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第三王子は血縁の糸をほどけない  作者: ひまだひまこ
王位継承権編

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35/50

35.ルミナス王国主催剣魔大会

 秋にしては太陽が照り付ける暑さに、大盛り上がりの熱気あふれる会場。控室へ向かう通路で、誰かが先生の肩を掴んだ。


「あれぇ? ダルーン先生じゃありませんか? まさかここにいるとは思いませんでしたよ!」

「えぇ、おかげさまでね。ありがとうございます、わざわざ四日前に教えてくださり」

 余裕そうな表情にピクリと、眉を動かす相手の先生。


「その余裕、どこまで続くか見物ですねぇ。おい、いくぞギル」

「はい、先生!」


 キン肉マンなボディを持った生徒が、その後を追いかけていく。先生の顏は仏頂面なだけで、余裕となわけじゃ……控室の目の前まで来ると、先生がクルリと振り向く。


「さぁ、レンさん!」

 肩をがっしりと掴み、顔を覗き込んでくる先生。ほら、やっぱりちょっと……


「目をつむって、特訓の日々を思い出してください」

 そう促されて目を閉じる。あれほど大変だったのは、ここに来る前、魔術師の爺さんに鍛えられて以来で……


「それでは続いて、批評家の先生を紹介します。はじめはオルフェオ王国筆頭魔術師、マーリン・カミラ先生です。それでは一言お願いします!」


 そうそう、確かそんな名前の……


「レンさん?」


 目を開け、おそるおそるアナウンス席の方を見る。はるか遠くの観客席で見覚えのある、青と紫色のローブがはためいていた。


「どうも皆さん、マーリンじゃ。いやー久しぶりに孫みたいなもんが試合するってことで飛んできちゃったわい」

「そうだったんですねか! ちなみにその選手というのは?」

「それは……優勝しなかったら言いますわい」

「おーそれは楽しみですね! さて、次は同じく」


 にやりと笑ったお爺さんが見えた気がして、首を横に振る。最悪だ!


「レンさん、どうかしましたか?」

「いえ、この試合勝ちます! 剣術でも魔術でも絶対に負けません!」


 剣だけじゃなく魔法でも、絶対に負けられない理由が、今ここに出来た! 急に闘志を燃やし始めた僕を見て、先生は良い方向に解釈をしてくれる。


「よろしい。気合は十分の様ですね。それでは最後まで笑顔でいられるよう、全力を尽くしましょう」

「はい!」

「では観客席で応援しています」


 先生の背中を見送って、控室へと入っていく。


「学校名と等級をお願いします」

「パルメシア学院、第一等級です」


 ざわついていた控室が一瞬、張りつめる。


「はい、承りました。この後すぐ、試合の予定ですので、あちらで待機をお願いします」


 案内された場所に向かう途中も、みんなが僕を見ているような気がした。

 扉を開けると、歓声がより鮮明に聞こえるようになる。奥には案内係と、ガタイのいい男が座っていた。あれが僕の第一試合の相手、か。


「それでは、両方お揃いですので、競技の説明を行います。第一試合は剣技です。どちらかが敗北を宣言、又は命の危険が伴う場合強制終了とさせていただきます。魔法を使ってしまった場合、反則負けになってしまうのでご注意ください。なにかご質問はございませんか?」

 首を横に振る。


「無いようですので、始めさせていただきます。なお審判の宣言により、試合を始めてください」

 案内係が脇にある青いボタンを押した。それと同時に奥のカーテンがだんだんと開いていく。


「お次は、Bコートで第一等級による試合が行われます。第一試合、アラ・ヨワ対パルメシア学院生徒! オッズはおーっと、1.4対20!? さすがはパルメシア学院、圧倒的な差です!」


 ダルーン先生に一つだけお願いしたのは、僕の名前を出さないこと。それにしてもパルメシア学院の生徒ってだけでこんなに人気があるなんて――


 外へ出ると観客席から熱気が押し寄せてきた。こんな大勢の前で普段通りの力を出すのは難しいと思う。青い顔をした対戦者が壇上へ上がり、審判の構えで剣を構える。相手は今にも剣を落としそうなぐらい手がぶるぶると震えている。


