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第三王子は血縁の糸をほどけない  作者: ひまだひまこ
王位継承権編

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43/50

43.地獄の晩餐会に来ました

「ルミナス陛下。わざわざお誘い頂き誠にありがとうございます」

「あぁ、ミュリエルがお世話になっているのだとか。今日は堅苦しい場ではないので、肩の力を抜いてくれて結構」


 正面に座っているのはルミナス国王。豊かなあごひげを蓄える、その笑みからはまるで威厳を感じない。いや――感じられない?


「本当なら隣でぜひとも話を聞きたいものだが……」

 そういいながら右にいる女性を横目で見る。王妃だ。笑みを浮かべてはいるもの、その瞳には怒りが浮かんでいる気がする。


「まぁそんなことおっしゃらないで、お父様。レンを招待してくださって嬉しい限りですわ」

「あぁ、そうであろう?」


 左側からの声に、満足そうな笑みを浮かべる国王。左側にいるのは、ミュリエルだ。普段の彼女からは考えられない甘い声。この様子に気付かないなんて、噂通りだ。


「まったく、レン殿のいるパルメシア学院の校長に頼んで、手紙を届けさせたのだからな」

「そうだったんですの? ありがとうございます」


 ミュリエルの声にさらに顔を崩す国王と、険しくする王妃。ネフト王子は王妃の隣で固い顔をしている。本来いるはずの位置に、彼はいない。


「パルメシア学院での生活はどんな感じかね? シュワルツに入ったとか?」

「様々な魔法を学ぶことが出来て、とても興味深いです。大陸随一の魔法学校ということもあって、個性豊かな仲間と共に日々成長しています」

 だからセイを返してね? そんな思いを込めて微笑む。


「おぉ、さすがはミュリエルの母校だな。一か月で学院を卒業したと聞いた時には、流石に驚いたものだ」

「そんな、昔のことですわお父様」

 恥ずかしそうに言うミュリエルも、パルメシア学院に通っていて、しかも一か月で卒業? 魔術師、彼女に魔法の才能ないとか言ってたけど?


「そんな小さかったミュリィが、婚約とはなぁ。あんな青二才が良いのか?」

「お父様、言わせないでくださいよ」

 楽しそうな国王とミュリエルの会話とは対照的に、地獄の空気が流れる。


「どうだね、レン殿。貴殿はあの青二才についてどう思うのかね?」

 どう答えよう。でも今の国王はたぶん寛容だし、ちょっと踏み込んだ返答をしても平気な気がする。


「そうですね、素晴らしい人だとは思いますが、彼女とは不釣り合いな気もします。なにせ、ミュリエル様は完璧な人ですから」

「おぉ、わかっておるな。じゃあレン殿は誰が良いと思うのかね?」

 国王は笑ってさらに言葉を続ける。言葉一つで立場が決まる。慎重に選ばなければならない。


「そうですね、僕はどうですか? 全くもって彼女にふさわしいとは思えないですが……」

 多分これが正解。ミュリエルを上げることが大事だしね。そう思って国王を見ると、あごひげをなでていた。


「ふむ、それも良いかもな。ミュリエルの魅力を十分に分かっているようだ」

「あなた、それは……」

 王妃が口を開く。これ以上息子の敵を増やすわけには行けない、そんな強い意志を感じる。


「ハハ、あの青二才よりは可能性があるだけだ」

「もうお父様ったら」

「いや、これは冗談ではないぞ、ミュリエル。お前の結婚相手が(立場上は)次期国王になる。あの青二才はセルラルドとこの国の王になるだろう。それでは三国のバランスが崩れてしまう」

 鋭い声で、ミュリエルに問いかける国王。険しい顔の王妃の隣で、ネフトは無表情で食べ物を口に運ぶ。


「その心配はありませんわ、お父様。チトセがルミナスの国王となった暁には――弟のセイが、セルラルドの国王になりますから」

 その言葉にみんなの目が開かれた。もちろん僕も。

つまり、セイが次期セルラルド国王に、チトセがルミナスの国王になる。だからセイはミュリエルに協力している……自分が国王になるために?


「それは……ただの戯言ではないだろうな、ミュリエル」

「えぇ」

「あなた! それはこの国が野蛮な王族に支配されるということですよ!」

 鋭い王妃の叫びに、一瞥を送る国王。王妃はその視線に肩を震わし、黙ってしまう。


「……レン殿はどう考えるかね?」

 その声に三人の視線がこちらに向く。その視線は険しい。


「僕()()の意見としては、その意見には賛成です。彼女がそれを望んでいますから。けれど、()()としては反対ですね。三国の――長年の戦の上に築かれた平和を乱す対象とみなします。オルフェオは、それを容認しないでしょう」


 僕個人としても当たり前に反対だけどね! 

