【26話】限界!!
ルーファスが去った後には、シンシアがきた。
手を取り合って、一緒に踊っていく。
「カトレア様は私の人生を明るく照らしてくださいました。あなたという人に出会たのが、私にとっての最高の幸せです!」
「私もあなたに会えてとっても幸せよ!」
まさかゲームの推しに出会えるとは思っていなかったからね!
異世界転生してよかったー! ありがとう神様!
「でも私は、今の関係から変わりたいって思っています……!」
顔を赤らませたシンシアが、そんなことを言ってきた。
それって友達をやめたいってこと!?
やだやだ!!
焦る。
これ以上になってくらいに、もうめちゃくちゃに焦る。
せっかく出会えた推しとの関係が終わるなんて、そんなの耐えられない。
どうしよう!
どうすればシンシアは私と友達でいてくれるの! 毎月お金を払って今の関係続けてもらうとか!?
「カトレア様とは友達を越えた関係になりたいと思っています!」
よ……よかった。
顔を真っ赤にしているシンシアの対面で、私はものすごく安堵していた。
友達を越えた関係……つまり、親友になりたいってことだよね!
ふー、びっくりした。友達をやめられちゃうのかと思った。
異世界転生してから、まず間違いなく一番焦った。
寿命が十年くらい縮んだ気がする。
「これからもよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ!」
シンシアと笑顔で別れる。
去り際に、これで私がナンバーワン! 、と嬉しそうに呟いていたけど、あれはどういう意味だったんだろう。
「俺が最後のようだな。フィナーレにふさましく、君を楽しませて見せよう」
私のところへやってきたアルゼが、スッと手を差し出した。
そして、ニコリと笑顔を見せた。
うわ、眩し!
輝かしい笑顔は、まるで太陽。
直視した私は、目がくらみそうになる。
すさまじい威力……。
やっぱりすごい美形だ。
そんなことを改めて思いながら、アルゼの手を取って踊り始めた。
「今だから言うが、俺は君のことがものすごく苦手だった。ずっと婚約破棄したいと思っていた。だが、君は変わった」
アルゼがまっすぐに見つめてくる。
「今の君はものすごく魅力的になった。そんな君こそ王太子妃に相応しいと、俺は強く思っている」
熱のこもった言葉を、一つ一つ丁寧に語りかけてきた。
本気の感情がいっぱいに詰まっている。
しかしそれは、私の元へはいっさい届いてなかった。
私は今、それどころではない。
ちょっ……これやばい。
どうしよ……まじでやばい。
ぶとうジュースを飲み過ぎたのか、膀胱がもう決壊寸前だった。
ステップを踏むたびに、ぽちょん、という水音が聞こえる気がする。
今にも漏れてしまいそうだ。
早くどうにかしないと!
そ、そうだ! 魔法を使えばいいんだ!
私には1,000を超える魔法がある。
今の状況を打破できる魔法だって、きっとあるはず!
テレレレン♪
効果音が響く中、探りを入れていく……が。
え……ないんだけど。
求めていたものが、一つもない。
あるとすれば禁呪【世界終焉】を使って、この世界ごと消し去る方法しかなかった。
こうなったら【世界終焉】を――って、そんなもんできるかぁい!
っていうか、マジふざけないでよ!
なんでこんなに魔法があって、ひとつも尿意を解消できないの!
おかしいでしょ!
1,000だよ、1,000!
尿意を消し去る魔法とかあるでしょ普通!
テレレレン♪
あぁん! 煽ってんの!?
ふざけた効果音に激しくイラつくと、ゾワリ……。
猛烈な尿意が押し寄せてきた。
これはもう本気でヤバい。
「カトレア。どうか俺ともう一度婚約を――」
「ごめんなさい! ちょっともう無理!!」
アルゼから手を離して走っていく。
目指す先はもちろんトイレ! もう我慢の限界だった。
「そろそろいけるかと思ったが、まだ内面磨きが足りないのか……。頑張らなければ!」
決意を固めるアルゼの言葉は、まったく届いていなかった。




