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ベリアス

Xにて挿絵公開中。

よろしければそちらもご覧ください。

@aiueo4564654

 それから二人は他愛もない会話をしながら、洞窟を進んで行った。


「なあ、魔王討伐の時の話をしてくれよ」


「嫌よ面倒臭い」


「ぐっ……、きゅ、休日は何をしているんだ」


「寝てる」


「こ、恋人とかはいるのか?」


「いると思う?」


「いないと思う」


「ぶっ殺すわよ」


「首を絞めるな首を」


 他愛もなければ愛もない会話をしながら、二人は進む。


「魔王討伐の時、あいつらはちゃんとしてたか?」


「ちゃんとしてたわよ」


「そうか、ならよかっ」


「一時間歩いただけで足が痛いと喚くバカ女と、日夜問わず大声を挙げながら筋トレをするバカ男。ちゃんと邪魔だったわ」


「なんか……すまん」


 一歩一歩進む度に増えていく二人の歩んだ距離と、交わした言葉。


「ギルドの食堂でスシって食べたか?」


「す、し?」 


「何だ知らないのか? この街の名物だぞ? なんでも昔、外国から来た奴が街の人間に教えたらしい。酢飯に魚の切り身を乗せた料理なんだが」


「詳しく」


「食いつきが良いな。炊いた米に酢を大量に投入して、鼻の曲がる匂いに我慢しながら、どこからどう見ても切るのに失敗したような生魚の切り身を乗せるんだ。正直なんで名物なのか分からん程めちゃくちゃ不味い」


「うっさい」


「なんで怒るの?!」


 極限の状態で互いに意地を張るほどの元気はなく、素に近い状態で相手に本音をぶちまける。


「ねえ、さっきのこと……」


「さっき?」


「わ、私の胸のこと……」


「ああ、気にすんな。あの時はお前に釣られて思ってもないことをって、なんで殴る?!」


 魔法に照らされた薄暗い空間にはヘルトとテュシア、ただ二人だけ。交わされる言葉は睦言のように甘く響いていた。


 そんな中、遂にヘルトは通路の奥に光を見つけた。


 魔法でも、人工的な火でもない。茜色の夕日が通路を照らしている。


「たすか──」


「止まりなさい!」


 しかしヘルトがほっとしたのも束の間、背負われたテュシアから鋭い声が飛ぶ。


 まるでヘルトだけに聞こえるようにと耳元で囁かれたそれは、声量からは想像が出来ぬほどの緊迫感を与え、その歩を強制的に止めさせた。


「何だよ?」


 いきなりどうした、と怪訝に思いながら聞くヘルト。


「その先、そう、光が漏れてる先よ。そこに、何かいる」


「何かってなんだよ」


「分からない。でも、たぶん味方じゃない」


「どうして分かる」


「息遣いが荒いもの。人間のそれじゃない。あなた、聞こえないの?」


 そう言われて、耳を澄ませてみるものの、聞こえるのはテュシアの湿っぽい吐息のみ。なんだか妙な気分になってしまいそうになり、ヘルトはぶんぶんと首を勢い良く振った。


「いや、全然。どうする? 迂回するか?」


「……いえ、少し様子を見てみましょう。もしかすると、あなた一人でも倒せるモンスターかもしれないし。それに、早くここから脱出しないと、あなたに何をされるか分かったものじゃない」


「……なにもしねえよ」


「そう? あなたの手、さっきから少しずつ手汗で湿っていってるけど?」


「お前が重くて、疲れてきたんだよ。ほら、行くぞ」


 なおも続きそうなテュシアの言及を避けるように、ヘルトは光が漏れる通路の奥へと歩を進める。

足音を立てないように、ゆっくりと進んでいき、遂には曲がり角へと到達する。そして、身を潜めるように岸壁へとぴたりと体をつけて、その先を覗き込むと。


「【グラウンドスパイク】」


「うおっ!?」


「きゃっ!」


 突如として直下より突き出した岩の槍。咄嗟のことにヘルトは背負うテュシアを気遣う余裕などなく、横へ飛んで回避する。動きに伴って発生した急激な慣性力がテュシアから細い悲鳴を挙げさせた。

「テュシうおっ!」


「違う! 右! 次は左!」


 彼女の名前を呼び安否を確認しようとするヘルト。しかし、敵の攻撃の手は止まない。大きな音を立てながら地から生え出る槍がヘルトを襲う。それらを戦闘モードに突入したテュシアの指示に従って回避していく。


「右左右右右左前前前左前!」


 十、二十と回避をしていく度、元来た道から追い立てるように続く攻撃に、ヘルト達は仕方なく、奥へ、奥へと追い立てられていき、遂には敵の眼前へと炙り出される。


 そこはヘルトが剣を見た広間のような空間だった。上部からは晴天が覗き、色とりどりの鉱石が光を反射する広大な空間。


 その中央部にそれはいた。


「ほう? 誰かと思えば、これはまた面白い人間のずいぶんと面白い時に出会えたものだ」


 しっとりと耳を濡らしていくハスキーボイス。残響が敵の立つ広間を甘い余韻で包んでいく。蠱惑的なその声色はまさしく悪魔の囁きのように人々へ忌避感をもたらし、されど抗いきれぬ魅力をもって人を魅了する。


 そんな誘いから逃れるように頭を振ってから、ヘルトはしかとその敵を見た。


 ヘルトよりも頭一つ分背の高い体。すらりと伸びた槍をその腕に持つ。まるでエメラルドのように輝くその双眸はどこまでも澄んでいて、高い鼻は神話の世界を彷彿とさせた。


 ごくり、とテュシアが生唾を呑む音が聞こえた。


 腕、足、腹は丸太の用に太く、茶色い毛で覆われている。耳元まで避けた口には四本の長く鋭い犬歯が顔を覗かせ、大きな鼻の穴と合わせてみればまるで豚のよう──。


 イケボのオークが現れた。


「おい、なんだあの無駄に声だけ良いオークは。もしかして知り合いか?」


 オークと言えば成りたての冒険者の脅威となる存在だが、ヘルトにとっては造作もなく倒せる相手だ。その威圧感ある声とのあまりのギャップに、ヘルトは緊張感なく背中のテュシアに尋ねる。


 しかし、テュシアはギリ、と彼の肩を掴む手に力を込めてから言った。


「べリアスよ」


「は?」


「魔王軍四天王べリアス。今日の私たちの討伐目的よ。そして──」


 テュシアは一呼吸してから、言った。


「──今、一番会いたくなかった相手だわ」


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