 ルミナスはネフト、セルラルドはチトセ、オルフェオはカイが王になるのが平和的解決だと思っている。


「そうか……やはりミュリエル、あの王子を婚約者にすることは許さない」

「そんな、お父様、お願いですわ」

「ミュリエル、これは父親としてではない。ルミナス国王として言っているのだ」


 国王が初めて、ミュリエルに鋭く言い渡す。彼女はその表情を見て説得できないと悟ったのか、下を向いてしまう。その一方、王妃は嬉しそうな顔をして、言う。


「あなた、じゃあ婚約者は」

「あぁ……今この場で決めねば、貴族が動く」

 国王は深く息を吐き、顔を上げる。


「ミュリエルの婚約者は――レン殿にしよう」

「え?」

 僕の間抜けな声が食事の間に響く。


「王に必要なのは決断力だ。そして何より、ミュリエルの魅力を十二分に分かっているのは彼しかいない」

 満足そうに頷く国王。いや、なんで納得してるの? 今の流れ的にどう考えてもネフトだったよね?


「失礼ですが国王陛下、僕よりもネフト王子が相応しいかと」

 その言葉に激しく頷く王妃と、感動してこちらを見つめるネフト。ミュリエルは下を向いたままだ。


 その時耳に入ったのは地獄よりも恐ろしい声。


「それは……うちのミュリエルが貴殿に相応しくないと?」

「いーえいえいえそういうことではなくてですね、ネフト王子の方が僕よりも彼女を理解しているということです!」

「……ふむ。ネフト、お前はどう思う?」


 視線をネフトに逸らす国王。やっぱ国王ってなんか底知れない威圧みたいなのがあるよね、こわ。


「俺は王になりたいです。ミュリエルが俺を選ぶのであれば」

「ミュリエルはどうだ?」

「……私がネフトと結婚することはないわ。絶対にね」

「命令だとしても?」

「抵抗します。たとえ、お父様と敵対しても」

「ミュリエル、陛下になんてことを!」


 ミュリエルはネフトと国王、王妃を睨む。その視線を受けて国王は深くため息をついた。


「そうか、意思は固いようだな。ミュリエル、チトセ殿下との婚約は認めない。国王になりたければ、レン殿と結婚するしか道はない。ネフト、お前が国王になりたければミュリエルを説得しろ」

「お父様!」

「父上!」

「うん?」

 今なんて? 空耳だよね? そう思う僕の目を見つめる国王。


「そして、レン殿にはミュリエルの暫定婚約者となってもらおう」

「はい?」

「お父様、何をおっしゃっているのですか? チトセとの婚約は?」

 ミュリエルの笑顔がひきつる。


「ミュリエル、これはお前のためでもある。今すぐ例の手紙を出してくれ」

「かしこまりました」

 後ろの執事が会釈をして、部屋を出ていった。それを呆然と眺めていたミュリエルは、乾いた笑い声を立てる。その瞳が曇り、国王を睨みつける。


「最初から認める気なんて……あなたと同じ血が流れていることを、今日ほど恥に思った日はありません」

「な!?」

 国王がその言葉に目を見開く。それも気にせずミュリエルは僕の方を向いた。


「せっかくあと少しだったのに……レン、やっぱりあなたは私の邪魔をする!」

「そうかも知れないね! ミュリエル、セイはどこ!?」

 椅子から立ち上がり、彼女を睨む。その視線を受け止めても、余裕そうな表情は消えない。


「今頃はオルフェオを破壊しているに違いないわ」

 そう言いながら、駆けつけてくる衛兵を氷漬けにしていく。誰かの叫び声と、皿の割れる音が響いた。


「ど、どうしてだ、ミュリエル」

 動揺した国王に近づいていくミュリエル。その瞳には深い嫌悪が現れていた。

 国王の脳裏にある記憶がよみがえる。その瞳と、かつてのメイドが重なる。あの夜も、忌み嫌い憎む、こんな目を――


「あんたが世界一嫌いだから! あの日からずっとあんたのことが憎くてしょうがないのよ!」

 その声と共にミュリエルの手のひらから放たれた氷は国王の目の前で止まる。


「っレン! 邪魔しないで!」

「いーや、この人が死んだら困るんだよ! 分かっているでよね!? どうしてこんなことを!」

 廊下を走る魔力の気配といくつもの足音がして、彼女の顔に現れた一瞬の迷いは消え去る。

 その瞬間、氷で窓が割れて風が吹き込んできた。


「そんなの決まってるでしょ」

 窓枠に手をかけるミュリエル。その顔には何の感情も浮かんでいない。


「もう、終わらせるべきなのよ」

 その言葉と共にミュリエルの姿は消えた。扉が開き、駆け込んでくる足音。


 今、ミュリエルを追いかけるべきか――

 ちらりと横を見ると歯をガタガタ言わせ縮こまる国王。その国王を膝枕する王妃。ネフトは呆然としている。



「レン!」

 その考えを破ったのは、僕の名前を呼ぶ声だった。


「追いかけるぞ!」

 そう言い捨てて窓から飛び出す影。輝く瞳に、深い藍色の髪が揺れ、瞬時に消えていく。


「セ!?」

 そう思ったのも一瞬のことだった。そのあとを追って、僕の体は外気の冷たい空気を引き裂いていた。

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