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言い訳

Xにて挿絵公開中。

よろしければそちらもご覧ください。

@aiueo4564654

 気まずい、とヘルトは沈黙に包まれた地下通路にコツコツと足音を響かせながら思う。


 右を見れば、プリムとイディオが歩いているのだが、一様に表情が暗い。最初はぷりぷりと怒っていたプリムが、突然表情を暗くし、それがイディオにも伝染した。


 ただでさえ陰気な地下通路をつられてヘルトまで気分を暗くしながら、会話らしい会話もなく進む。


 入り組んだ地下水路はまるで迷宮のようで、一歩一歩と進む度、彼らは奥深くへと入り込む。先ほどまで上部の排水溝から差し込んできた眩いまでの陽光は、分厚い雲が蓋をしてしまったのか、今は消え入りそうなほどに弱弱しい。


 雨が降ってしまえばたちどころに水かさが増し、ラウレルを捉えるどころではなくなってしまうだろう。ブーツが鳴らす足音の感覚が短くなっていく。


 そうして、小一時間程歩いた頃だった。


「おい、止まれ」


 小さく囁かれたヘルト言葉に、鳴り響いていた足音が止む。


「近いのかい?」


「ああ、あと十分程歩けば着く。いったんここで止まって装備の確認をしとけ。おいプリム、魔法も消しとけ。見張りがいるかもしれん」


「……ええ」


 ヘルトの指示の通り魔法の光球を消したプリム。辺りは暗闇に包まれる。


 目と鼻の先も見えない中、ヘルトは騎士達からもらった地図から視線を上げて、騎士達に渡された剣の調子を確かめる。休日に武器を持ち歩くほど物騒な人間などいるわけがなく、丸腰だった彼らの腰には今は騎士団御用達のロングソードが吊るされている。時間がないからこれで行け、と手渡されたものだ。


 何を使わせても一流以上の動きを見せるイディオはさておき、ヘルトも特に剣に愛着など無い。数回振っただけで、剣身を鞘に納めた。


「うん、大丈夫だよ」


 同じくイディオも軽く振っただけで、にこやかにそう言った。


「お前も大丈夫か?」


「……うん」


 プリムに至っては杖など無くとも問題なく魔法を使えるため手ぶらだ。覇気のないその声に、ヘルトは一抹の不安を抱えながらも何も言うことはなかった。


「じゃあとりあえずの作戦を伝えるぞ」


 そう前置きしてから、ヘルトは彼女へとヴァルキリー捕縛作戦の内容を伝えた。


 まずはプリムの魔法でヴァルキリーの視界を奪い、ヘルトとイディオが無力化させる。ヘルト達が戦闘をしている間、プリムは不測の事態に備えて後方待機。


 単純な作戦だったが、対人集団戦における彼らの不動の戦略。かつてと同じようにヘルトの言葉に耳を傾けていた二人は、やがてその首を縦に振る。


 その間にも暗闇に彼らの目が慣れて、やがて微かではあるものの通路の輪郭を問えらえられるようになり、すぐさま一行はラウレル達の下へとその歩を進めた。


 先ほどまでとは打って変わって足音を殺して歩く。


 神経を尖らせての進行はより一層重苦しい雰囲気を場にもたらし、曲がり角に差し掛かる度に前の見えない不安がそれを加速させる。


 ラウレル達が潜むのは、王都地下にある大きな空洞。そこは地下水路が氾濫しないように設けられた大きな貯水層の役割を果たす空間だ。


 微かに流れる水流の音を聞きながら、足早に地下水路を進んで行く。


 道中に見張りがいないことを不思議に思いながらも、水路を歩くこと十分、ヘルトの言葉通り彼らはそこへ到達する。


「──っ!」


 あまりにも広大な空間に、王都の地下にはこんなものがあったのか、とイディオが息を呑む。


 地下に開いた広大な空間を遠くに浮かぶ光源が微かに照らしている。


 天井は見上げるほどに高く、ドラゴンですら優に生活できるほど広々とした空間。埒外の荷重を数十にも及ぶ長大な柱が支える。静謐な空間に漂うのは香ばしい香りと、凛となるソプラノ声。


 聞き覚えのある声音にヘルトは息をゆっくり吸い込んでから、言った。


「いたぞ、ラウレルだ」


 プリム達はその言葉に黙して頷き、事前に決めた隊列で光源の下へ身を隠しながら進む。


 近接戦闘に特化したイディオを先頭に、魔法に特化したプリムと近接、魔法を両立させるヘルトが並ぶ。


 巨大な柱の陰に身を隠しながら進む彼ら。彼我の距離が近づくにつれ、段々とその姿も視界に捉えられるようになってくる。


 数は十人。ジニアに与えられた損傷は相当に大きいらしく、一か月経った今でも彼らの中には足や手に当て木をしたものが複数名いた。


 その様子を見てヘルトは得心する。


 見張りを立てていないのではなく、立てられなかったのだ、と満身創痍の彼らを見て、そう悟る。しかし相手は最強の闇ギルド『ヴァルキリー』。油断は禁物だ。


 円を形成して座る彼らの中心に焚かれたたき火。揺らめく紅蓮の光を受けて、その銀の髪を一層輝かせるラウレルは、ちょうどヘルト達の方を向いて座っていた。


 橙色の光に照らされた美しい相貌は、かつてヘルトと対峙した時とは打って変わって、疲労の色が濃く滲み出ている。


 物音を立てないよう細心の注意を払いながら、彼女らから一番近い柱までたどり着き、背後に隠れて一行は足を止める。


 さて、とヘルトは大きく息を吐いて、プリムに目で合図をする。


 それを受けてプリムはこくりと頷いて、自らの膨大な魔力を練り上げる。


 壁に背を着けて決戦に踏み込む前の覚悟を決める。


 勝利は間違いない。


 相手がヴァルキリーだろうと、イディオとプリムがいれば勝利は揺らぐことなどありはしない。


 問題なのは。


(まずは、ラウレルだ)


 口には出さず、狙いを首領へと定める。


 騎士団から与えられた任務はラウレル達の捕縛であったが、ヘルトにとってそれは勝利条件とは足りえない。


 ジニアの特異性がプリム達に知られないこと。その上でヴァルキリーを捕縛する。


 ヴァルキリーは頭領たるラウレルの図抜けた頭の切れで成り上がった一味だ。ものの数年で最強の闇ギルドを作り上げた彼女の頭脳を鑑みれば、状況把握をさせる間を与えることも危険だ。


 だからこそラウレルをまず無力化させる。


 プリム達を連れていくと決めた時点で定めた目標であり、当然彼女達へ伝えた作戦はそれを目標に練られている。


 しかし、そう上手くことが運ぶだろうか、と小さな不安がヘルトの心の片隅にあった。


 手負いとはいえ、あのヴァルキリーを、ラウレルを相手に完封勝利など可能なのだろうか、と。


 しかし。


(やるしかない、か)


 金色の双眸がヘルトの頭から離れない。


 まるで鎖のようにヘルトを絡めとるそれは、最早彼に選択の余地など与えてはくれない。


 全ては勇者になるために。


 そう心の中で言い訳をして。


(いざとなれば──)


 ほう、と息を吐いて、ヘルトはプリムの深紅の瞳を見つめながら頷いた。


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