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第三王子は血縁の糸をほどけない  作者: ひまだひまこ
王位継承権編

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26/50

26.この学院初日から鬼畜

 厳かな鐘の音が辺りに響き渡り、割れんばかりの拍手が聞こえてくる。目の前の、壮大で優美な白い扉の奥から聞こえるその音は、僕らを歓迎するように鳴り響く。


「緊張してるの、レン?」

 そう笑いながら、僕を小突いてくるセイ……いや、セイラに、軽く微笑みを返す。


「ううん」

 白い扉がゆっくりと開き、まぶしいほどの光が期待と好奇心をときめかせる。


「ようこそ、パルメシア学院へ」

 何千といった視線が絡み合う。期待、好意、尊敬、悪意。


「この度は入学、おめでとう」

 全体がゆっくりと進み、僕も堂々と一歩踏み出した。


 今日、僕は、パルメシア魔術師育成学院に入学する!


 *

「……そのため、パルメシア学院には『踏級(とうきゅう)』という制度があります」

「ねぇ、レン!」


 セイラに肘で小突かれ、初めて自分が寝ていたことに気付いた。思わず背筋を伸ばす。連日、疲れすぎてよく眠れていなかった。


「以上が、特別制度の説明です。実際にこの制度を使い、僅か一か月足らずで卒業した生徒もおりました」

「すごっ」


 セイラが隣で小さく息を漏らす。

 六年ある学院を、たった一か月足らずで卒業。そんな偉業を成し遂げる人がいるのかと、新入生はどよめきたつ。


「ちなみに、最短記録は十日でしたね」

 良く響く軽やかな声で、そう付け足す学院長、ステラ・レズロール先生。


「十日!?」

 在学生も、初めての情報なのかざわめき始める。その渦中の中、若き女校長は微笑みを浮かべ口を開く。


「最短記録をたたき出したのは、当時九歳の……」

「九!? 年下じゃん!」


 セイラと僕は顔を見合わせて、互いに瞬きを繰り返す。辺りは静まり返り、もはや皆、固唾をのんで次の言葉を待っていた。


「それは、現オルフェオ王国が第一王子、ノア・オルフェリア・ラインティエ様です」  

「え?」


 言葉が耳を通り、脳が理解を拒み止まった。辺りの空気が緩み、続きの話が始まった。それでも僕の耳には何一つ情報が入ってこない。


「皆さんも精進して……」


 ノアが、()()()()()()()()()()()()? ならどこで成長を間違えたんだ? 全く分からずに、頑張って原因を探そうと、うんうん唸っていると、突然大きな音がした。前を見ると、何もない空間からゆっくりと何かが姿を現した。上には丸い透明な玉が付いていて、それを支えるように支柱が立っている。


「あれ、何?」

 隣にいたセイラに話しかけると、彼女も小声で答えてくれる。


魔力測定装置(ミューゼ)。新入生はみんな、今から測るんだって」

「……大勢の前で?」


 周りに何千といる生徒たち。こんな大勢の人に見られるなんて。先生が声を張り上げる。


「今からこのミューゼで魔力を測ります。これはわが校恒例の新入生歓迎会行事ですから、心して臨むように」


 穏やかにほほ笑む先生とは対照的に、在校生の目はギラギラとしていた。興奮したような熱気が辺りを包み込む。


「毎年、魔力量が一万以上まで到達する生徒は何百人のうち、ごく僅かです。皆さんもそれを目指して頑張ってくださいね」

 その言葉に、今度は新入生の空気が揺れたのが分かった。


「レン、一万なんて余裕で行くよね? 負けないから」

 セイラが自信満々な顔を浮かべている。そこに勝ち気なセイの笑顔が重なる。もちろん、と答えると怪しむように目を光らせるセイラ。その時だった。


「そんな魔力量、そうそう出ないぜ」 

 セイラの隣の子が、不意に僕たちに話しかけてきた。彼女が愛想笑いを浮かべると、その子は得意げに話し始める。


「一万なんて、ここ数年出した人はいないんだぜ?」

「へぇ、そうなんだ」


 セイラは笑って答えるけれど、その瞳には負けられないという闘志と余裕が宿っていた。その時、辺りにどよめきが走った。測定器の前に数字が映し出されている。


 ”32324”


 その下から、黒い布がめくれて校長が現れた。どうやら、この数字は先生の魔力量みたいだ。


「とまぁこんな風に、さすがにここまで出せたら最優秀賞決定ですね」

 ぞくりと悪寒が走った。上級生のざわめきが聞こえる。


「あそこまで出せる奴なんていたら、もう天才(バケモン)だぜ」

「ステラ先生の冗談(ブラックジョーク)、いつ聞いても笑えないわよね」

 冷めきった視線に気づかないまま、先生は話を続ける。


「それじゃあ、名前を呼ばれた人から前に来て下さい。アブラッチョ・クロス」


 ”8746”

 その数字を見て、小さなどよめきと安心感が走った。一万にはいかなかったけれど、中々いい数字らしい。


「はい、8764ね。次、デブリン・グレイス」


 少年と入れ違いに少女が駆けていき、機械の中へ入っていく。


 ”237”


