少女の願い
Xにて挿絵公開中。
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@aiueo4564654
「はあっはあっはあっ!」
少女は立っていた。魔族領の最奥に聳え立つ魔王城の中、残虐のかぎりを尽くした魔王の亡骸の前で、少女は立っていた。
激しい戦いの中で、最早傷が無い部分を探す方が困難なほどに満身創痍でありながら、少女は成し遂げたのだ。
「……やった、やったわみんな」
泣き笑いを浮かべながらそう言って、彼女は辺りを見回す。遠くで誰かの声がして、一目散に駆け出した。激闘の後で全身が上げる悲鳴を無視して、か細い声の元へと進んでいく。
「ルリィ、ヘレン!」
そして、半壊した魔王の間、瓦礫のすぐそばで倒れ伏す仲間達を見つけた。
「魔王を倒したのよ私達! これで……やっとこれで世界が平和になる!」
「……う……ん、そうだ……ね」
「……やった、な」
ルリィ、ヘレンは少女の言葉に辛うじてそう返すと、仰向けのままピクリと動かなくなった。一瞬どきり、と少女の心臓が跳ねるが、浅く呼吸をする彼らを見て胸を撫で下ろした。
「帰りましょう、二人とも」
そう言って少女は二人に肩を貸して歩き出す。これまでの旅路を思い返すかのように、一歩一歩を踏み締めて。
「ルリィは本当に小っちゃいわね。軽くてびっくりしたわ。足先、引きずっちゃてるけど我慢してね。ここに残されちゃうよりいいでしょ? そしてヘレンは重たいわね。足先どころか脛まで地面に擦っちゃってる……まあ、いっか」
意識を失い返事のない二人に彼女は語りかける。
大海をボートで渡ったこと、灼熱の火山を文句を言い合いながら乗り越えたこと、村を襲うドラゴンを退治したこと等々、尽きぬ話題が彼女の口から発され続ける。
出会ってから二年、言葉にしてしまえば短い期間だが、少女にとって彼らはこの世界で一番の昔馴染みであり、かけがえのない仲間であった。
「本当に大変だったわね」
ふっと少女の口元に笑みが浮かんだ。
数々の死闘を繰り広げ、数多の死戦を潜り抜け、そして今日、魔王を打倒した。彼女こそが勇者である、最早その言葉に誰もが首を縦に振る。
物語であればここで大団円。軽いエピローグが流れてハッピーエンド。しかし、彼女にとっては物語などではなく、これまで、だけが重要なわけではない。
けれど、と少女は続けた。
「これからはきっと楽しくなるわ。だって平和になったんだもの。魔族に怯える必要のない、人間のための世界になったんだもの」
少女の笑みが広がった。
これからどうしようか。
ルリィは魔王討伐の旅に出る前は教会のシスターだった。整った容姿と穏やかな性格で王都の人気者だ。
「ルリィは教会に戻るのかしら? なら、毎日会いに行くわね! だって私ルリィが大好きなんだもの。あ! 私もシスターになるってのはどうかしら? 一緒に仕事して、人を助けて……って絶対に嫌がるわね」
ガサツな自分では務まらないだろう、そう気付いて少女は苦笑した。
ヘレンは元は王国騎士だ。屈強な体格と優れた剣技で勇者の仲間に抜擢された。
「ヘレンは騎士よね。というか、それ以外は務まらなさそう。不器用だもん! でも、私は結構そういうとこ好きよ。あ、恋愛的な意味じゃないから」
バッサリと切り捨ててから少女はクスクスと笑う。
幸せだった。
これまでのように四六時中一緒、とまではいかないだろうが、彼らとの関係は続いていく。これまでの大変な世の中ではなく、平和な世界で。誰もが笑顔で、楽しげな世界で変わらない日常を過ごしていくのだ、と。
時には食事を共にし、時には歌を唄って、運動がてら魔物を討伐して。
そんな毎日の果てに、いずれは皆恋をして、子供が出来て、その子らが仲良くなって。
そんな目も眩むような光景を思い描いて、自然と笑みが漏れてしまう。
ああ、それはきっと──。
「時間です。勇者」
「え?」
──きっと、すっごく楽しいんだろうなあ。
そんな少女の想いは。
「次の世界でも頑張ってください」
冷酷な声と共に闇へと堕ちていった。