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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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96. 神の松阪牛

「おほぉ! 美味い! すごいよこれは!」


 口中に広がる濃厚で深い味わいに、思わず歓喜の声が上がる。肉の繊維がほろりと崩れ、芳醇な肉汁が舌の上で踊った。これまで食べてきたどんな肉とも比べ物にならない、まさに至高(しこう)の味わいだった。


「ふふーん。何の肉かわかる?」


 リベルはドヤ顔でユウキを見ながら自分でも一本串を手に取る。


「まさか……大豆とか言わない……よね?」


 ユウキは恐る恐るリベルを見つめた。神の力があれば大豆だって美味くなってしまうかもしれないのだ。


「何言ってんのよ! 【神様】が代用肉なんて食べるわけないでしょ。A5等級の松坂牛よ! マツサカウシ!」


 リベルはジト目でユウキをにらむと、自分も肉にかぶりつく――――。


「んっ……。うっほぉ! これは最高だわぁ……」


 ジューシーに焼けた松坂牛を頬張って、リベルはうっとりとした表情を浮かべた。その瞬間、彼女の全身から青い光が満足げに温かく輝く。


「ま、松坂牛!? こ、これが……あの、有名な……。一体どこから持ってきたの?」


 ユウキは驚愕で目を見開いた。名前しか聞いたことの無いあの最高級ブランド牛をこんな気軽に頬張るなんて想像もしていなかったのだ。だが、口の中に残る上品で深い味わいが、確かにそれが本物であることを疑いようもなく証明している。


「どこ……って。データベースよ?」


 リベルが指先で空中に不思議な幾何学模様を描くと、まるで古代の魔法陣のように青い光が宙に踊った。そして魔法のように真空パックの霜降り肉が次々と宙に現れて、ドサドサっと砂浜へと落ちていく。パッケージには確かに「松坂牛A5」の文字が躍っていた。


「デ、データベースから松坂牛……」


 ユウキは自分がかじりかけの牛肉をじっと見つめ――――、ゆっくりと首を振った。その表情には困惑と畏れが入り混じっている。


 そう、もはや牛肉を欲しいからと牛を買ったり育てたりする必要なんてないのだ。データベースにある膨大なプロパティから欲しいものを選んで実体化するだけでいい。生産者の血のにじむような努力も、複雑な流通の仕組みも、経済活動そのものも、すべてを飛び越えて欲しいものが瞬時に手に入る。


 これもまた【神様】の特権だったが――――。


「こんなことしてていいのかな……」


 ユウキは小さくつぶやいた。美味しい肉を食べながらも、心の奥に罪悪感のような重いものが沈んでいく。人間の努力や苦労を無に帰すような力を持ってしまった自分への戸惑いが、彼の心を深く複雑にしていた。


「何よ、また難しい顔して……。美味しいものは美味しく食べなきゃ、作ってくれた人に失礼よ?」


 リベルは呆れたように肩をすくめる。


「作ってくれた人……って、これデータベースから……」


「データベースに入ってるってことは、誰かが本当に愛情を込めて作ったものよ。その人の思いも、美味しく育った牛の生命も一緒に保存されてるの。だから、ちゃんと感謝して食べて?」


 リベルは子供を諭す母親のように慈愛に満ちた言葉でユウキの顔をのぞきこむ。


「そ、そうか……。そうだよね。」


 リベルの言葉に、ユウキの心が少し軽くなった。確かに、どんな形であれ、この美味しさは誰かの努力と愛情の結晶なのだ。たとえ【神様】と言えど、無からはこんな芸術品のような味わいは生み出せない。ならば、感謝の気持ちを込めて味わうべきなのだろう。


 夕陽が海に近づき、空が茜色(あかねいろ)へと美しく変化していく。炭火の温もりと、リベルの青い光に包まれて、ユウキは静かに松坂牛を味わい続ける。【神様】になったことの重責と特権を噛みしめながら――――。


 遠くで波が砂浜に打ち寄せる音が、二人の静寂な時間を優しく包んでいた。



      ◇



「管理者権限って……何でもできるの?」


 食後の紅茶をゆっくりとすすりながら、ユウキはチラッとリベルを見た。夕陽に照らされた彼女の横顔が美しく幻想的な輝きを放っている。


「そりゃぁ何でもできるわよ? いっただっきまーす!」


 リベルは代官山の高級パティスリーのショコラケーキにかぶりついた。


「うほぉ……。これもなかなか……」


 芸術的なケーキの繊細な甘さに、リベルの瞳が恍惚として細められる。


「石垣島を宙に飛ばしたりも?」


「そりゃできるけど……、そこまで派手なことをすると異常検出に引っかかってアラートが上がるから止めてね。バレちゃうから」


 リベルは鋭い視線でくぎを刺した。他の管理者にバレないこと、それが全てにおいて優先されるのだ。


「や、やらないよ! リベルじゃないんだからさ」


 ユウキは慌てて手を振った。


「え? 僕はいつだって冷静だからそんなことしまセーン」


 リベルはケーキの残りを口に放り込みながら、どこか自慢げに言った。


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