29.僕の従魔だけ反抗期かな
「今日は皆さんの属性と従魔を診断してましょう。その前に従魔について説明しておきます。ではレベッカさん、従魔とはなんですか?」
「使役者の魔力を使い力を行使する使い魔のことですわ」
「正解です」
先生がにっこりと笑ってレベッカに賞賛の言葉を送る。
「従魔とは、ペットとは違います。使役者の魔力を使いますし、時には術者より強い魔物が召喚されることもあります。そのため、いつでも召喚できるわけではありません。時には、術者が命を落とす場合もあります」
静かに先生の話に耳を傾ける皆。
従魔か……僕の従魔は何だろう?
「それではランク分けについて、アブラッチョさん」
「レベルは六つあるけど、だいたいCかBランクだったと思います」
「その通り、素晴らしいですね。もう説明は不要なようです。早速召喚を行いましょうか。私たちがこの通り外にいるのは、危険が無いように、です」
そう言って手を広げる先生。だだっ広い土の上にぽつりと置かれた鏡のようなもの。隣に座っているヤンが、僕に小さく問いかける。
「レン、属性って何?」
「その人が得意とする魔法の種類のことだよ」
「ふーん」
その言葉に前を向くヤン
「それでは、今からお手本を見せます。危ないので皆さんは離れていてください」
皆は立ち上がってぞろぞろと先生から遠ざかる。僕達が離れたのを確認して、先生は鏡の前で目を閉じた。祈るように指を組み、鏡に向かって叫ぶ。
「汝我が呼びかけに刮目せよ。我が名はソフィア・ルンダ」
その言葉と共に鏡が光り、突風が吹き荒れた。土ぼこりが舞いその風圧に思わず目を閉じる。目を開けると白い鳥が先生を守るように羽を広げていた。
「先生の属性は風で、従魔は白鳥です。自身の属性によって従魔が鏡から現れる際の演出が異なります」
「へぇー、なんかかっこいい!」
目をキラキラと輝かせるヤン。その横でチェルは鼻を鳴らす。
「フン、お前の従者はどうせ犬っころかなんかだろうな」
「チェルの方こそ飛べない鳥とかなんじゃない?」
睨み合う二人。
「それではアブラッチョさんからやってみましょうか。鏡の前で目を閉じ『汝、我が呼びかけに刮目せよ。我の名はアブラッチョ・クロス』と唱えて下さい。詠唱を間違えたら……まぁ、その時はその時です」
先生が微笑む。詠唱、間違えたらどうなるんだろう。
「は、はい」
緊張したように鏡の前でたたずむアブラッチョ。
「汝、我が呼びかけに刮目せよ。我が名はアブラッチョ・クロス!」
その言葉と共にいくつもの雷が落ちまぶしい閃光に包まれた。アブラッチョは尻もちをついて従者を呆然と眺めている。
「アブラッチョさんの属性は雷、従魔は……これは、黒騎士ですね。呼び出し難易度はAです」
「ほぇー、かっこいい!」
ヤンが声を上げる。重たい鎧に全身を包み、腰に剣を下げるナイトメア。その騎士が片膝をつき、主人の命令を待っていた。
「僕の従魔がナイトメア!? うわぁ、お父様に言わなくちゃ!」
興奮して戻ってくるアブラッチョ。その後ろでは騎士が背後を守るように立っていた。
「じゃあ次は、ルリさん」
「はい!」
長い髪を揺らして少女が鏡の前に立つ。
「な、汝、刮目せよ! わが名は、ルリ・リリア!」
辺りをまばゆい光が包み、花の香りが辺りを包む。鏡から出てきたのは指先くらいの小さい妖精だった。リラの周りをひらひらと飛び回っている。
「ルリさんの属性は光。従魔は花の妖精ですね。こちらも難易度はAです」
「うわぁ、かわいい!」
「次はシーナさん」
「は、はい。なんじ、刮目せよ。わ、わが名は、シーナ・ラジャ」
そよりと風が吹き抜け、中からは白い動物が出てきた。シーナの足から肩へと上り下りしている。
「シーナの属性は、先生と同じ風ですね。従者は――」
「白いリス、みたいです」
「あぁ、それは白栗鼠ですね。同じくAです」
「シーナの従魔、めっちゃ可愛いね!!」
「ルリのフェアリーテイルも、かわいい」
女子二人がキャッキャするのを横目に、先生は言葉を続ける。
「じゃあ次、ルイスさん」
「はいっす! 汝刮目せよ、我が名はルイス・フォース!」
辺りが土のにおいに包まれる。出てきたのは鳥の様だった。美しい白い羽を羽ばたかせ、ルイスの肩に泊まる。
