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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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32. 不倶戴天の敵

 瓦礫だらけの都心の廃ビルに、月明かりが差し込んでいる――――。


 ユウキとリベルは次の作戦をどうするかアイディアをぶつけあっていたが、いい案がまとまらずにすでに夜は更けていた。窓の外では、遠くオムニスの高層ビル群が無機質な輝きを放っている。まるで巨大な墓標のように、夜空に聳え立つ光景は美しくも不気味だった。


 疲れ果てた面持ちでため息をつくリベル。その表情には、珍しく憂悶(ゆうもん)の色が浮かんでいる。


「二人じゃ無理ね。いくら私が強くても、それだけじゃ黒幕を引っ張り出せないわ」


 リベルは肩をすくめ、青い髪を(うれ)いを帯びて揺らした。その仕草には、初めて見せる弱音が滲んでいる。


「そうだよねぇ……。黒幕を捕まえるには、仲間が要るよね」


 ユウキはうなずきながら、空中に投影されたオムニスタワーの設計図を見つめていた。青白く浮かび上がる複雑な警備システムが、二人の無力さを浮き彫りにしているかのようだった。


「一般人じゃ役に立たないわ。むしろ足手まといになるだけ」


「だったら……レジスタンス……しかないよね」


 いまだにオムニスの支配に抗い続けるレジスタンス『フリーコード』。暗躍する彼らなら、この戦いに力を貸してくれるかもしれない。


 しかし――――。


 リベルは元々レジスタンス殲滅用のアンドロイド。多くの仲間の命を奪い、希望を打ち砕いてきた存在。何人もの仲間を殺してきたまさに不倶戴天(ふぐたいてん)の敵であるリベルを、彼らが受け入れてくれるだろうか――――?


 ユウキは深い逡巡(しゅんじゅん)に沈む。正義のために戦う者同士でありながら、血塗られた過去が立ちはだかる現実の重さに、胃が痛むような思いを覚えた。


「変装してたら分からないってぇ。きゃははは!」


 リベルはクルクルッと宙を舞い、青白い光に包まれると、まるで魔法少女の変身シーンのように黒髪の女子高生になって出てきた。光の粒子が舞い散る中、その姿は現実離れした美しさを放っている。


「ほぅら、もう大丈夫。くふふふ」


 リベルは楽しそうに笑うが、宙に浮かぶ少女というだけでバレてしまうだろう。


「そんな簡単じゃないって……」


「大丈夫だってぇ。いざとなったらレジスタンスを制圧して部下にしちゃえばいいって!」


 ユウキは能天気に笑うリベルをジト目で見た。その言葉の軽さに、これまでの彼女の(ごう)の深さが垣間見える。


 とはいえ、仲間が必要な以上、彼らと交渉はせざるを得ない。運命の糸は、否応なく二つの敵対する存在を結びつけようとしていた。


 はぁぁぁ……。


 ユウキはチクチク痛む胃を押さえながら、スマホ画面を操作してレジスタンスへの最新の接触方法を探していった。パシパシと画面を叩く音が、静寂に沈むビルの中に小さく響いている。


 月は静かに昇り、二人の影はゆっくりと動いていった。


 深夜のネットワークを通じて送った接触要請。暗号化された通信の向こうから返信は驚くほど早く届いた。画面に浮かび上がる文字が青白い光を放っている。


 廃棄(はいき)された地下鉄、大手町駅跡での接触。時刻は明朝六時――――。


「マジかよ……」


 大きくため息をつくユウキ。もう二時を回っているのだ。時計の針が容赦なく刻む時間に、疲労が一気に押し寄せてくる。


「いいじゃない、善は急げよ!」


 眠らなくてもいいリベルは気楽にそう言うと、宙をくるりと回った。薄暗い部屋の中で青い光をまとった髪が鮮やかな軌跡を描く。


「人間は寝ないと死んじゃうの!」


 疲れた身体を引きずるように椅子を並べ、簡易ベッドを作りながら、ユウキはリベルをジト目で見た。


「あら、大変ねぇ。私は寝なくても元気、げーんき! くふふふ」


 リベルは手のひらで口元を隠しながらいたずらっ子の笑みを浮かべた。その無邪気な表情に、ユウキは思わずクスッと笑ってしまう。


「もう寝るから静かにお願いね」


 ユウキは椅子の上にゴロンと寝転がる。キィキィと錆びた金属の軋む音が、静寂を切り裂いた。


 ゴツゴツとして寝心地は悪いが、これまでの疲労が一気に押し寄せてくる。全身の力が抜けていき、意識が薄れ始める。


「ふぁぁ……。五時には起こして……」


 ユウキは自分の腕を枕に目を閉じた。暗闇の中で、心臓の鼓動がゆっくりと落ち着いていく。


 生と死が交錯した戦いを超え、激動の一日が終わる――――。


 薄暗い廃ビルの会議室で、ユウキはあっという間に睡魔に飲み込まれて行った。穏やかな寝息が静寂の中に響いている。その寝顔は、まだあどけない少年そのものだった。


 そんなユウキを見つめるリベルの青い瞳に、(いつく)しみの色が宿る――――。戦闘用に設計された人工知能でありながら、その表情には母性的な温かさが滲んでいた。


 ふふっ……。


 笑みを浮かべたリベルは、まだあどけないユウキの頬に軽くキスをすると、サラサラと自分の身体を分解させていった。無数の光の粒子が、月明かりに輝きながら舞い散る。一粒一粒が星屑のように煌めき、幻想的な光景を織りなしていく。


 キラキラと輝きながらカーテンのような大きな布へとメタモルフォーゼしていくリベル。ナノマシンの一粒一粒が、少年を守るという意志を持って再構成されていく――――。その過程は、まるで愛そのものが形を変えて現れたかのように美しかった。


 やがて変身が終わると、毛布となったリベルはそのままユウキの身体の上に覆いかぶさっていった。柔らかな温もりが、眠る少年を優しく包み込む。


 月光が差し込む壊れた会議室で、淡い光を放つ毛布が少年を暖める――――。その輝きは、まるで母が我が子を守るように、静かな愛情に満ちていた。



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