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第三王子は血縁の糸をほどけない  作者: ひまだひまこ
王位継承権編

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27/50

27.異端児ばかりのクラス分け

 広い廊下には、長い張り紙が貼ってある。クラス分けが記されているその紙の前では多くの人が行き交い、自分の名前を見つけては、飛び上がったり、落胆したりと様々だった。押し合いへし合う人を見て、セイラと顔を見合わせる。


「私たち同じクラスだといいね」

 セイラがにこっと微笑みを返して言う。流れ星が見えた、と深夜二時に僕を叩き起こした人とは、まるで別人のようだ。


「うん、ところでクラスって何?」

「レンって本当に話聞いてない。力が同等の人で構成されているの。一番上からシュヴァルツ、ヴァイス、ゲルプ、ロート、ブラオ、最後にリラ」


 あきれながら説明してくれるセイラ。


「よく覚えてるね。本当に脳みその大きさ、同じなのかな?」

「人間の脳ってそんな大差ないでしょ!」

 そういいながらも、ちょっと照れたような笑みを浮かべている。


「じゃあ、一番上のシュヴァルツに入ってるといいな」

「うん、そこの制服が一番カッコいい!」


 人混みに吞まれつつ、前に行こうとすると不意に周りが空く。前にいた女の子が反動でこちらに倒れてきた。肩を支えるとその子は閉じていた目を開き、驚いてこちらを見つめる。


「ごめんなさい、では失礼します!」

 そしてすぐに顔を挙げて、人ごみに紛れてしまった。貴族らしからぬ少女だった。

 そのまま進んでいく。自分の名前を見つけて、その上を見ると、”シュヴァルツ”の文字が。その下にセイラの名前があるのを確認する。


「あ、お兄ちゃん! 同じクラスだったね!」

 ひょこっと後ろからヤンが顔をのぞかせた。あの魔力量からしても、ヤンは同じクラス。それはそうと、と僕は口を開く。


「ヤン、僕のことは“お兄ちゃん”じゃなくて“レン”って呼んで欲しいな。ここでは、君と僕は対等だから」

「でも……お兄ちゃんは、王子様なんだよね?」


 目を伏せて足元を見つめるヤン。


「あれから僕、お母さんに楽をさせてあげたくて、色々勉強したんだ。そしたら、お兄ちゃんと同じ顔の写真が、教科書に載ってて……」

「それでも、ここでは関係ないよ」


 王族という肩書きに誰しもが遠慮をしてしまう。その時点で、僕はその人と対等な関係を築くことはできない。けれどヤンにはここで、身分の差など関係なく学んでほしかった。


「……わかった! じゃあ、レン、これからよろしくね」

 ニコッと八重歯を覗かせて笑うヤン。子犬のように人懐っこい。


「じゃあ、教室に行こう?」

「うん。ところで、ヤンって何歳なの?」

「僕は、九歳だよ! レンは確か、十ニ歳だよね。『その大人びた瞳には、一体どんな王国の未来を描いているのだろうか』って!」

「待ってなにそれ、朗読しないで……っていうか、なんで暗記してるのヤン!?」


 確かにどこかの貴族にそんなことを聞かれて適当に答えた記憶はあるけど!


「なんとなく?」

「そんなの覚えなくていいから!」

「どうしようかな?」


 三歳も年下の相手に揶揄われながらも、僕たちはようやく目的地に辿り着いた。


「……ここだよね?」

 扉を横にスライドさせると、煌びやかなシャンデリアが目に入った。段々と高くなるように設計された机と椅子は、教卓を中心として扇形におかれている。


「わぁ、一番前に座ろう?」

 一目散に向かうヤンの背中を追いかけている間、多くの視線を感じる。席について辺りを見渡すと、セイラと目があった。横にいるチェルの言葉に、頬を緩めている。


 その隣には女の子が二人、並んで座っていた。長い髪を垂らした少女と、おさげの少女。その奥には髪を綺麗に巻いた令嬢と、メイドの服を着た女の子が。


 さらにその奥を見ようとした時、扉が開いて小柄な女の人が入ってきた。そのあとからはふわふわと、たくさんの荷物が宙に浮かんでくる。


「みなさんこんにちは! 一年シュヴァルツ担当のニーナでふ!」


 沈黙が流れた。


「こんにちは!」

 ヤンが素直に挨拶を返し、それにみんなが続く。先生は赤くなった頬を押さえて、弱々しく微笑んだ。


「えっと、今日はみんなに配るものがあって」

 先生のその言葉で、荷物がゆっくりとこちらに向かってくる。そして机の上に静かに着地した。先生が、魔力で包み込むように操作している。それも至極簡単そうに。


「今日は初めてだから、教科書と制服、それと書類の配布。寮の部屋割りもされているから、確認してね」


 教科書は少ないけれど、各々が分厚い。パラパラと中をめくると、大量の文字がびっしりと書かれていた。真顔でヤンが教科書を閉じる。


「じゃあ、配り終えたところで、今日は一つやって欲しいことがあるの。みんな、目の前にある荷物、浮かせられるようにしてね?」


 空気が凍りつく。


「できたら、そのまま浮かせて、寮に帰っていいわよ。それじゃあ、初めてね」

 先生は穏やかに微笑んで、教卓の椅子に腰を下ろした。


「レン、これを浮かすってこと?」

「うん……」


 僕とヤンは顔を見合わせた後、目の前の小山を見つめる。えっと、繊細な魔力操作が必要な時は、どうするんだっけ?


