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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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42. 爆裂シュート

 リベルは、去っていく葛城の背中を見送りながら、わずかに唇を噛む。悔しさが、一瞬だけ表情に浮かんだ。ドローンを放っておいたら計画は失敗していただろう。痛恨の油断である。


 だが、すぐにいつもの笑顔を取り戻す。くるりとユウキの方を振り返ると、明るい声で呼びかけた。


「さて、私たちも行きましょ?」


「う、うん……ちょっと待って……」


 ユウキは慌てて防毒マスクを装着する。ゴムの匂いと、狭い視界。呼吸が苦しく、すぐにレンズが曇り始めた。


「何だか不格好ねぇ。ふふっ」


 リベルは、ゴツいマスクに覆われたユウキを見て、楽しそうに笑う。


「笑わないでよぉ……」


「ゴメンゴメン。ほら、急いで!」


 リベルはユウキの手を取ると、ふわりと宙に浮く。


「うわぁ! ちょ、ちょっと!!」


 引っ張られるままに、ユウキは駆け出す。薄暗い通路を、二人は空調管理施設へと急いだ。



        ◇



 空調管理施設。巨大な機械たちが、低い唸り声を上げながら稼働している。


 床には、リベルが破壊した警備ロボットの残骸が散乱していた。焦げた回路の匂いが、まだ生々しく残っている。


「あと三分二十五秒……ね」


 リベルは時計も見ずに、正確な時間を告げる。そして、巨大な送風ダクトの接合部に手をかけた。


 ベキベキ……。


 金属が悲鳴を上げる。厚い鋼板が、まるで紙のように引き剥がされていく。人間なら重機を使っても困難な作業を、彼女は軽々と成し遂げていた。


 開かれたダクトの奥から、ゴウンゴウンと巨大なファンの重低音が響いてくる。ここはビル全体の空気を循環させる、ビル環境の心臓部なのだ。


 ユウキは背嚢(はいのう)から催涙ガスの燻蒸材を取り出し、その小さな円筒形の容器を慎重に並べていく。この控えめな兵器が、巨大な要塞から司佐を(いぶ)りだす鍵となる。


「上手く捕まえられるといいね……」


 不安げなユウキの呟きに、リベルが反応する。


「こんな催涙ガスじゃなくて、毒ガスでいいのに……」


 頬を膨らませながら、不満そうに言い放つ。その言葉には、AI特有の合理性が滲んでいた。効率を最優先する思考回路には、人間の倫理観は邪魔でしかない。


「いやいや、殺しちゃダメだって」


 ユウキは慌てて否定する。


「奴もバカじゃない。追い詰められたら、何をしでかすか分からないんだから」


 死に瀕した人間の恐ろしさをユウキは本能的に理解していた。自爆装置のスイッチを押されでもしたら、全てが水泡に帰す。オムニスの制御権は、司佐自身の手で譲渡してもらう必要があった。


「ユウキは慎重すぎるんだって」


 リベルはつまらなそうに、くるりと宙を回る。青い髪が、ふわりと広がった。


「リベルが過激すぎるんだって」


 ユウキは真剣な表情で諭す。


「人間は殺しちゃダメ! 死んだら取り返しつかないんだから」


「死んだら終わり?」


 リベルは首を傾げる。純粋な疑問を込めた瞳で、ユウキを見つめた。


「バックアップは無いんだっけ?」


 その無邪気な質問に、ユウキは言葉を失う。AIにとって、死とは単なるデータの消失に過ぎない。バックアップさえあれば、何度でも蘇ることができる。


 だが、人間は違う。一度失われた命は、二度と戻らない。


「リベルと違うの! 人間にバックアップなんて無いんだから」


 ユウキの声が感情的に震える。時折垣間見えるリベルの非人間的な思考に、底知れぬ不安を感じずにはいられなかった。


 命の重さを、彼女は本当に理解しているのだろうか――――?


「ハイハイ……」


 リベルは肩をすくめると、急に表情を変える。


「あ、時間よ! 投入、投入!」


「りょ、了解!」


 ユウキは慌てて燻蒸材の引き紐を引く。ボシューッという激しい音と共に、白い煙が勢いよく噴き出した。


「うわぁぁぁ!」


 予想以上の勢いに驚いて、思わず手が滑る。燻蒸材が床を転がり、煙を吐きながらクルクルと回転していく。まるで暴れ馬のような動きに、ユウキは慌てふためいた。


「はははっ、しっかりしてよ」


 リベルの笑い声が、機械室に響き渡る。


「もうっ! リベルも手伝って!」


 爆煙を吹き、床を転がる燻蒸材を追いかけながらユウキは抗議の声を上げる。マスク越しの声は、くぐもって情けなく響いた。


「ハイハイっと!」


 リベルは軽やかに身を翻し、次々と燻蒸材を手に取ると、まるでジャグリングでもするかのようにリズミカルにダクトへと放り込んでいく。


「ホイホイホイホイ……」


 青い髪を揺らしながら、楽しそうに作業を続けるリベル。その超人的な手際の良さに、ユウキはただ呆然と見入るしかなかった。人間には不可能な、機械ならではの正確さと速度。


「……最初っからリベルに頼めばよかった……」


 ユウキの呟きに、リベルの目がきらりと光る。


「ふふん! ざっとこんなもんよ!」


 得意げに胸を張ると、さらに調子に乗り始めた。


「ホレ! ホレ! ホレ!」


 くるくると宙を舞いながら、まるでサーカスの演技のように燻蒸材を投げ始める。青く光る腕の軌跡が、薄暗い空間に幻想的な模様を描いていく。


「うわぁ! そんなことしなくていいから……」


 ユウキは冷や汗を垂らしながら、ハラハラと見守る。


「大丈夫だってぇ! きゃははは!」


 興に乗ったリベルは、最後の一個を膝に乗せる。そして、美しいフォームで脚を振り上げた。


「シューート!!」


 サッカーボールを蹴るような完璧な動作。だが、燻蒸材はボールではない――――。


 パン!


 乾いた破裂音と共に、燻蒸材が空中で爆発する。白い煙が、花火のように四方八方に飛び散った。


「ぐわぁ! だから言わんこっちゃない!」


 まともにカケラを喰らってしまったユウキは頭を抱えながらしゃがみこむ。マスクをしていても、目がしみて涙が出てきた。


「ゴメンゴメン! うわわわ……」


 リベルは慌てて煙の中を飛び回り、散らばった破片を集め始める。その姿は、いたずらがバレて慌てる子供そのものだった。集めた破片を、急いでダクトへと押し込んでいく。


「そんなんで……いいの?」


 ユウキは疑わしげな目で、リベルの雑な処理を見つめる。


「ガ、ガスは余裕を見て多めに準備したから大丈夫だってぇ……」


 リベルはキョロキョロと視線を泳がせながら、苦し紛れの言い訳をする。


 そのまるで子供のような様子にユウキはつい笑ってしまった。


 最新鋭のアンドロイドとは思えない、あまりにも人間臭い失敗。だが、それがかえってリベルを身近に感じさせた。


 完璧ではない、どこか抜けている。それが、彼女の魅力なのかもしれない。

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