なにも変わっていない
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何も変わっていない。
ヘルトは彼女を見てそう思った。
光の宿らない黒い瞳と背筋が凍るほどに冷徹な声。全身から立ち上る不機嫌なオーラ。
まさしく二年前と同じ姿形、同じ声で彼女は言った。
「魔王軍四天王の生き残りの討伐、ね。いいわ。元々は私たちが逃したのが原因でもあるし、受けましょう。出発は?」
「今日、これより」
「そう」
「ええ」
「で? 彼らは?」
「男性の方は今回のあなたの旅のお供です。一人だけでは万が一、ということもございましょうから。女性の方はあなた方で話して決めてください」
「お供なんて別にいらない。拒否権は?」
「ありません」
凛とした声としわがれた声。それらが交わす会話を上手く回らない頭で何とか理解していたヘルトは、遂に声を挙げた。
「ちょっと待て。おいお前、どうしてここにいる?」
「? 呼ばれたからだけど?」
テュシアは不機嫌そうに言った。
「そういうことを聞いているんじゃねえ。どうして勇者のお前が冒険者ギルドで依頼を受けているのか、と聞いているんだ。おっさん、いつからギルドは勇者に頼るようになったんだ?」
冒険者ギルドの依頼は冒険者だけに割り振られる。それは絶対順守のルールであり、それを破ることはすなわちギルドが白旗を上げることと同義だ。
「はて? 勇者? 私は昨日ギルドに加入された冒険者のテュシアさんに依頼を行っているのですが?」
「はあ?」
しらっと言うランドリックにヘルトは素っ頓狂な声を挙げてテュシアを見る。
黒髪の少女はそんな視線などまるで気にしていないかのように、淡々と告げた。
「彼の言っていることは本当よ。分かったら黙りなさい。話が進まない」
「い、いや、冒険者ってお前。もう働かなくても遊んで暮らせるくらいの金は貰ってるだろ? なんでそんなことを……」
「あなたには関係ない。いいから黙りなさい」
「てめぇぐふっ!」
取り付く島もないテュシアの言葉に、二年前の出来事も含めて怒りが爆発しそうになったヘルトの脇腹を鈍い痛みが襲い、耳元で囁かれる声にジニアから殴られたことを悟る。
「計画」
「……ちっ」
仲良し作戦のため喧嘩をするな、ジニアの意図を察してヘルトは代わりにとばかりに舌打ちを返す。
仇敵との再会に想像以上に揺さぶれられる心を必死に抑え込みながら、ヘルトは二人の会話に耳を傾ける。
魔王軍四天王べリアスの討伐。
それが今回彼らに託された依頼。
かつてテュシア達がとり逃した魔王軍残党の処理である。
王都より東に半日ほど歩いたところに位置する洞窟内部でべリアスが発見されたのだ。この報を受け、冒険者ギルドは至急テュシアとヘルトを招集した。
事実を知る人間はごく一部。民衆に知れ渡る前に、ひそかに、速やかにべリアスを討伐することが彼らの任務であった。
「それで? どうして私と彼なの? べリアス程度、私一人でも倒せるわ。わざわざ足手まといを連れて行く必要がどこにあるの?」
「誰が足手まといだこのくそおんぐふっ! ……テュシアさん」
「事実を言ったまでよ」
ジニアに殴られてにこやかに言うヘルトと、素っ気なく返すテュシア。
「確かにテュシアさんなら一人で倒せるかもしれませんね。ですが、あなたは冒険者で、私はここの主です。言わんとすることは分かりますね?」
ニコリと微笑みながらも、その瞳はつべこべ言わずに言うことを聞け、そう雄弁に語っており、ヘルトは初めて自らが呼ばれた意味を知る。
つまりは、テュシアへ立場を分からせるためである。ランドリックの言うことは絶対であることを、テュシアへと自覚させる。そのための材料なのだ。
そんな扱いに歯痒い思いをしながらも、若干の引っ掛かりを覚えるヘルト。
なぜ、俺なのか、と。
テュシアの意思に反して無理やり同行者をつけるのであれば、別の者で良かったはずだ。
そんなヘルトの疑問は可及的速やかに解決することとなる。
「……分かったわ。ねえあなた、すぐに発てる?」
ランドリックの話を一頻り聞き出した後、テュシアはヘルトに向けて言う。
「……ああ」
「じゃあ、行くわよ」
言うや否や立ち上がり、そのまますたすたと扉の方へ歩いて行ってしまうテュシア。しかし背後からかかる制止の声。
「少しお待ちください。テュシアさん。おそらく、そろそろ……」
依頼内容は聞き終えた。事態は一刻を争う。なぜ引き留めるのか、そんな不満にテュシアが口を開きかけた時、新たな闖入者が現れる。
いきなり、バン、と勢いよく開いた扉と、豪快に響く二人分の足音。
全速力で駆けてきたのか、ぜえぜえと荒い息遣いと共に現れたその人物達を見て、ヘルトはランドリックのたくらみの全貌を知る。
「ちょっとヘルト! どういうこと?! どうして騎士団辞めて冒険者になってるの?!」
「ヘルト! 冒険者ってどうやってなればいいんだい?!」
髪を振り乱しながら叫ぶプリムと、相変わらずにこやかに言うイディオの姿がそこにはあった。