「始めっ」

 観客席の声援が耳に飛び込む。手刀を放った瞬間、目の前の敵が崩れ落ちた。観客席は静まり返る。審判はノックを確認し、コールをする。


「勝者、パルメシア学院第一等級!」

 その声に剣を収め、控室へと向かった。後ろからは野次と歓声が飛んでくる。


「おーっと、緊張で倒れてしまったのでしょうか?」


 控室のドアを閉めると、モニターを見ていた選手が一斉にこちらを向いた。こちらを羨ましげに見る人さえいる。けれど一人だけ、僕を警戒して見つめる選手がいた。

「それでは第二試合の選手、お入りください」


 その人は立ち上がり僕のわきを通り過ぎていく。僕は掛けてあった対戦表を見た。ケルト・リーマン選手。おそらくその人が僕の、決勝の相手だ。



 *

「それでは決勝は一時からになりますので、それまでにお戻りください」


 あっという間に試合は進み、残るは決勝だけとなった。僕の相手はなぜかみんな倒れてしまうことで、野次が止まらなかった。それと、決勝の相手はやっぱりあの選手だった。


 外に出て待ち合わせ場所に向かうと、先生は先についていて、僕を見るなり苦笑いをする。


「すみません、ここまで相手が弱いとは思っていなくて」

「え、あの……はい」


 対戦相手はただ手刀だけで倒れていった。一方リーマン選手は剣技や魔法で応戦。その辺の人よりは強いけれど、多分レベッカよりも弱いと思う。


「それで、もしかしたら全級対決があるかもしれません」

「なんですかそれ?」


 初めて聞く名前に首をかしげると、先生はさらに苦笑いを浮かべる。


「つまりですね、普段の試合は力が拮抗して盛り上がるんですが……今回の試合は各学級ごとに絶対的な王者がいるんです。一等級だったらレンさん、二学級だったらリエルさんみたいに。まぁ、全員うちの学校の生徒なんですけどね」

「でも、一般の部門もありますよね?」

「それが、一般の部門にもいるんです、王者が。あ、ほら今Aリーグで試合が」


 大きな歓声がして中から二人が出てくる。


「さーていよいよAリーグ決勝戦! 三連覇を狙う圧倒的王者キンニク・マン対、突如現れた謎の新星、仮面紳士の対決だ! オッズはなんと29対15!? キンニク・マン、根強い人気だー!」

「あぁ……圧勝ですね」

「はい。まったくこうも力量が明確に分かれるとは」


 ため息をつく先生。


「始めっ」

 キンニク・マンがその果敢な(ボディ)でタックルしようと勢いよく飛び出す。


「おーっと出ました、筋肉アタック! さあ仮面紳士、どうかわすのでしょうか?」

 仮面は避けることもせずただ手を前に突き出す。


「真っ向に受ける気だー! これぞ仮面! これぞ紳士!」

 ――どこが紳士なんだろう? 


 仮面はタックルしてきたその体を軽々と持ち上げ、近くの壁へと投げ飛ばした。地響きのような轟音が鳴り、土ぼこりが上がる。


「キンニク・マンのダウンにより勝者、仮面! ということで剣魔大会一般の部、勝者、仮面紳士!」

 キャーっという黄色い悲鳴と歓声が一気に観客を興奮の渦へと巻きこむ。


「というわけで、もっと緊迫した闘いが見たいという苦情が多いと、各等級の覇者が戦う全級対決が行われるんです。もちろん合意があった場合のみですけれどね」

「僕は先生の敵討ちと、あの仮面の紳士とも戦ってみたいです!」

「そう言うと思って、もう了承を出しておきました。楽しんでくださいね」


 やっぱり、という顔をして頷く先生。

 さすがです先生!


