【4話】推しとお昼
ふぅぅう! 気持ちよすぎるぅぅう!!
推しに尊敬されるという最高の喜びを味わったことで、快楽物質が脳にドバドバ分泌されていく。
幸福の海に溺れていた。
あぁ、たまらない……。
幸せすぎておかしくなりそう……。
「そういえばカトレア様は、どうしてバスケットをお持ちなのですか?」
あ、忘れてた!
いかんいかん。
シンシアを助けられたことに満足して、本来の目的をすっかり忘れていた。
「一緒にお昼を食べましょう!」
手に持ったバスケットを、ずいっとシンシアへ差し出す。
しかし、
「……ごめんなさい」
断られてしまった。
そんなぁ…………。
とてもつもなくショックだ。
ヤバい。めっちゃ悲しい。
これまでで一番しんどいかもしれない。
性格が破綻しているクソハゲ上司に毎日小言を言われても平気だった私だが、これはダメだ。
辛すぎる。
あんなに尊敬してくれていたのに……なんで?
やっぱり嫌われてるの?
「私うっかりしていて、今日お弁当を持ってくるのを忘れてしまったんです」
なんだそういうこと!
嫌われていると思っていたけど、そうじゃなかったみたい。
「それなら問題ないわよ! 私のを分けてあげる!」
「それは悪いですよ」
「いいからいいから!」
遠慮しているシンシアの手を取った私は、ルンルンと歩き出した。
近くにあった庭園のベンチに、二人は横並びになって座る。
膝の上に持ってきたバスケットを置いた私は、フタをバカっと開いた。
中には、シェフが作ってくれたサンドイッチが数個入っていた。
とてもおいしそうだ。
そのバスケットを、シンシアへ向ける。
「はい、どうぞ!」
「……ありがとうございます」
シンシアはおずおずと、サンドイッチを手に取った。
いただきます、と小さく呟いてからサンドイッチを口に入れる。
「おいしい……!」
シンシアは瞳を見開く。
「ものすごくおいしいです! 私が作るものよりずっとおいしいです!」
「え、シンシアも料理を作るの?」
「はい。趣味で料理を作っています。でも、ここまでおいしくは――」
「食べたいわ!」
私は体を乗り出した。
顔を赤らめて大興奮している。
推しが作る手料理……なんとしてでも食べてみたい!
シンシアは少し戸惑いながならも、コクリ。
わかりました、と言ってくれた。
「それでは明日のお昼は、カトレア様の分も作ってきますね」
それってつまり、明日のお昼も一緒に食べられるってことだよね!
やっふうううう!
明日も一緒にお昼を過ごせる上に、手料理まで食べられる。
私のお願いは、最高の結果をもたらした。
よくやった私!
素晴らしい成果を上げた自分に、熱い自画自賛を送る。