「はい、237ね。次、ハナミーズ・タレン」


 その後は皆似たような数字が続く。

 半分ほど過ぎても、五千以上を出せたのは僅か数人しかいなかった。


「はい、1074ね。次、チェル・ダーフル」


 セイラの隣、さっき声をかけてきた男の子が入っていく。


 ”11953”


 大きな歓声と拍手が巻き起こった。セイラが口笛を吹く。初めて一万を超えた。


「なかなかやるじゃん、あの子。チェルだっけ?」

 返ってきたチェルは、得意げにセイラの方を向いて足を組む。


「まぁ、こんなの当然の結果だな」

「すごーい」


 相変わらずの棒読みだけど、少しセイラの表情が柔らかくなった。


 おおっと、拍手と歓声が巻き起こった。


「うわっ!?」

 チェルが勢いよく立ち上がる。前に映し出されていた数字は、先ほどより大きい。


 “13227”

「はい、13277ですね。次、バリカータ・パスタ」


 信じられない、というような顔もちで歩いてくる少年。僕と目が合うなりこちらに走ってきた。周りよりも一回り小さいその体に、どこか見覚えがある。


「お兄ちゃん!」


 無邪気な笑顔に浮かぶえくぼ。


「……ヤン!?」


 それはバグドで出会った少年、ヤンだった。会った頃よりも顔立ちが大人っぽくなってはいるものの、まだあどけない幼さが見て取れる。


「凄いね、ヤン。今のところ魔力量、一番だよ!」

 僕がそう声をかけると、ヤンはこそばゆそうに笑い声をたてる。


「僕、お兄ちゃんに会うために頑張ったんだ!」

「そうなの?」

「うん……あ、またね!」


 ヤンは手を振って元の席へと戻っていった。やっぱりヤンのお母さんと言い、家系的に魔力が多いのかもしれない。


「レン、今の子、だれ?」

「えっと、うーん」


 そう尋ねてくるセイラ。ヤンのことを聞いているんだろけど、言いにくかった。この学院のほとんどは、貴族で構成されているから。


「秘密、かな」

「ふーん」

 面白くなさそうな顔をしたあと、セイラは反対側を向いてしまった。先生の声がする。


「はい、15ね。次、セイラ・レオンハート」

 立ち上がったセイラが、振り向いて言う。


「レン、絶対最高記録たたき出してくるから!」

「うん、頑張ってね」

 セイラは堂々と装置の方へと歩いて行った。測定が始まってもいないのに、辺りが騒がしくなる。


「だれだ、あの子」

「すっごくかわいい」


 どうやらセイラに、見惚れているようだった。男女問わず惹きつけてしまう、そんな魅力がセイラにはある。そのうちに、彼女は装置の中へと入っていく。


 一瞬”19723”という数字が見えたけれど、それはすぐに消えてしまう。()()()としての魔力量なんだろう。それでも十分凄いけど、と思いながら装置を見つめる。しばらくして、文字が現れた。


 ”329445”


 一瞬静まり返ったのち、講堂に割れんばかりの歓声が響く。先生の数値を超えていた。僕も立ち上がって精一杯の拍手を送る。そのうちに違和感に気付いた。周りもだんだんと静まり返っていく。


 ステラ先生の数値は、”32324”、対して、セイの数値は”329945”だった。


 ”3()2()9()9()4()5()


 一桁……多い。


「はい、329945ですね。……329945!?」

 ステラ先生の動揺した声と共に、再び講堂に歓声が上がった。最高峰の熱気の中、セイラが優雅に歩いてくる。


「ふふん」

 帰ってきたセイラは軽やかに腰を下ろした。得意げな笑顔が隠し切れていない。


「ハイ皆さん静粛に、静粛に。続いて、レン・オルフェリア・クライン」

「はい」


 立ち上がって返事をするけれど、誰も僕の声なんて聞いていなかった。先ほどのセイラのあまりにも現実離れした数字に興奮し、誰も僕がオルフェオの第三王子だなんて気づいてない。僕にとってはその方が良かった。変に注目される方がよほどのプレッシャーだ。


 とりあえずセイラを超える、とりあえずセイラを超える。


 装置の中で繰り返しながら手をかざす。布をめくった時、辺りは静寂に満ちていた。


「さ、315059です。次、ヤセタイ・デモーデップ」


 静まり返った講堂を歩いていくと、みんなが僕を見つめる。不安と畏敬の念が込められた視線。現実離れした数値を連続して出したことにより、少しずつ皆に恐怖の波が押し寄せてきていた。居心地の悪い空間を抜けセイラの元に戻ると、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「勝った」

 その声で張りつめていた空気から解放される。深く息を吐きながらセイラを睨んだ。


「あんまり変わらないよ」

「でも、勝った」

 誇らしげにそう言われて、思わず笑みがこぼれてくる。そう、この数字に気圧されてばかりでいられない。


 最後の子の測定が終わった。持っていた羊用紙を置き、先生が声を張り上げる。


「以上で終了します。寮編成は後日、発表いたしますのでそれまでの間は、仮決定された寮で寝泊まりを、分からなければ上級生に聞くように。それでは私達は会議があるので、これにて解散とします」



 *

 静まり返った講堂に、一人の人影があった。その人物は魔力測定値に手をかざす。一万、二万と勢いよく数字が上がっていき、ようやく止まった数字を見て、影は闇へと紛れていった。


 ”100000”


 それが装置で測れる最大の数だということを、影はまだ知らない。

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