「属性は土、従者は白鷹ですね。こちらも同じくA。皆さん凄いですね」
「ルイスの鳥、さわってもいい?」
ヤンが触ろうと手を伸ばすけれど、ガンクルーは羽ばたき攻撃を繰り出す。
「うわっ!」
「ぷはっ、お前嫌われてんじゃね?」
「すんません、ガンクルーは忠誠心が強いんすよ!」
その時だった。辺りを暗い闇が包み、鏡からは金色の巨大な虎が現れる。
「レベッカさんの属性は闇、従魔は金虎ですね。難易度はSランクです」
「ふん、私のペットにふさわしいですわ」
優雅にこちらに歩いてくるレベッカ。その後ろをガオライダーが歩くたび、地響きのような音が響く。その後ろで雷が落ちた。
「クロエさんの属性は雷。従魔は雷兎で、難易度はAですね」
クロエの周りをはねるビリルラビリスの角からは雷が流れ出ている。なんか、さっきとは打って変わって実力派な二人。
「次、ヤンさん」
「よっし、カッコイイの出してくるから!」
「牙のない犬でも出してくるんじゃねえか?」
「なんじ刮目せよ! 我が名はヤン・ボルダー!」
辺りを闇が覆い、中から現れたのは巨大な犬だった。チェルの予想通り。違ったのは、その犬がとんでもなく大きいことと、三つの頭を持っていること。
「ヤンさんの属性は闇、従者は地獄の番犬、難易度はSSSですよ!」
「うわぁかっこいい! ケロベロス、ほらお手」
「ヴヴヴ」
「次、チェルさん」
「はい……いや、確かに、犬だったけど……」
魂が抜けたようにチェルは鏡に向かい詠唱する。辺りはまばゆい光が満たし、中からは光り輝く生き物が現れた。羽ばたいているから鳥、ではあるけれどその下半身は獅子の様だった。
「チェルさんの属性は光、従者は金色の守護者ですね。こちらも難易度はSSSランク」
「うおーきたこれ!」
「うっわ、飛べない鳥じゃなかった……」
「じゃあセイラさん、どうぞ」
セイラが鏡に向かっていく。
「ケロベロスの方が強いよ絶対」
「いーや、グリフィンの方が強いぜ」
「そんな訳ないよ! ところで先生、さっきから気になってたんですけど、ランクって何ですか?」
ヤンの声に、先生がこちらを振り返る。
「ランクが高いほど、召喚するのが難しいとされています。違う場所にいる生き物をここへ転移させて、従わせなければいけませんから。最高難易度のURを召喚できた人は、人類史上極僅かですね」
その時、轟音と共に鏡から勢いよく水があふれ出し、それと一緒に中から巨大な怪物が出てくる。鏡に亀裂が走り、なお、その怪物の全長は見えない。
「なにこれ!?」
「うぉ、こんなところまで水が!」
皆の従魔は暴れだし、主人を守ろうとその巨大な生物に威嚇をする。やがてその怪物は人間を見つけ、主人に襲い掛かった。
「セイラさん!」
先生が叫び声を上げる。セイラは動かなかった。ただ、その怪物を見つめていた。その口が開く。
「ひれ伏せ」
その声に怪物は動きを止めた。水がどんどんと鏡の中に吸い込まれやがて全身があらわになる。美しい鰭に、透き通った鱗。けれど胴体と鏡の接続部分は淡く光っている。
「いい子だ」
セイラが手を伸ばす。その手は怪物の牙よりも小さい。怪物はその手を見つめる。やがてその手に顔を寄せた。
「小さくなれる?」
セイラの言葉に水竜は体をうねらせる。どんどんと小さくなっていく姿は、まるで手品を見ているようだった。やがてセイラがこちら向かってくる。その後ろを泳ぐ姿の尾は見えない。
「セイラさんの属性は水ですね。従魔は……大海獣、ランクはURですよ!?」
その言葉に声が漏れ出る。
「URって……規格外すぎるよ!」
「同感だ。リヴァイヤサンってあれだろ、伝説の水竜じゃねぇか」
「セイラって本当に──何者なの?」
ヤンが叫んで、その声に皆が深くうなずく。
「最後レンさんどうぞ」
うわぁ、セイラの後とか嫌すぎる。どうしようこれでなんか変な奴出てきたら。
「汝刮目せよ。我が名はレン・オルフェリア――」
「あっ、フラワー!」
後ろで叫び声がして、目の前にフラワーテイルが現れる。まき散らしているのは、花粉。
やばい、花粉は、ここでくしゃみしたら詠唱が……そう思った時には鼻がむずむずしていた。
「くしゅん」
あ……
煌めく目の前の鏡を見つめる。どうしよう、えこれ詠唱失敗したってことだよね、変なの出てきたらどうしよう!
