【3話】推しを助ける
キンコンカーコン♪
昼休憩の鐘が響いた。
これより一時間の昼食タイムがスタートだ。
昼食の入ったバスケットを持った私は立ち上がり、シンシアの席へと向かう。
せっかくゲームの世界にやってきたのだ。
推しと一緒にランチを食べたいと思うのは、普通のことではないだろうか。
しかし、
あれ? いない……シンシアがいないんだけど!
シンシアは席にいなかった。
教室をぐるっと見渡しても、どこにもいない。
しかし、ここで諦める私ではない。
推しとランチするという夢を、そう簡単に諦めてたまるもんですか!
という訳で、捜索開始!
教室を出た私は、シンシアを探していく。
そうして駆けずり回っていたら、やっとのことでシンシアを発見。
校舎裏にいた。
シンシアは一人ではなかった。
数人の女子生徒たちと一緒にいる。
彼女たちは、シンシアと向き合うようにして立っていた。
なんだか怪しい雰囲気がするな……。
向き合う女子生徒たちの口元には、人をバカにするような笑みが浮かんでいる。
友好的な空気はいっさいない。
嫌な予感がする。
「ちょっと魔力が強いからって、調子に乗らないでくださるかしら?」「貧乏男爵家の出の癖に……生意気なのよね!」「少しはご自分の立場をわきまえたらいかが?」
私の嫌な予感は的中してしまう。
飛び交うのは、罵倒の嵐。
彼女たちは寄ってたかって心無い言葉をぶつけて、シンシアをいじめていた。
許せない!
推しがいじめられている。
そんなのを目にしたら、もうやることなんて一つしかない。
「やめなさい! シンシアをいじめる人間は誰であろうと許さないわ!」
シンシアの前に飛び出した私は、ババンと宣言。
いじめっ子たちを強く睨みつける。
あれ、この子たちって全員クラスメイトじゃん。
よくよく見てみればいじめっ子たちは全員魔法学園の一年生――私やシンシアのクラスメイトだった。
きっと、シンシアの魔力強度を見て嫉妬したのだろう。
ってことは、私の魔力強度も知っているんだよね?
ふふふ……いいこと思いついちゃった。
「シンシアに二度と関わらないで。もしこの約束を破るなら、魔法をお見舞いしてあげるわよ!」
いじめっ子たちの顔が青ざめる。
私が叩き出した驚異的な魔力強度を知っているからだろうか、それはもうビビりにビビりまくっていた。
もちろん本気で魔法をぶちかます気なんてない。
思いつきで言ってみた脅しにすぎなかった。
でもいじめっ子たちは、脅しと思っていない。
恐怖と怯えがたっぷりに浮かんだ表情が、その証拠だ。
よし、もう一押し!
口の端を吊り上げた私は、ニタァ……、と笑う。
悪役面の狂気じみた笑みは迫力満点!
悪役令嬢の本領発揮をしてやる!
いじめっ子ったちが悲鳴を上げる。
一目散に逃げ去っていった。
うまくいった! 大成功!
推しのピンチを助けることができた。
悪役面もたまには役に立つもんだ。
「あの……助けていただいて、ありがとうございました」
背中ごしに、シンシアが声をかけてきた。
少し困惑しているような声色だ。
くるりと振り向いた私は、静かな微笑みを浮かべた。
「気にしないで。困っている人がいたら助けるのは当然のことよ」
ここでドヤ顔。
完全に決まった。
一度でいいから、こういうことを言ってみたかった。
前世からの念願が、ようやく叶った気がする。
「……素敵」
小さく漏らしたシンシアは、うっとりとした瞳で私を見ている。
表情に浮かんでいるのは、たくさんの尊敬だ。