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第三王子は血縁の糸をほどけない  作者: ひまだひまこ
王位継承権編

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33/50

33.剣魔大会への誘い

「では今から模擬訓練を行いますよ」


 剣術の教師、ダルーン先生の声にみんなは体を揺らした。


「ルールは簡単です、私を殺すつもりでかかってきてください。魔法の使用は禁止、誰からでもいいですよ。剣はそこにあるのを使って下さい」


 指差す方向には、いくつかの剣が。どれも光を浴びてキラキラと輝いている。

 戸惑いの中、まず初めに動き出したのは、レベッカだった。手に持っていた扇をクロエへと渡し、手前の細長い剣を手に取る。髪をくくっても、縦巻きロールは健在のようだ。


「手合わせ願いますわ」

「えぇ、いつでもどうぞ」


 レベッカが剣を構えている一方、先生は余裕そうにただそこに立っている。レベッカの気合と共に踏み込まれた剣を、ひらりとかわす先生。そして、右手で無防備なおでこにデコピンをした。


「えー、威勢が良いけれど、相手の攻撃が見えていないですね。それじゃあ次」


 戻ってきたレベッカの代わりに、今度はクロエが出ていく。手に握られているのは、短剣だ。

 自然に歩いていたクロエが突然宙を蹴り、先生の喉元へと剣を振る。その剣が到達する前に、先生は軽く背後に割り込み、その後頭部にデコピンをした。クロエはそのまま、草原に転がる。


「速く正確な突きだね、素晴らしい。けどその速さに自分自身も捕らわれているね」

 先生を睨んで、しょんぼりと返ってくるクロエ。


「じゃあ、次は私が……!」

 ルリが剣を構えるけれど、人生で初めて剣を持ったような構え。剣を振る前に瞬殺される。続くシーナも似たようなもので、どちらも額にデコピンされる。


「今度は本気でやってくださいね」

 先生は悲しそうにする。冗談のつもりなのかな?


「先生、手合わせ願います」

 セイラが剣を構える。それを見て、先生の目が嬉しそうに光った気がした。そういえば、セイラの剣技は見たことがない。

 セイラが飛び出すと同時に先生の左手に木刀が現れた。やっぱり、セイは女の姿になっても強いらしい。


「はへ? 今どうなってるの?」

「凄い応酬よ」

 ルリの言葉に、レベッカが当然と言わんばかりに応える。その目は二人にくぎ付けになっていた。


 セイラは素早く軽い身のこなしで何度も攻撃していくけれど、先生はその全てを正確にガードしていく。セイラが一度後ろに飛んで、大きく息を吐いた。このまま持久戦になると圧倒的に彼女が不利だ。

 先生はまだ余裕そうな笑みを崩さない、ていうか先生、木刀で応戦しているんだよね、対してセイラは真剣なのに……なんで折れないの!?


 セイラがもう一度踏み出し、さっきより早く攻撃を繰り出す。汗が流れ落ちて、その顔が苦し気に歪む。そのとき、きらりと指輪が光り――先生の目が細まった気がした。次の瞬間、セイラの剣は勢いよくふっ飛び、セイラはこてっと、目の前に倒れてしまう。


「素晴らしい才能ですね。実践を積めばさらに強くなるでしょう」

 仏頂面でこちらに戻ってくるセイラ。


「あいつめっちゃ強かった、一発も入らなかったもん。そもそもあの人右利きだよね」

「うわぁ」

「……それに、デコピンしてきたし」


 やっぱり、デコピンされるのって……嫌なんだ。


 その後にヤンが戦った。短剣で、思いもよらぬ死角からの攻撃だったけど、なんなくかわされ敗北。チェルも結構粘ったけれど負けた。意外だったのはアブラッチョ。騎士の家系らしくセイラより長く戦っていたけれど、結局デコピン。ルイスは瞬殺。


「最後は君かな」


 先生は余裕そうに微笑む。息一つ乱れていないし、何よりまだ右手を使っていない。


「レン、勝ってよ!」

 ヤンの言葉に、みんながこちらを向く。心なしかその目が、若干上目遣いでウルウルしているような……


「できるだけのことは、やってみるよ」

 剣をとって、先生のもとへと向かう。勝てないと思うけど……どうにかこの余裕そうな顔は崩してやりたい。なんかノアみたいで嫌! そう思って剣を構えると、先生が苦笑いを浮かべる。


「随分な期待を背負っているみたいだね。みんなの視線に突き刺されそうだ」


 ゆっくりと距離を詰めていく。先生の隙はどんどんと消えていくけれど、作り出せばいいだけのこと。おそらく先生は自分から攻撃はしてこない。実力を見るだけだから。そして木刀。そこが狙い目だ。


 素早く剣を交えると、思った通り、防戦しかしてこない。


 一度距離を置いて、ゆっくりと息を吐く。なら、この人を――殺すつもりで戦えばいい。踏み出して、できる限り速く剣を振った。嫌な音がして、木刀が真っ二つに折れる。驚いた顔をする先生に、一瞬の隙が生じる。


 今だ!


