すっげー
Xにて挿絵公開中。
よろしければそちらもご覧ください。
@aiueo4564654
「すっげー……」
穏やかな春の昼下がりの平野。そんな長閑な景気に突如として現れた戦場を見ながら、ジニアは呟いた。
眼前に広がるのは、緑の平野に林立するプリムが生み出した天まで届きそうな竜巻の群れと、その間を器用に駆け抜けて剣を振るっていくイディオの姿。
突如として振るわれる圧倒的な暴力に、王都付近に生息するか弱い魔物たちは一様に甲高い悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「エビで鯛を釣る、なんて言葉がありますが、最早これはエビで鯛どころかクジラを釣り上げるようなものですね」
ランドリックの手腕を素直に褒めたたえるジニアに、ヘルトは釈然としないまま頷いた。
ヘルトとプリム達の関係性を見抜き、冒険者としてスカウトした挙句に今回の依頼に加える。その一連の彼の仕事ぶりはもはや言葉を失う他ない。
そんな僅かな会話の間に敵を殲滅した彼女らは、ヘルト達の元へと駆けてくる。
「どうヘルト? 私すっごく強くなったでしょ」
「ああ、そうだな」
「僕も強くなったよ!」
「そうだな」
太陽にも負けずにきらりと笑う彼女らは、まるで両親から褒められたがっている子供のようで、その人外じみた実力との落差に若干引きながらヘルトは言葉を返す。
「あの魔法はね、私のオリジナルなの! ヘルトがどうしてもって言うなら教えてあげなくもないけど……どう?」
魔法の習得には相応の時間がかかるし、オリジナル魔法ともなれば教えられるのは彼女だけ。二人きりの濃密で甘い時間を想像し、また、二年の間に開いた身長差もドキドキを加速させながら、上目遣いでプリムは言った。
「いや、いいわ」
「じゃあ、いつに……へ?」
断られることなど露程も思わず、放心するプリム。
「実は僕も新技を完成させてね、イディオスラッシュっていうんだけど、習得してみる気は」
「ねえよそんな頭の悪そうな技」
「そんな!」
こちらもプリムと同様の表情をしてのけるイディオ。
愕然とした表情で顔を見合わせている二人にヘルトは。
「それよりもお前ら、本当に良いのか? 冒険者なんかになって。それに、騎士団はどうしてきたんだよ」
ランドリックの元へと現れた彼女らは、その場で速やかに冒険者として登録手続きを行い、今回の依頼に参加を表明した。正常な思考であればありえない行動を咎めるようにヘルトは言う。
「良いのよ別に。ヘルトがいない騎士団なんている意味ないし。あのおっさんから使いの者が来た時すぐに退職届を団長の顔面に叩きつけてやったわ」
「そうだね。叙任式が終わって五分後くらいかな?」
あははと笑う彼女達を前に、ヘルトは団長へ同情の念を抱く。
「そんなことよりもー、その子、どうしてここにいるの?」
一転鋭い瞳で睨みつけるプリム。その視線の先には美味しそうにリンゴを食べるジニアの姿があった。
しかし、そう問われることはすでに想定済み。二人の性格を織り込んだ上で、あらかじめ用意していた回答をヘルトはつらつらと述べていく。
「冒険者になりたくて、見学をしたいんだとよ。俺も連れてくるかは迷ったが、お前らが来てくれると分かったからな。それなら安全だろうと思って連れてきたんだよ」
「そ、そう、なら納得ね。うん!」
「任せてくれ! 僕たちがいればその子に傷一つ追わせないことを約束しよう!」
ヘルトの頼りになっている、その言葉に破顔する二人。まんまと術中に嵌った単純すぎる二人にヘルトは内心ほくそ笑む。
「話は終わりましたか? 終わったのなら早く進みましょう。追いつけなくなりますよ」
そんな彼らに、ジニアは東を指さして言った。
「追いつけなくなる? どういうことだ?」
「テュシアさんに、です。あの人、プリムさん達が戦っている間に無視して先に行っちゃいましたよ?」
「はあ?」
あまりに自由な行動に、ヘルトの口から間の抜けた声が漏れ出る。が、二年間共に旅をしてきたプリム達は特に驚くこともなく、諦めたかのような口ぶりで言う。
「はあ……あの子ったら本っ当に集団行動が出来ないわね!」
「魔王討伐の時も?」
「そうよ。あの子人との付き合いが下手っていうか、人のことなんて眼中にないっていうか。とにかく、自分勝手なのよ。魔物の軍勢に襲われた街は素通りするし、護衛を頼んできた商隊は無視するし」
「ちょうど目の前の人を襲っていたドラゴンを無視したこともあったね」
苦々しい思い出を語るように、彼女らは言う。
テュシアが人間不信であるというジニアの言の説得力がヘルトの中で増していく。
テュシアを追って東へと進む中でも、プリムらの彼女に対する文句はとめどなく溢れていく。
曰く、口癖はうるさい、だとか。
曰く、常に不機嫌な顔で笑顔を浮かべたことがない、だとか。
曰く、話しかけても八割は無視される、だとか。
仲間として二年間共に過ごした彼女らはいかにテュシアとのコミュニケーションが難しいかを雄弁に語り、その度にヘルトは今後のことを考えてどんよりとした気分になっていた。




