【9話】間違い ※ルーファス視点
ルーファス・ゼクシオンは、昔から令嬢が大の苦手だった。
名家であるゼクシオン侯爵家に生まれたルーファスは、非凡な男だった。
頭脳明晰で、魔力強度も『200』と高い数値。さらには、顔立ちも整っていた。
そのおかげで、昔からたくさんの令嬢たちに声をかけられてきた。
「今度お食事をしませんか?」「ぜひ私の家に遊びに来てください」「このドレスどうでしょう? 似合っています?」
しかしルーファスは、彼女たちにまともな対応をしたことがなかった。
「私に話しかけないでください。不愉快です」
と、そんな風に冷たい言葉であしらってきた。
声をかけてくる令嬢は、そのすべてが高飛車なお嬢様。
自分のことしか考えていないような女だった。
欲にまみれたそんな彼女たちのことが、ルーファスは大嫌いだった。
一言だってまともに会話したくなかった。
「今年の新規生徒会メンバーは、シンシア・セルスタルとカトレア・ラジェンドラ。この二名だ」
アルゼからそれを聞いたとき、ルーファスは最悪の気分だった。
(カトレア・ラジェンドラ……あの傲慢女が生徒会に入るのですか)
高飛車なお嬢様しかいない貴族令嬢の中でも、カトレアは群を抜いてワガママだと有名だった。
ルーファスが嫌いな女の、代表格のような人物だった。
そんな女と放課後の時間を共有しなければならないことが、憂鬱でしょうがなかった。
しかし、実際のカトレアは思っていた人物とはまったく違った。
物腰柔らかで、非常に丁寧。
そして、誰に対しても優しい。
クラスメイトであるシンシアにだけでなくテキトーな性格をしているセシルにも、嫌な顔一つせず優しく仕事を教えていた。
ワガママや傲慢さなんてものは、いっさい感じない。
聞いていたのとは、まったく正反対の人物だった。
しかしルーファスは、簡単には騙されなかった。
(本性を隠しているだけかもしれません……!)
疑ったルーファスは、ずっとカトレアのことを注意深く観察してきた。
すぐにメッキが剥がれて醜い本性をさらけ出すはず、そんな予想を立てていた。
しかし、二か月近く立ってもカトレアは変わらなかった。
むしろ彼女という人間を知れば知るほど、さらに素晴らしい人物だということに気付いた。
(間違っていたのは私だったようですね)
そんな彼女を二か月見てきたルーファスは、間違いに気付く。
それだけでなく、素晴らしい人格者であるカトレアに心を惹かれていた。
今では話すだけで、胸が高鳴ってしまう。
カトレアに褒められると、どうしようもなく気持ちが舞い上がってしまう。
カトレア・ラジェンドラのことが、ずっと頭から離れない。
四六時中彼女のことを考えてしまう。
こんな感情を抱いたのは初めてだ。
ルーファスはどうしようもなく、彼女に恋をしていた。