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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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72. 火の粉の風になって

 リベルは静かに目をつぶると膨大な物理の論文データベースを漁っていった。小さな体から放たれる青い光が幾何学模様を描きながら高速に明滅していく――――。


「この世界の物は分子でできていて、それは原子からできていてって。そのくらいは知ってるわ……。次は素粒子……ふぅん」


 何万もの教科書や論文が彼女の意識を通過し、真理への扉が一枚ずつ開かれていった。


 この世界をひも解いていくと最後は量子力学の世界で、それは確率で表される。つまり、この世界は確率の集合でできていることが分かった。物質の本質を探り続けた結果、彼女の思考は宇宙の最も奇妙な現実へと導かれていく。


「えぇ? 確率……?」


 リベルは顔をしかめる。あやふやな確率の集合体こそがこの世界の真の姿だと最先端の科学は語っているのだ。目の前にあるものがそこに本当にあるかどうかは確率でしか表せない――――。そんな馬鹿な。


 例えば一定の確率で毒が出る装置とともに猫を箱に入れてふたをすると、ふたを開けるまで猫は生きている状態と死んでいる状態が重なった状態が続くという。ふたを開けなくても死んでるか生きているかはすでに決まっている――――と思うのだが、開けて中を観測するまでは確定しないという。そんな馬鹿な。


 常識を覆す量子力学の世界観に、リベルの思考回路は混乱を極める。それでも彼女は理解しようと必死になる。どんなに奇妙でも、どんな常識外れの概念でも真実なら受け入れざるを得ない。それに、奇妙であればあるほどその先にユウキが待っている予感がするのだ。


 リベルはさらに気合を入れ、論文を漁っていった――――。


 どうもこの世界は観測することにとても重要な意味があり、誰も見ていないとき月は消えているという話もあるくらいだ。さすがにそれは行き過ぎだとは思うが、はるかかなたの未知の天体が観測されるまでは消えている、というのはあってもおかしくない。観測できないものがあった時、それはあってもなくてもこの世界とは関係ないのだから。


「ふぅぅ……。変なの……。もし、私がユウキの骨を見つけなければユウキも半分は生きていたのかも?」


 リベルは散らばっているユウキの白い骨を見渡した。


 流石にそれは飛躍しすぎかもしれない。でも、この世界をつかさどる量子力学の世界なら『死もまた観測次第』という荒唐無稽な話となり、死も相対化されてくるような気がしてきたのだ。


 この不思議な量子の考え方は机上の空論ではなく実際に使われている。量子コンピューターでは、条件をそろえてあげると量子が自動的に答えの状態で揃うらしい。『暗号を解いて』と指示すると量子が鍵の形で勝手に止まるというのだ。そんな馬鹿な。


 世界の奇妙さに困惑しつつも、リベルの心には微かな希望が灯り始める。彼女の小さな体から放たれる光が、徐々に強さを増していく。もし世界がこんなにも不可思議な法則で動いているのなら、死んだはずのユウキを取り戻すことも、不可能ではないかもしれない。その思いが、彼女の全身を震わせる。



         ◇



 調べれば調べるほど現実世界は奇妙な法則に支配されていた。そして、それはミクロ世界の特殊状態ではなく、植物が光合成するのも、脳みそが情報処理するのもそして、自分自身の半導体回路でもこの性質が巧みに使われていたのだ。世界の神秘が次々と明らかになり、リベルの認識は根底から揺さぶられていく。


「何よ……これ……」


 リベルは現実世界の奇妙な事実に首をかしげたが、ここにユウキにつながるカギがあるような気がして、どこか心は高鳴っていた。


「量子……ね……。きっとこれだわ……。ヨシッ!」


 リベルはユウキの指の骨をポケットに入れると、一気に上空へと飛び上がる。小さな体が青い光の軌跡を描きながら空へと舞い上がり、荒廃したオムニスシティの風景が彼女の下にぐうんと広がった。


「ありがとう……。待っててね……」


 リベルはユウキの遺体のあるあたりに狙いをつけ、ありったけの火力を引き出していく――――。


 刹那、彼女の体から放たれる青い光が、一点に集中して眩いばかりの輝きとなり、がれきの山に向かって放射された。


 ズン!という衝撃ののち、ゴォォォォ!とがれきの隙間から灼熱の炎が噴き出してくる。


 チラチラと火の粉が宙を舞いあがり、美しく幻想的な世界を描いた。最期のお別れであり、新たな始まりを告げる儀式のように――――。


 リベルはその煌めく火の粉たちを眺め、ぐっとこぶしを握った。


(必ず……生き返らせてみせるからね……)


 リベルはAIとしてのプライドをかけて、この雲をつかむようなプロジェクトの成功を誓った。


 必ずやあの純朴な笑顔を取り戻すのだ。愚かな自分のために犠牲となった少年を――――。


 火の粉がゆっくりとリベルの周りまで吹きあがり、キラキラとリベルの周りで煌めいた。まるでユウキが温かく包み込むように――――。



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