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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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31. 甘美な温もり

 脳裏を横切る【死】――――。


 目の前をグルグルと回る走馬灯。過ぎ去った日々の光景が、まるで古いフィルムのように流れていく。


 あの日、帰ってこなかった両親、唯一の癒しだったケンタの笑顔、職員室でで嫌な顔をする教師たち、ゴミのような授業を抜け出して見た広大な瓦礫の街、そして……リベルの柔らかな唇――――。ユウキはそっと自分の唇に触れてみる。


「僕の人生……言うほど悪くなかった……かな……」


 ユウキは高層ビルのガラスに映る落ちゆく自分を静かに眺めていた。地上の道路が、刻一刻と近づいてくる。


「もっと……リベルといろんなこと……したかったな……」


 暗澹たる人生にいきなり現れた燦然と輝く流星リベル。彼女が全てを変えてくれた。灰色だった世界に、鮮やかな色を描き込んでくれた存在。


 だが、それももう終わり――――。


 大きくため息をついた。視界が、涙で少しだけ滲んでいく。


 と、その時だった――――。


 青白い閃光が瞬き、一条の光が摩天楼を切り裂く。


 へ……?


 直後、眩しく柔らかい温もりがユウキの身体を包み込んだ――――。


 光の中から伸びた細い腕が、ユウキを優しく抱きしめる。


 え……?


 そしてブワッと広がる、華やかで甘酸っぱい香り。それはユウキの記憶の奥深くに刻まれた、リベルの匂いだった――――。


「リ、リベル……?」


 青白い輝きが収まってくると、そこには等身大のリベルの姿があった。陽の光に照らされた横顔が、(はかな)げな美しさを放っている。


 リベルは何も語らず、憂いを帯びた表情でそっとユウキに唇を重ねた。柔らかな吐息が頬を撫でる。


「ん、んむっ!」


 突然の出来事に、ユウキは目を見開いた――――。心臓が激しく鼓動を打ち始める。


 ぷっくりとした柔らかい唇……そして、温かな舌がユウキの唇を撫でた。甘美な温もりが全身を包み込んでいく。


 絶望の底に訪れた鮮やかな希望――――。


 ユウキは震える手でギュッとリベルを抱きしめ、ただ可愛い舌を追った。


 しかし――――。


 すぐにリベルは離れてしまう。


 え……?


「ふふふっ。お疲れちゃん! 逃げるよ!」


 碧眼を輝かせ、無邪気な笑顔を見せるリベルには、先ほどの切なさは微塵も残っていない。


 あ、あぁ……。


 ユウキが呆然(ぼうぜん)としながらうなずくと、リベルはユウキを背負い、全身に力を込めた。小さな体から、青白い光が溢れ出す。


 はぁぁぁぁ!


 一気に加速するリベルの体が、青い光跡を描いていく――――。摩天楼に、一筋の光の軌跡が刻まれる。


 ヴィィィン! ヴィィィン!


 超高層ビル群に警報が木霊する中、リベルはグングン高度を上げていく。冷たい上空の風が二人の頬を打った。


 途中、(あか)に輝く戦闘アンドロイドが下方から襲いかかってきたが、リベルは(てのひら)から放った青白い光弾で次々と撃墜していく。破壊された機体が、火花を散らしながら落ちていった。


 更に加速していくリベル。雲を抜け、もはや追手の姿も見えなくなっていた。


 風に揺れる青い髪が、ユウキの頬を優しくくすぐる――――。


「もう、ダメかと思ったよ……」


 ユウキは大きく溜め息をつく。ようやく緊張が解け、全身から力が抜けていった。


「ふふっ。ちゃんと逃げ方は考えてあったんだから大丈夫だってぇ」


 リベルの声には、どこか悪戯(いたずら)っぽい響きがある。


「えっ!? 最初から飛び降りる計画だったの!?」


「くふふふ。計画通り」


 リベルは小悪魔のような笑みを浮かべる。表情はどこか誇らしげである。


「最初っから教えておいてよぉ!」


「あくまでプランBだからね。良く跳べました。ふふっ」


「もう……」


 ユウキは大きなため息をつくと振り返り、割れた窓から今も煙を上げ続けるオムニスタワーを見つめた。


「結局黒幕に逃げられちゃった……」


 苦労してたどり着いたと思ったらただの分身だったという事実が、ユウキの胸に重石のように沈んでいく。これまでの戦いが、全て無駄だったような虚しさが押し寄せた。


「一発で成功させようだなんて贅沢だぞっ! えいえいっ!」


 リベルはユウキの頬を優しくつねった。


「そ、そう……だよね……」


 ユウキはキュッと口を結ぶとゆっくりとうなずく。人類を救う壮大なミッションがそう簡単に決まるわけはないのだ。


「オムニスタワーの内部にハッキングツールを放ってあるから次は成功させるわよ! くふふふ」


 リベルは不敵な笑みを浮かべた。瞳の奥に、確かな自信が宿っている。


「さ、さすがリベル!」


 苦い第一ラウンドではあったが、決して無駄な戦いではなかったのだ。敗北の中にも、次への希望が灯っている。


 ユウキはそう思い直し、リベルの背中に顔を埋めた。温かさが、疲れ切った心を優しく包み込んでいく。


 雲に落ちる二人の影が静かに進んでいった。

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