【8話】入学から二か月
私がリエルト魔法学園に入学してから二か月。
放課後は毎日生徒会の仕事をしていることもあり、今ではすっかり仕事に慣れていた。
前世ではOLとしてバリバリ働いていたので、その影響もあるのかもしれない。
そんな私は今日も、生徒会室の自席に座って書類仕事をこなしている。
「カトレア様。少しお伺いしたいことがあるのですが」
シンシアが困り顔で、仕事のヘルプを求めてきた。
シンシアはまだ、仕事に慣れていない。
今みたく私にヘルプを求めてくることが、ときどきあったりする。
私はそれに笑顔で応えていく。
推しに頼られるということが嬉しかった。
「ありがとうございますカトレア様! とってもわかりやすかったです!」
シンシアはニッコリ笑顔。
特大の感謝を伝えてくれる。
気持ちいい~!
シンシアからのヘルプならいつでもウェルカム!
遠慮せずに、じゃんじゃん来て欲しい。
そして、私にヘルプを求めてくるのはシンシアだけではない。
「カトレア、この仕事どうやるの~」
シンシアと入れ替わるようにしてやってきたのは、会計のセシル。
なぜか一年先輩である彼にも、仕事を教えることがある。それもわりと頻繁に。
いや、それはおかしいよね? 私より詳しいはずでしょ?
と毎回ツッコみたくなるが、相手は先輩。我慢している。
「セシル。カトレアを頼ってはいけませんよ。彼女の負担になってしまいます」
セシルに注意したのは、副会長のルーファスだ。
最初こそツンツンしていたルーファスだが、近頃は私への態度が変わった。
妙に気遣ってくれるようになり、優しくしてくれるようになった。
うーん、どうしてそうなったんだろ?
私はただひたすらに、生徒会の仕事をこなしていただけだ。
ルーファスのために何かしたわけではない。
どうして私への態度が変わったのか、その理由がよくわからないでいた。
うーん……でも、いっか!
ツンツンしているよりは、優しい方がいいに決まっている。
細かいことは気にしないことにした。
「ありがとうございますルーファス様。ですが大丈夫です。手持ちの仕事は、すべて終わっていますから」
「もう終わったのですか。さすがですね」
処理を終えた書類を持った私は、ルーファスの席へ向かった。
わ! すごい山!
ルーファスの机の上を見てみれば、大量の書類が積み重なっていた。
OL時代を思い出す。少し懐かしい。
書類の山にギョッとしている私に気付いたルーファスが、あぁ……、と声を漏らした。
「これはクラブの活動報告書です。予算が適切に使われているかをチェックしなければならないのですよ」
「なるほど。それでしたら、半分もらいましょう」
この量を一人でさばくのは大変だ。
その仕事なら既にやったことがあるし、私でも問題なく処理できる。
「そうしていただけると助かりますが、よろしいのですか?」
「はい。手が空いてるので問題ありません」
「ありがとうございます。カトレアは本当に気が利きますね」
「ルーファスってさぁ、カトレアにだけ優しいよね」
こちらを見ているセシルが、ニヤリと笑う。
含みのある笑みだ。
「な、なにが言いたいのですか!」
「べっつに~」
顔を真っ赤にしているルーファスをからかうようにして、セシルは再び笑った。
そんな二人を見るシンシアの瞳は、大きく吊り上がっていた。
奥歯を噛み拳を握って、わなわなと震えている。
ルーファスとセシルの仲良さげなやり取りが面白くない、とでも言いたげだ。
それはつまり、どっちかのことが好きってことだよね!
ルーファスとセシル、どっちが本命なのだろうか。
応援するためにも、しっかりと聞きだしておかなければ。
そして、もう一人。
生徒会長のアルゼも二人のやり取りを見ていた。
目を細めて、眉をピクつかせている。
ものすごく不機嫌だ。
え……まさかアルゼも二人のどっちかを狙っているの?
その展開には驚きだ。
さすが裏ルート。
予想していないことが起きる。