「あ、できた」

 後ろからセイラの呟く声がした。恐る恐る振り返ると、宙に荷物が浮かんでいるのが見える。


「まぁ、凄い! 合格よ、帰っていいわ」

 先生が控えめに拍手を送り、セイラが階段を降りてくる。そして僕の前に来て、顔を覗き込んできた。


「レン、それ、魔力込めてるの?」

 思いっきり、力を込めて物を動かそうとするけど、僅かに揺れるくらいで荷物は動いてくれない。


「一分足らずでできるセイラの方が異常なんだよ……?」

「あ、できた」


 ヤンの声が聞こえて、横を振り向くと、荷物がなくなっていた。宙に浮かぶ物体。


「やっぱりこのクラス凄いのね。合格よ」

 先生が驚いたような顔をして言った。ヤンは得意そうに僕の方によってくる。


「あれ、レンまだできてないの?」

 ようやく全部の荷物が浮くようになってきたけど、力を緩めるとすぐに落ちてしまう。


「ヤン達が凄いだけだよ!」


 後ろを振り返ると、宙に浮かぶいくつの荷物。

 次々と成功の声が上がる中、僕だけが取り残された。


「レン、力を込めるんじゃなくて、包み込まないと」

「そうだよ、優しく、抱きしめる感じで」


 セイラとヤンの言葉通り、包み込むようなイメージをする。ふわふわな雲が、空に浮かんでいるような……


「あ、出来たじゃん!」


 目を開けると目の前の小山が消えていた。荷物は広い天井の近くで浮かんでいる。


「こ、これどうやって下げるの?」

「どうって? こう、ふわーっと」

「ふ、ふわー?」


 力をフワーッと抜くと、何かが風を切る音が聞こえる。上を見ると、勢いよく荷物が落ちてきていた。


「わっ!」


 咄嗟に防御結界を張るけれど、いつまで経っても衝撃は来なかった。僕の耳に穏やかな先生の声が入ってくる。


「ダメですよ、もっと気をつけなきゃ」

 先生が荷物を受け止めてくれていた。それはゆっくりと僕の前に積まれてゆく。


「ありがとうございます」

「えぇ。えっと……セイラさんは天才肌に近い、思考型の直感派なんでしょうね。レンさんとは違ったタイプなので、その教え方は合ってないかもしれませんね」


 ゆっくりと言う先生。


「レンさんは、感覚型の直感派です。成功すれば必ず出来るようになりますが、それまでは繰り返し練習することが必要です」

「はい」

「空気を優しくかき分けて、物を包み込むように、全体に魔力を張り巡らしてください」


 つまり、勢いを殺すってこと……? ふわりと浮かんだ荷物はゆっくりと、上下した。


「はい、合格です」

「やった!」

 セイラとヤンとハイタッチをして、浮かんだ荷物を見つめる。


「……あの先生、感覚型の直感派って何ですか?」

「そうですね、運を掴む人ですよ」

「運を、掴む人?」


 セイラが首を傾げて問いかける。先生は穏やかに微笑んだ。


「簡単に言うと──レンさんは単純なアホ、セイラさんは考えるアホ。私は、考えるバカで、その他が単純なバカです」

「おぉ、なんかわかった気がします!」


 目を輝かせて答えるヤン。その隣で、単純馬鹿と呟く小さな声が聞こえた。


「それは良かったです」

「ありがとうございました、先生さようなら!」

「はい、また明日」


 挨拶をして教室から出ると、教材一式がひょこひょこと後ろから付いてきた。


「これ、一回寮に置いてこようかな?」

「うん、僕もそうする!」

「……寮」


 小さく呟いたセイラの顔が、一瞬曇ったように見えた。音と共に扉が開いて、中から人が出てくる。


「あら、ごきげんよう」


 扇子で口元を隠したご令嬢と、メイド服を着た女の子。さっきセイラの隣にいた子たちだ。その声に、セイラの肩がビクッと揺れた。


「わたくしたち、これから寮に行きますの。あなたもご一緒しません?」

 セイラの方を向いて、微笑みを浮かべる令嬢。


「……そうさせてもらうわ」

 セイラがゆっくりと答えて、こちらを向いた。


「じゃあ、そういうことだから。また明日ね、レン、ヤン」

「それでは」


「……待って!」


 僕の声に、令嬢の動きが止まった。何故かこのまま行かせてはいかせてはいけない、そんな気がした。


「何ですの?」

「僕の名前はレン・オルフェリア・クライン。君たちは?」

「……わたくしは、レベッカ・ゲーテですわ。こちらは召使いのクロエ」


 メイド服を着た女の子が、軽く頭を下げる。


「もうよろしくって?」

「うん、明日からクラスメイトとしてよろしく……レベッカ、クロエ」

「えぇ。それではご機嫌よう」


 優雅に振り返り、堂々と歩いていくレベッカと、それに従うクロエ。セイラは軽く微笑んで手を振り、そのあとを追いかけていった。その後ろ姿を無言で見送っていると、扉を開く音がした。


「あ」

 頭をかきながら出てきたのは、チェルだった。

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