやりたかったんだがな」
そうぼそっとつぶやくとやがてアンドロイドのまぶたがゆっくりと開いていった。




