三千世界の犠牲
Xにて挿絵公開中。
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@aiueo4564654
それは七回目の世界で起こった。
「……むう」
「ふふん、そう毎回後ろから切り殺されてるわけないでしょ?」
予定調和のように魔王討伐直後、彼女は背後から迫る剣を防ぐことに成功する。
鍔迫り合いの向こう、全身をローブで覆い隠す彼とも彼女とも分からない人物が、テュシアの眼には悔しそうに見えたのも束の間。
「ぐぎっ」
一瞬の後に体を反転させたローブの人物に切り殺された。
それは二十三回目の世界で起こった。
「……ふむ」
「こんだけ同じようにやられれば、いくら何でも対応出来るわよ」
テュシアは遂に二刀目を防ぐことに成功する。
そうして二人の壮絶な切り合いが始まった。
「あなたっ名前は? ぐぎっ!」
二十四回目。
「あなた男? それとも女? ぐぎっ」
二十五回目。
「ねえ、質問答えてもらってないんだけど?」
「……」
「ぐぎっ!」
三十二回目。
「ねえ──、あなた普段はなにしてるの?」
「……睡眠」
「そうなの? もう少し時間は有意義に使った方が良いんじゃない?」
「例えば?」
「そうねえ、ぐぎっ!」
四十五回目。
「いいなあ、ホリィ。あ、ホリィってのはあなたが気絶させた子ね? あの子ったら育った村に幼馴染の男の子がいて、帰ったら結婚するんだって」
「そうですか」
「そうなのよ。それでねその人のどこを好きになったの? って聞いたらね、昔魔物から助けて貰ったんだって! いいなあ! いいなあ! 私も素敵な男の子に助けて貰いたいなあ!」
「あなたが危機に陥る状況を覆せるのなんて、それこそ魔王くらいでしょう。魔王と結婚するつもりなんですか?」
「そういうわけじゃぐぎっ!」
幾度となく救ってきた世界の中で、急速に実力をつけるテュシアはローブの人物と徐々に会話をする時間が増えていく。
世界を救った数と同じだけ行った死闘。交わした剣と言葉が増えていく。
転生の度、喪失を繰り返すテュシアにとって唯一自分を知っている人物。自分を知っていて、同じように接してくれるたった一人の存在。
いつしか、テュシアにとってただ一人の友となっていた。
五十二回目の世界では、ローブの人物が女性であることを知った。
二百十三回目の世界では、ローブの人物が自ら質問をしてきた。
四百二十一回目の世界では、初めて冗談を口にしてくれた。
そして、五百二十八回目、彼女は泣きながら言った。
「もう……、もういや。どうして? どうして私は、みんなとお別れしなきゃいけないの?」
「あなたが勇者だからです」
「私だって……私だって平和な世界で生きていたい。戦いたくない……!」
「あなたは勇者です」
「私は……みんなと離れたくない!」
「それがあなたの負った義務です」
天地を揺るがすほどの凄絶の切り合いの果て、そういってローブの少女はテュシアを切り裂く。
五百二十九回目。
「……」
「今日は抵抗しないんですか?」
「……ええ」
「そうですか」
五百三十回目。
「……」
「…………………………」
五百三十一回目。
「……」
「………………」
五百三十二回目。
「……」
「……っ!」
ローブの少女の悲し気な一息を最後に、彼女らの交わした言葉はゼロとなり、ローブの少女はテュシアの前に姿を現すことは二度となかった。
懐かしい夢を見た気がした。
朝日が差し込むベッドの中で微睡の中にいるテュシアは、心の奥底に暖かな感覚を覚える。
遠い遠い昔の記憶。
数多の世界を救う果てしない旅路の中で、頭の片隅に押し込められた思い出。
もはやその人物の名前も性別すらも思い出すことは出来ない。
けれど、テュシアの中に確かな熱をもって存在している。
でも、どうしてそれを今思い出す?
これまで一度たりともなかった懐古の原因。徐々に覚醒していく頭でテュシアは考える。
そうして、すぐに思い当たった。
心奥の熱がどっと、勢いをもって噴き出した。
熱は別離によって凍った彼女の心を溶かしかけ、余波がその白い頬をほんのりと朱に染める。
だめだ。
だめだ。
だめだ。
胸中で何度も、何度も反芻する。
必死に言い聞かせる冷静な自分とは裏腹に、脳裏には鮮明に昨日の光景が浮かび上がっていく。
窮地を救ってくれた少年の姿を。
魔王軍四天王と激闘を繰り広げる少年の姿を。
地面に倒れ伏した少年の痛ましい姿を。
どくり、と心臓が跳ねる音。
彼女はその名を呟いた。
「……ヘルト」
優しく甘いその響きは、しっとりと彼女の耳を濡らして、静かに消えていった。




