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リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~  作者: 月城 友麻


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22. 四頭身フィギュア

「そんなのドカーンってさ、ボコボコにぶっ壊してから乗り込めばいいのよ!」


 リベルは午後に一発ぶちかましたことに自信をつけている様子だった。


「でも、そんなことしたら逃げられちゃうし、多くの人が傷ついたりするよね?」


 ユウキはリベルの力任せのプランに不安を覚えた。人命を軽視する彼女の考えに、人間としての良心が痛む。


「やってみて失敗したら、また考えたらいいって! きゃははは!」


 能天気なリベルにユウキは口を尖らせた。こういうところがAIなのだ。


「死者が出たら取り返し付かないんだからさぁ……」


「そんなの、あんなところにいる方が悪いのよ!」


 リベルはムッとした表情で噛みついた。


 確かにAI側に与している人間にある種の非はあるだろう。だが、だからといって傷つけていいのだろうか? 甘さかもしれない。でも、ただの高校生なのだ。最初からその選択は避けたかった。


「いや、それでも殺すのはやりすぎだって!」


「じゃぁどうすんのよ!」


 ピョンと跳び上がり、くるっと回ったリベルは腕を組み、ジト目でユウキを見下ろす。


「潜入……できないかな?」


「潜入!? 言っておくけど僕の身体はゲートをくぐれないわよ? ユウキが行くの?」


 リベルの声には呆れたニュアンスがこもる。何のスキルも戦闘力もないユウキが潜入などしたらすぐに詰んでしまう。


「く、くぐれない……のか……。うーん、地下通路とかないの?」


 ユウキは渋い顔で首をひねる。


「映画じゃないんだから、そんな都合のいい通路なんて無いわよ!」


 リベルはため息交じりに首を振る。


「えーー……」


「だからぶっ飛ばしちゃえばいいのよ!」


 リベルはニヤッと笑うと碧眼(へきがん)を戦意に燃やして輝かせた。


「いやいやいや……。もう一度冷静に考えよう。リベルはなぜ、ゲートを通れないの?」


「それは……」


 この晩、二人は夜遅くまで激論を交わした。少年の慎重さと、アンドロイドの大胆さが、部屋の中で火花を散らす。時に声を荒げ、時に深く考え込みながら。


 窓の外、漆黒の夜空に綺麗にライトアップされて浮かぶ未来的な巨大建造物オムニスタワー。それは威圧(いあつ)するように街を睥睨(へいげい)していた。


 月が街を照らす中、二人の密やかな作戦会議は深夜まで続く。時折聞こえる夜風の音が、彼らの声を優しく包み込んでいく。人間の少年とアンドロイドの少女――世界の命運を握る奇妙な組み合わせが、静かな夜に溶け込んでいった。



        ◇



 一週間後――――。


 曙光(しょこう)が東の空を薄紅に染める中、ユウキは駅前のロータリーで運命のバスを待っていた。胸ポケットにはフィギュアサイズに小さくなった四頭身のリベルが、まるで遠足へ行くように楽しそうに鼻歌を歌っている。


 手のひらサイズに縮小された彼女の青い髪と碧眼(へきがん)は、小さくとも鮮やかな輝きを放っていた。


 著名なギタリストとして偽装されたユウキの心臓は、早鐘を打ち続けている。ギターなど弾いたこともない自分が、オムニスタワーのパーティー演奏者として潜り込む――あまりにも無謀な賭けに思えた。


「くふふふ、そんな緊張しなくたって大丈夫だってぇ」


 胸ポケットからはのん気な可愛らしい声が聞こえてくるが、その緊張感の無さがユウキをさらに不安にさせる。


 やがて朝もやの向こうから現れたマイクロバスに乗り込むと、薄暗い車内には重苦しい空気が漂っていた。それぞれが何かを抱え込んでいるような、疲れ切った雰囲気。窓の外に流れる風景を見つめる視線の奥には、諦めと微かな希望が入り混じった複雑な感情が宿っている。


 バスは多摩川の大きな橋を静かに越え、東京湾横断道路のトンネルへと潜っていく。薄暗い照明の中、車内に流れる影が乗客たちの疲れた表情を際立たせていた。


 いきなりトンネル内でバスが止まる――。


 見れば、トンネルの待避所にある青緑色の巨大な金属扉がズズズズと腹に響く低音を発しながら開いていく。その重厚な扉は、まるで異世界への入り口のような威圧感を放っていた。やがて秘密の通路が姿を現すと、バスはその中へと滑り込んでいく。


 そこはガラス張りの海底トンネルとなっていて、蒼穹(そうきゅう)の世界が突如として目の前に広がった。太陽の光がカーテンのように水中に踊り、金色の筋となって海底へと降り注いでいる。なんと東京湾を海中から眺められる構造になっていたのだ。


 ガウディを思わせる有機的なトンネル構造に、大きさの違う曲面ガラスがはめられた芸術的な造形――一つ一つが違う形の施工がされていて、まるで自然の樹木が成長したかのような美しさを醸し出している。魚の群れがスーっと通過していく様は、まさに竜宮城への入り口そのものだった。


 ただの通路をアートの領域まで昇華させた黒幕の狂気じみた完璧主義に、ユウキは身震いを覚える。


 地上に出ると、ミズバショウのような独特な造形のオムニスタワーが威容を誇っていた。数百メートルもの高さへラッパ状に開いていく姿は、まさに未来都市を象徴する。


 サグラダファミリアのファサードを思わせる精緻な彫刻で埋め尽くされた正面玄関――一つ一つの彫像が物語を語りかけるように、深い陰影を宿している。


 しかし、彼らが向かうのは薄暗いバックヤードだった。光り輝く正面玄関とは打って変わって、質素で機能的な通路が一行を待ち受ける。


 ついにやってきた敵の総本山オムニスタワー。ユウキは何度か大きく深呼吸を繰り返し、バスを一番最後に降りたのだった。



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