 大きく右に踏み込んで、首元めがけて剣を振る。()った、そう思ったけれど予想外の音が聞こえた。金属同士が触れ合う音。嫌な予感がして大きく後ろに飛ぶと、さっきいた空間が引き裂かれた。


「先生――それ、反則ですよ?」

「フフ、どうやら君を見くびっていたようだね」


 先生のもとに構えられた細く長い剣。収められていた鞘から抜き出され、ご丁寧に右手に握られている。


「先生大人げない!」

「紳士にあるまじき行為ですわ」

「そうそう、あるまじき……ってどういう意味?」


 外野の野次も気にせず、先生は早くおいで、とでもいうように顎で僕を促す。その目からは殺気が溢れていて、今すぐにでも襲い掛かってきそうだ。目の前の恐ろしい敵に剣を振るけれど、今度は相手も攻撃をしてくる。それどころか攻撃が速くて、今度は僕が防戦一方だ。

 けれど、何となく気づいてきた――いけるかもしれない!


 一瞬、手が止まった隙に、全力で左肩を狙って剣を振るう。先生は受けきれずに、攻撃が入る。


「入った!」

 さっきまで左手で戦ってたから、剣を()()()()()錯覚をしたんだ。その瞬間、僕の首めがけて剣が振り下ろされ、気のゆるみで防御が遅れる。


「イッッタ!!」


 あり得ないほどの痛みが首ではなくおでこに来て、おでこを抑えて芝生に倒れ込む。目の前に立った先生は笑みを浮かべている。けれど、その左肩の服には血が滲んでいた。


「レンさん。あなた、今度の剣魔大会に出てください」

「……へ?」

「レン、大丈夫!?」


 心配した皆が駆け寄ってくる。大丈夫、と答えながらも、その言葉に驚きを隠せない。


「レンさんには四日後に行われる剣魔大会。それに出場して貰います」

「け、剣魔大会ってあの!?」

 アブラッチョの声に、先生が頷く。


「我が校の一等級代表はあなたです、レンさん」

 剣魔大会?? 今、先生に負けたばかりの僕が?


「でも、僕、先生に勝てなかったです。最後の攻撃も、先生が本気だったら死んでいました」

「大丈夫です、あれは誰でも死んでいますから」


 ハハ、と軽く笑う先生。


「王国主催の剣魔大会、同世代で一番を決める大会ですよ? 自分の実力を試したくないですか?」

「いえ、別に……」


 そもそも僕が剣を振るのは、王子としてみんなを助けたいからで、実力を磨きたいわけじゃない……


「そうですか、残念です。優勝した際には、我が国の王女様との対談が設置されるのですが……」

「王女との対談!?」


 これは――ルミナス王国の内部に切り込む機会(チャンス)だ!


「やります!」

「え? 本当ですか!?」

 聞き返す先生に、首を縦に振る。あまりにも代償が軽すぎる、やらない理由がない!


「それでは……今日の放課後、私の研究所まで」


 ちょうどお昼を告げる鐘が鳴り、先生が手をたたく。


「はい、それでは皆さん本日はここまでです。次回までには、剣を振れるようになっておきましょうね」


 うぐっと、ルリが下を向く。


「それでは、さようなら」

「さよなら!」


 挨拶が終わるなり、みんなが集まってくる。


「レン、すごかったよ!」

「ほめて遣わしますわ」

 ふんっと、そっぽを向いて行ってしまうレベッカ。


「うん、すごいや。きみ、どこで剣術習ってるの?」

「おまえ、一撃くらわせたじゃん。褒めてやるよ」

「どうやったらあんなに美しくなるの!?」


 詰め寄ってくる皆に困惑していると、視界の端をセイラがよぎった。レベッカはもう遠ざかっている。


「ごめん、あとで!」


 急いでセイラの後を追いかけると、椅子に腰を下ろしている姿が見えた。声を掛けようと手を伸ばしかけて、その手は途中で止まる。その目から涙がこぼれ落ちていた。


「て……」


 セイは呪いをかけた犯人を捜しにここへやってきた。ルミナスの王族に聞けば何かがわかるかもしれない。けれどあの体で本気は出せないし、男に変身すると無駄な魔力を使って疲労が蓄積してしまう。


「どうして……」


 自分の無力さをこらえるセイラ。己に呪いをかけた犯人に手も足も出ない歯がゆさが、無力な自分が、死ぬほど悔しいはずだ。


 僕はセイラに背を向けて歩き出した。



 剣魔大会――絶対勝つ!!

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