【5話】推しと友達になる
翌日、午前九時。
リエルト魔法学園の大広場には、一年生全員が集まっていた。
これからここで、魔法の実技講習が行われることになっている。
「講習を始める前に、皆さんにはまずペアを決めていただきます」
生徒たちの前に出てきた講師が、そんなことを言った。
続けて、その理由を説明していく。
魔法の実技講習は基本的に、二人一組で行われるらしい。
だから最初に、ペアを決める必要があるとのことだった。
ちなみにこのペアは、これから一年間変更できないらしい。
長い間一緒にいるとなれば、いい加減な気持ちで決められない。
クラスメイトたちは、慎重になってペアを決めていた。
そんな中、シンシアに声をかける人間は誰もいなかった。
貧乏な男爵家の出であるにもかかわらず優秀な魔力を持つ彼女は特別で、腫物扱い。そんな人間とは関わりたくない。
クラスメイトたちはみんな、そんな風に思っているのだろう。
反対に私は、かなり声をかけられる。
異常ともいえる魔力強度を持っていることが、みんなの興味を引き付けていた。
「ごめんなさいね」
でも私は、すべて断る。
心に決めている人間が既にいるのだ。
それは私の推し――シンシア・セルスタル。
私は最初からずっと、シンシアだけを狙っていた。
彼女以外の人間とは、組む気なんてさらさらない。
シンシアのところへ向かった私は、片手を差し伸べる。
「一緒に組みましょ!」
「ひとりで困っていた私を見かねて、カトレア様は声をかけてくれたのですね! なんとお優しい……!」
シンシアはいたく感動している。
理由は違うけど、『あなたは私の推しだから!』なんて言っても意味不明よね……。
困惑される未来しか見えない。
だから本当のことは言えない。
ごまかすように笑うしかなかった。
ついに待ちに待った、昼休憩の時間がやってきた!
シンシアの手料理を食べられる!
そんな訳でウキウキの私は、シンシアと一緒に外にやってきた。
昨日と同じ庭園のベンチに、横並びになって座る。
「どうぞカトレア様」
「ありがとう!」
シンシアからバスケットを受け取る。
フタを開けてみれば、たくさんのサンドイッチが入っていた。
どれもおいしそう!
いっぱいあるから悩む……よし、これにしよう!
少し迷ってから、私は卵サンドを手に取った。
「いただきます!」
元気に挨拶をしてから両手で持った卵サンドに、ガブッとかぶりつく。
「う~ん!!」
最高にうまい。
ほっぺたが落ちそうになってしまう。
シンシアはラジェンドラ邸のシェフの味には到底かなわないと言っていたが、そんなことはない。
むしろ私的には、シンシアが作ってくれたサンドイッチがおいしい気がする。
味がおいしいということもあるが、きっとそれだけではない。
推しが私のために料理を作ってくれたという事実がスパイスとなって、さらに旨味を引き立てている。
だからこんなにもおいしいと感じるのよね。
「お口にあったようでよかったです」
シンシアがほっとする。
「私、カトレア様ってもっと怖い人だと思っていました」
傲慢でワガママなカトレアの悪評は、貴族の間では有名だ。
シンシアはそれを知っていたのだろう。
そんな風に思われていたのも当然だ。
「ですが、まったく違いました。カトレア様はこんなにもお優しいのですから。あの……!」
シンシアが私へ顔を向けた。
まっすぐに見つめる。
「私とお友達になってくれませんか!」
よっしゃああああ!
推しにそんなことを言われて、私は大興奮。
テンションが限界突破してしまう。
「もちろんよ!!」
弾みに弾んだで返事をして、シンシアの両手を取った。
ぐいっと顔を近づける。
「カ、カトレア様!?」
シンシアは顔を赤くした。
恥ずかしそうに目線を逸らす。
でも大興奮している私は、それどころではない。
シンシアの表情の変化には、まったく気が付かなかった。
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