「っ」
やがてその中から誰かが飛び出してきた。手に紙をもったまま。
「レン様どうなさいましたか?」
「うわ、ジェームズか、良かった!」
安心している僕の後ろから足音が聞こえてくる。
「レンさん、大丈夫ですか?」
「レン、ごめん! さっきのかいぶ……セイラの従魔にフラワーが驚いちゃったみたいで!」
掛けてきた先生とルリは揃って、執事を見つめる。その視線を受け止めにこりと微笑んだ。
「私、レン様の執事のジェームズと申します」
「えぇと、レンさん、この方は本当にあなたの執事ですか? 人間ではないようですが」
「一応執事で、巨人族の黒き者です。でも、僕の従魔ではないですよ?」
ジェームズが僕の従魔だったら一生こき使ってやるけどね。
「レンさんはもう一回詠唱してみてください。……スルトのランクはUR越えですから」
「え? はい」
「ごめんね、レン。ちゃんとフラワー連れて帰るから」
先生とルリが離れていく。
「レン様、私は帰ってよろしいでしょうか」
「うん、ごめんいいよ。仕事中だったんだよね?」
「それでは」
ジェームズが瞬時に姿を消す。二人が十分に離れたのを確認して、再び手を組んだ。
「汝刮目せよ。我が名はレン・オルフェリア・クライン!」
詠唱と同時に爆音がして周りが熱くなる。目を開けると、燃え盛る炎の中に、黒い塊がうごめいていた。口から火を吐き、その熱で鏡が溶けていく。
『ここはどこだ? 我を呼んだのはお前か?』
頭の中で厳かな声が響き、火を噴くのをやめるドラゴン。ぎろりと睨みつける黄色の目には、殺気が宿っている。
「はい、僕です」
どうしよう、燃やされて終わりかもしれない。なんか怒っているけど、僕もまさかあなたを呼ぶとは思っていませんでしたよ!
『我が名はエンドラ。世界の終焉を呼び寄せる最強の黒龍だ!』
そう言って火を噴く黒龍。
なにを言ってるのだろう、この生き物は。
竜って喋れるんだ。
『む? 我の言葉が聞こえるのか? 気に入った、お前を従者にしてやろう!! 踊り狂って喜ぶが良い!!』
「はい、」
えっと、僕は従魔を召喚したんじゃなかったっけ? 何で僕が従者になってるの?
『助けが欲しかったら呼ぶがいい! ガハハ、さらばだ!』
そういうなり飛び立とうとした竜は、皆の方を一望して羽ばたきをやめた。
『む、小僧、なぜあそこにリヴァイヤサンがいる?』
「それはですね、僕の友達が従魔にしたからです」
『ワハハ、そんなわけなかろう! おいリヴァイヤサン、聞こえているか?』
『うるさいわね、なによ』
頭の中の声がもう一人増えた。今度は高い声だ。
『久しぶりだな! 何故お前がここにいるんだ?』
『召喚されたのよ。人間に支配されるのは癪だけど、この子の魔力が美味しいから従ってあげてんの』
リヴァイアサンの尾がゆらゆらと揺れる。
『そうか! じゃあなぜ我はここにいるのだ?』
『はぁ? あんたもその人間に召喚されたからでしょ』
『我を召喚しただと?』
僕を見て火を噴く竜。そのたびにおののく先生。いつの間にか先生が増えている。
『この小僧が、か?』
『そうよ。なんかその子あんたと同じ匂いするし、お似合いなんじゃない?』
『ううむ。まぁはるばる飛ばされて帰るのも大変だからな。おい小僧、我を従魔にしたいのか?』
こちらを眺めるドラゴン。もちろん、ていうかそのために召喚したんだけどね!
「はい!」
『仕方ない、ではなってやろう。我の名はエンドラだ! 小僧の名は何という?』
「レン・オルフェリア・クラインです」
『レン? ……さてはお前が次のご主人様か』
ガハハ、と豪快に火を噴き始めるドラゴン。
『それは想定外だった! よろしくたのむぞ、長い付き合いになるんだからな』
「うん、よろしくエンドラ」
小さな破裂音と共に小さくなるエンドラ。皆の方に向かうと、先生が戸惑いながら言う。
「レンさんの属性は火、従魔は……最後の皇黒竜。ランクは ──判定不能です」




