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私たちのせい?

Xにて挿絵公開中。

よろしければそちらもご覧ください。

@aiueo4564654

「おい、いい加減機嫌を直せって。それに、嫌なら上で待ってて良いって言っただろ?」


「ふんっ!」


 騎士たちに教えられたラウレルの居場所へと向かう道中、ヘルトはぷいっとそっぽを向きながらも付いてくるプリムへと言った。


 もはやラウレルとの接触は避けられない。そして、一人で王都最強の闇ギルドたる彼女らを捕縛するのは不可能に近い。べリアスを単独で撃破したと言ってもそれはあくまでも一対一。多数との戦闘は想定外が多く含まれる。


 しぶしぶとヘルトは彼女らに協力を要請した。


 一行は騎士たちに教えられたラウレルの居場所へと向かうべく、王都の地下水路を行く。


 王都中に張り巡らされた水路には、時折天井に開いた排水溝を除いて光源はない。暗闇が支配するそこは、中央に水が流れ、水路の両側に通路が通されている。


 ヘルト達は魔法で作った光源を頼りに、水路を左手に見て進んでいた。


 下水道に入った時、すでに日は高く上っており、ラウレルを捕える頃にはすっかりと日は傾いているだろう。


 楽しみにしていたデートの場所が地下水路となり、その理由も散々なものと来れば、いくら相手がヘルトであろうと、プリムが怒るのも無理はない。


「そうだよプリム。せっかくなら楽しもうじゃないか! ほら見てみなよ! あそこ! 何かいるよ! なんだろうね!」


「……ちっ!」


 明らかに好む人間はいないであろう害虫へと視線を誘導させられて、一層プリムは拗ねた。


「おいやめろ馬鹿。これ以上怒らせるな」


「だ、だって戻ってきてからずっとプリムが怒ってるから。……一体何があったんだい?」


 ヘルトが禁固刑になると知るや否や、差し入れを買いに行ったイディオは事の顛末を知らない。ヘルトは事の成り行きを彼へと説明した。


「ふむふむ、なるほど。つまりは、むぐむぐ、団長のおやつを食べちゃった罰か。んぐんぐ、ダメだよヘルト。いくらお腹が減っていても食べちゃいけない時ってのはあるんだもぐもぐ」


「この状況でリンゴを食いながら言われてもな……」


 相変わらず能天気なイディオへため息を吐きながら、ヘルトは地下水路を見回した。


 魔法で照らさなければ足元も見えない程の闇。下水は流れ込んでいないとはいえ、雨水が溶かした汚れと共に流れ込む水路は多少生臭い。加えて、じめじめとした湿気は、気温が高くなったこの季節には厭わしいものがある。


 なるほど、とヘルトは頷いた。


 居場所を突き止めた上で、ラウレルの身柄を確保するなどという栄誉をヘルト達に譲る騎士団の狙いが分かった。


 つまりは、来るのが嫌だったのだ、と。


 だからこそラウレルが逃げ込んだのだろうが、しめしめと笑う騎士団長の顔を思い浮かべて、今度は鎧一式でも盗んでやろうと決意を固める。


「でも、なんだか懐かしいね」


 イディオの底抜けに明るい声が地下水路に木霊する。


「何がだ?」


「こうやって三人で出かけるのがさ。昔はよくこうやって一緒に魔物を討伐しに行ったりしただろ? ゴブリンやスケルビットから始まって、オーガやダークスパイダー、アビスハウンドまで! 忘れたのかい?」


 にこやかに発されるイディオの言葉に、ヘルトの脳裏に当時の情景が思い起こされる。


 忘れるわけがなかった。


 勇者になるために必死になって倒してきた魔物の数々と、そんな自分に付いて来てくれた彼らのことを忘れられるはずがない。


 ヘルトは口元に静かな笑みを湛えながら返す。


「アビスハウンドってお前が尻を齧られた奴か?」


「な! そ、それを言うならヘルトだって、え、えーとあれ! あれに尻を齧られてたじゃないか。えーと、えーと」


「……バジリスクよ」


「そう、それだよそれ! バジリスク! ありがとうプリム!」


 二人の間を歩くプリムから発された回答に、イディオはぱっと顔を輝かせる。


「おいプリム。こいつに味方するんじゃない。そもそもお前だってカタストロフィワームに尻を齧られてただろうが」


「それってあのとんでもなくでっかいやつでしょ!? そんなにお尻おっきくないわ!」


「そうだったか? じゃあアシッドワーム?」


「プリムがお尻を齧られたのはミノタウロスだよ」


「そもそも齧られたこともないわよ!」


 そうだっけ、と二人して頭を捻る男たちにプリムは青い息を吐く。


「ねえ、ヘルト? 私怒ってるんだけど? よくもまあ、そんな女の子に尻がなんだって話が出来るわね?」


 ジトっとして見上げてくる赤い瞳は、言葉以上にその怒りをヘルトへと伝える。しかし、ヘルトはその瞳の奥にある理由が分からずに、疑問符を浮かべた。


「何をそんなに怒ってるんだ。確かに騎士団長のおやつを食べたから、なんて理由で休みの日に働かされるのが嫌なのは分かるが、そんなの今更だろう? これまでイディオのせいでどれだけ阿呆な理由で駆り出されたか忘れたか?」


 ヘルトの言葉にプリムの頭を巡るのは過去の忌々しい出来事。


 筆記テストでは常に零点を取り、掃除をさせれば校舎を壊す。犬を探しに行ったと思えば地獄の魔犬を王都に召喚するような、本格的トラブルメーカーであるイディオに比べれば此度のヘルトの行為など可愛いものだ。


 そう言われてしまえば、これまでイディオの尻ぬぐいに幾度も共に付き合わされた身としては返す言葉がない。しかし、どうしても言わずにはいられない、と言葉がプリムの口を突いて出る。


「そ、それはイディオだから仕方がないじゃない! でも、ヘルトは、そんなこと決してしなかった。いつも誠実で、いつも正しくて、いつも優しくて……」


 尻すぼみになっていく彼女の言葉は遂に途切れる。


 彼女の中にあるのは、二年前のヘルトの姿。勇者になるために一切合切を切り捨てた男の姿。


 強くて、優しくて、格好良い。


 それがプリムの中で生きるヘルトだ。そんな男が人様のおやつをつまみ食いした挙句に、騎士団をクビになり、冒険者になった。それに街の中での彼の噂はそれはそれは酷いものだ。


 冒険者仲間の家に放火し、詐欺を働き、趣味は誘拐。


 優秀な彼に対するただの僻みだと思っていたそれが、ここにきて彼女の中で急に真実味を帯びてくる。

 心中でプリムは思う。


 別にヘルトに怒りたいわけではなのだ、と。 


 だからこそ、この胸の深くにある怒りが誰に向けられたものなのか、プリムには痛い程に分かっていた。


「ねえ、ヘルト。ヘルトが変わってしまったのは──」


 ──私たちのせい?


 そう聞けない自分に腹が立つ。


 ちらり、と右見上げれば、自らと同じような表情を浮かべたイディオがいて、それが一層彼女の傷を刺激する。


 聞かなければならないと分かっている。今更何を、と言われるかもしれないけれど、確かめなければならないことだった。


 だが、もし彼が首を縦に振ったら、そうだと憎悪を込めて言われたら、そんな想像が脳裏によぎり、きゅうとプリムの心を締め付けた。


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