「はいっ!」


 難なく決勝も突破して、勝利宣言を受けている時、ふと気づいた。僕の正体、勝たなきゃあの爺さんにばらされるんだった。



 *

「では特別第一試合、始め!」

 その掛け声で我に返り、辺りを見わたす。けれど、どこにも相手の姿は見えなかった。声のする方向、はるか上空で既に相手が杖を構え詠唱を始めていた。脇にある剣を抜こうとすると剣がなかった。そもそも鞘がない。


「……」

 一回外して、着けるの忘れてた。とりあえず詠唱が終わらないうちに、相手の間合いに踏み込もうと地面を蹴る。なんなく間合いに踏み込めた。その細い首に手刀を放つと、女の子は力を失い、地面へと落ちていく。


「え?」

 間合いに踏み込めた? っていうか手刀が入って、気を失ったからこのままじゃ、地面に激突する? 半ば放心状態のまま予想落下地点で手を広げる。その中に、すとん、とおさまる女の子。


「勝者、第一等級!」

 審判に腕を掴まれて空高く掲げられると、辺りには歓声が走った。女の子を抱きかかえたまま控室に戻ると、見覚えのある先生が寄ってきて頭を下げる。


「すみません、守ってもらって! あのまま激突していれば、多分この子は死んでいました……」


 そうまた頭を下げられて、とりあえず女の子を渡した。空いている椅子に腰掛けると、絡んでくる六等級の生徒。


「おいおい、四等級の生徒に勝ったからって余裕気取ってんじゃねぇぞ? 次の相手は俺様だから覚悟しとけ。このギル様が全身の骨折ってやるよ」


 ガハハ、と高笑いする六等級の生徒。

 その高笑いが続いたのも、開始わずか三秒だった。


「勝者、第一等級!」


 目の前がだんだんと暗くなって、思わず頭を振る。


 ――どうしてみんな、手刀だけで崩れていくんだろう?


「レンさん、しっかりしてください」

 頬に鋭い痛みが走って、そこを抑える。ジーンとした痛みが、じわじわと広がっていく。


「まだ試合は終わっていません。さぁ、最後の試合です」

 しっかり持って、と剣と杖を渡される。


 こんなもの、どうせ持っても。


「何でもありの規則ですから、くれぐれも用心してくださいね。相手はあの仮面紳士、油断は禁物ですよ。そして、笑顔で帰ってくること!」


 背中を叩かれて、その衝撃で頭の靄が少し薄れた気がした。


 まだ――仮面紳士が残っている。


「ありがとう先生。僕、最後まで諦めないよ」

「えぇ、当たり前です」



「さあ、この試合! 一体どちらが勝つのでしょうか!? 鮮やかに敵を殲滅する仮面紳士対手刀一本で勝ち上がってきたパルメシア学院まさかの第一等級!? オッズは、おーっと、若干仮面紳士の方が優勢の様です!」


 今まで、僕の方が優勢だったのに。初めてオッズを抜かされて、期待が高まる。この人なら、もしかしたら。


「始めっ!」


 合図と同時に地面を蹴って、会心の手刀を放つ。為す術もなく、相手はゆっくりと倒れていった。


 あぁ。結局、この人も僕の手刀に耐えられないんだ。僕の手刀だけで、みんな崩れていくんだ。


 目の前の鮮やかな世界がだんだんと黒くなり、やがて漆黒へと染まっていく。あれだけ聞こえていた声援も、気づけばもう聞こえない。頭に鋭い痛みがはしった。


 その姿を眺めた後、振り返って歩き出す。


 ――どうしてみんな手刀だけで倒れていくの? 


 頭の痛みがだんだんと強くなっていく。


 その時、背中に鋭い痛みが走り、そのまま壁まで吹っ飛ばされた。固い壁にぶつかり、骨が軋む。


「敵に後ろ見せてんじゃねぇよ、バーカ」


 聞きなれた声。

 お腹を押さえながら声の方向を見る。静かな世界に、仮面の割れる音が響いた。僕は息をのんでその仮面が落ちるのを見つめる。


 いたずらな瞳に、輝く濃紺の髪。


 また割れんばかりの歓声が聞こえ出し世界がみるみると色を取り戻していく。

 

 同時に、会場の光が硬くなった。氷が床を這い、観客席の縁を白く縫い上げていく。結晶が指輪のようにきらめき、聖蒼の瞳が怪しく光る。


「さぁ、まだ始まったばかりだ。楽しませてくれよ!」


 その声が落ちると同時に、氷は動き出した。

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